第14話 いつもの音楽
いかつい店主にこう告げられる。
「てめぇみたいな怪しい奴に売るものはねぇよ。さっさと店から出ていきな」
リンが怒り顔ですかさずにつめよった。
「んだぁその態度、まともな接客ができねーのか!」
「まともな客なら接客するさ。そこのヒョロ長い男……麻袋をかぶっているだけには見えねぇが?」
「うっ……」
「ふん、呪いでもかけられたか? 呪術は専門外だがな……一方的な呪いはないと聞いているぞ。そこの男がただの被害者だなんて思えねえな。何者だ?」
いかつい店主がそう聞いてきたので、リンはしぶしぶ答える。
「……今は記憶喪失だってよ」
「はっ、綺麗なお嬢ちゃんはそれを信じているわけか」
リンは侮辱と羞恥で顔面が真っ赤になった。
TSしたばかりの子にそれはキツイと思いつつも、俺はリンをなだめる。
「ま。ま。落ち着けって、リン」
「だがよ……!」
リンは双剣をぬきかけていたが、アルルが心配していたので怒りをおさめた。
「…………シャクヤは腹が立たないのかよ」
「腹は立つさ。でも俺もただの呪いじゃないとは思っているし」
「……だからって」
「俺の代わりに怒ってくれてありがとう」
リンは「別にそんなんじゃない」と言って、そっぽを向いた。
本当に優しい子だと思う。
店主の物言いはアレだが、【未だ名もなき鎧】を手に入れるときに容姿が変わるとシステムメッセージらしき警告は受けていた。なにかしらの迫害も覚悟をしていたので、いちいち腹を立てるつもりはない。
簡単に怒りたくないってのもあるが。
……どうにも騎士になったとき、気が昂りすぎるんだよな。
血がざわつく感じもして、漫画的な解釈をするならば【迂闊に手を出してはいけない禁忌の力】っぽいんだよな。騎士の力。
あの力にはこれからも頼るが、迂闊に怒らないに越したことはない。
いやまあすぐにブチギレるキャラでもないけど。
と、いかつい店主が厄介そうに手をふってくる。
「ふん……さっさと出ていけ、商売の邪魔だ。だいたいお前らのようなすぐ死んじまいそうな馬鹿冒険者どもに武器は売りたくねーんだ」
「――――撤回しろ」
二人をけなされて、自分でも驚くぐらい冷たい声がでた。
空気が驚くほどに軋む。死の気配がかすかに漂っていて、アルルもリンも驚いたように俺を見つめている。
ハッと気づいた俺は、努めて明るい声で言う。
「少し強く言いすぎた。でも、アンタも言いすぎだぞ?」
「そ、そうだな。わ、悪かった……」
いかつい店主は顔面蒼白になっていた。
俺から気まずそうに視線をそらし、しばらく考えこんでいたが重い息を吐く。
「……近頃、風の調子が悪くてな」
「? 悪いとダメなのか?」
「この大地の風は恵みも与えるが、不吉をも呼び寄せちまう。気流が乱れたのか……近頃モンスターが活発化していやがるんだ」
それは、オークとゴブリンもだろうか。
俺たちが不安な顔でいたからか、いかつい店主は見据えてくる。
「腕に自信がないなら去ったほうがいい。……町の奴らもピリピリしているしな」
俺がじろじろと見られていたのはそのあたりも理由か。
リンが唇を尖らせる。
「アンタみたいにか?」
「ああ、そうさ。どうしても武器が欲しいなら箱の安物から持っていきな。……それならくたばってゴブリンに奪われても脅威にはならんだろ」
俺たちに武器を売らない理由はそれもあるようだ。
ゴブリンは作品によっては冒険者の武器をうばって強くなるしな。
しかしこんなイベントあったか???
