第13話 風の町スケベウインド

 はじまりの草原を北上しながら旅はつづく。


 途中、リンのTSイベントがちょくちょく発生した。


「アルル! ど、どうやって出せばいいんだ……! オレ、我慢していたけど限界でさ!」

「えっとですね! 下腹部に力をこめるように、お、男の人と同じだと思うのですが!」


 眺めのいい美しい草原に、さわやかなー風がふく。

 俺はちょろろーと小水の流れる音を聞かないためにも、離れた場所で耳をふさいだ。


「あー! あーーー! 聞こえない聞こえない!」

「あのさ、シャクヤ! 気持ちはありがてーけど、それやめてくんない⁉」


 そんなこんなでTSイベント『初めてのおトイレ(野外)』をこなす。


 リンもさすがにこたえたようで、ぐったりした表情で草むらから出てきた。幼馴染に面倒みてもらったのも精神的にぐったりときている理由だろう。


 そこに、アルルがトドメをさす。


「……リン君、きちんと拭かないとダメですよ? 大事なところは清潔にしておかないとムレたりかゆみの原因になったりしますので」


 アルルのちょっと生々しいお話に、リンも俺も地面にグロッキー状態で倒れこむ。

 ぐったりしていてもリンの顔は美しく、それがさらに俺の精神をえぐる。


「…………シャクヤー、ってこたえるわ」

「そりゃあな。男の尊厳っていわれているし」

「ははっ、失ったものを取りもどす旅ってのも悪くねーな」

「……物は言いようだな」

「はあ……はやくこの身体に慣れなきゃな」


 リンはそう物憂げにつぶやいた。


 実際、女の子に慣れる前に男に戻ってもらわねばとても危険だ。甘々イチャらぶの件もあるが、なにより美少女になった己の魅力に抗えるものは少ない。


 エロものにおいてのTS化は、ほぼほぼ高確率でメス堕ちだ。

 ここがエロ同人ゲームの世界であればなおさらだろう。


 TS有識者曰く『TS子がみずから男のモノを咥えた時点で完堕ち』らしいが……。


「リン、絶対に咥えるんじゃないぞ」

「……よくわかんねーけど、本気で心配しつつ失礼なことを考えたのはわかった」


 リンはしかめ面でゲシゲシと蹴ってくる。

 その適度な男同士の距離感は、TS美少女としての魅力を醸しだしていた。


 怖いっ、可愛いのが本当に恐ろしい……!


 そんなこんなでTSイベントに怯えつつ、【風の大地】までやってきた。

 風の大地は草原とはうってかわって荒涼としていた。全体的に茶色い。ところどころ緑もあるが、大きな木が少ないように見えた。


 アルル曰く「強風がよく吹くので木々が成長しない」らしい。

 風の大地は場所によっては乱気流が発生しているらしい。


 住むには大変そうだが、そんな場所だからこそ利用できるものがあるようで。


 ――訪れた町では、風車がたくさん動いていた。


「おおっ! 風車がたくさある! ここが風の町スケベウインドか!」


 町の名前に思うところはある。

 ちょっと感動がうすれた感もある。


 だが隙あらばエロ要素をいれてくる世界に、俺のツッコミはもはや野暮なのかもしれない。


 アルルが説明する。


「この大地に住む人は風車を利用して生活しているんです。製粉や排水に利用するだけでなく、風エネルギーを溜めこむことで資源利用しているんですよ」

「詳しいんだな」

「お母さんの受け売りです。私は初めてきました」


 アルルはひかえめに微笑んだ。

 たしか、ゲーム上でも風の大地はそんな設定だったのは覚えている。


 ただ専用エディターでは表現に限界がある。

 その場合