ゲームのメインストーリーでも精霊の声が薄まっているという話はあった。でもそれは母親と比較して、アルルが精霊使いとして未熟なだけのニュアンスだったと気もするが。
俺がボンヤリしているあいだに、リンがすたすたと木箱に歩みよる。
ガチャガチャと適当なものを見繕いはじめた。
「シャクヤ、得意な獲物は? 安物でも丸腰よりマシだろ」
「切り替えが早いな。特にないよ」
「どうすっかね、あの速度を売りにしたほうがいっか。ほら、よさそうな短剣」
リンは木箱から鞘付き短剣を取りだして、俺に放りなげる。
俺はつかんで【装備】しようとした。
その瞬間、手からバチバチと電撃がほとばしり、部屋中がまばゆく照らされた。
「な、なんんぞおおお⁉⁉⁉」
俺がつかんだ短剣は消し炭になる。
漕げた匂いが充満した。
た、短剣が消し炭になるってどんだけの熱だ⁉
アルルもリンも目を真ん丸として驚いている中、店主はひきっつた表情で叫ぶ。
「なんなんだお前⁉ で、出て行ってくれよ‼」
そして追いだされた俺たちは、他の店を回ることになる。
武器屋、防具屋、装飾屋と、迷惑にかからないところで安物を試していったのだが。
以下、俺の叫び。
「ふほおおおおおおおおおお⁉」
「なあああああああああああ⁉」
「じょいやああああああああ⁉」
武器も防具も装飾品もすーべーて電撃がほどばしって、消し炭になってしまう。
風の町スケベウイドウに来るまでに俺はナイフで食事をしたし、毛布に包まって寝たりもした。触れただけで消し炭になってしまうことなんてないはずだ。
「そ、そうか……【装備】がダメなんだ」
町の通りで、俺はがっくしとうなだれていた。
落ちこんでいると、アルルが注意深く見つめてくる。
「私が思っているよりずっと強い呪いかもしれませんね……」
「そうみたいだな……」
「風の大地は、呪術に馴染み深い土地とも聞きます。どこかで詳しい方にお話を聞ければいいのですが……」
呪い、か。俺の装備は【未だ名もなき鎧】だけってことなのかな。
RPGでよくある、装備の変更できないゲストキャラみたいな。
悪しき間男を狩っていく分には問題ないが、普通の生活をする分にはかなり困りものだな……。
アルルが俺より深刻そうな表情でいたので、俺は優しく告げる。
「俺のことは心配しないでいい」
「ですが」
「先にリンの装備を見よう。……これ以上目立つと町から追いだされそうだし」
騒がしい部外者をいぶかしむ視線が増えている。
アルルは迷っていたが、「わかりました」と賛同してくれた。
ただ一度行った店は気まずいので、他に場所はないものかと回ってみる。
しばらく歩きまわり、裏通りにボロい武具店を見つけた。
か、看板が外れかかっている……。大丈夫かここ?
しかしリンがあっけらかんに言う。
「ここでいいぜ。案外こういった店のほうが掘り出しもんが見つかるかもよ」
「う、うーむ……リンがそう言うのなら」
エロ同人RPGだと、オンボロ店はエロ展開に発展することが多くてなあ。
まあここで立ち往生しても仕方ないし、入ってみるか。
店内はそれなりに清掃されていた。
が、あきらか流行っている気配はなかった。
太った店主がアルルとリンを見るなり、露骨にいやらしい目つきをした。
「ふ、ふひ……いらっしゃい。可愛いお嬢ちゃんたち」
こいつ、露骨に俺は無視したな?
怪しいが……頭に❤マークがないのでエロ展開につながらない善良な店主か……?
リンが店内を見渡しながら言う。
「オヤジ、女用の軽装鎧はあるか? インナーアーマーでもいいんだが」
「あるよあるよぅ! うんうん、じっくり見ていってよう!」
太った店主はリンの胸をじっくりと見つめていた。
…………この野郎。
いやいや、これぐらいでは怒らない。怒らない。怒らないぞ。アルルとリンに迷惑をかけてはいけないぞ、俺。
「ふひっ、このお店は女物をいーっぱい揃えているからねぇ。気に入るものがあるよぅ」
「お、おう。そうか」
リンはちょっと引いていた。
俺はなんで女物ばかり揃えているんだよとツッコミをいれたかった。
ただこれから二人の側にいるためには、一応無害そうな町民にあれこれと疑うのもよくないか。下手に騎士化したら大騒動になりかないし。
リンはアルルと相談しながら防具を物色している。
気になるものを何点か手にとり、店主にたずねた。
「オヤジ、防具の着心地を確かめたいんだが?」
「うんうん、そこの小部屋で試すといいよぅ」
「じゃ、借りるわ」
リンはアルルを引きつれて、小部屋に向かう。
すると太った店主が粘着質な笑みを浮かべ、この場から立ち去ろうとした。
「……どこに行く?」
俺がそう言うと、太った店主は『あ。まだいたんだ』みたいな顔をしやがった。
「ア、アイテムの品質チェックだよう」
「監視しているぞ?」
「はあーーー? し、失礼な奴だなあ。奥の倉庫に行くだけだから安心しなよ……。へ、変に疑うと衛兵を呼ぶからね? というか君のほうが怪しいし。いいかい? そこで動くなよ。勝手に店のものに触るんじゃないよ?」
太った店主は俺を脅すように言って、そそくさとー奥の倉庫に消えていく。
…………怒らない。怒ってはいけない。
不審なだけで善良な町民かもしれないじゃないか。
そう思っていたのだが。
「へぇ…………いつもの音楽が流れているな」
頭の中で【チャン、チャン、チャンチャンチャー♪】といつもの音楽がながれはじめていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~
エロRPGゲームのいつもの音楽。
知る人ぞ知るし、知らなくても特に困らない音楽。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます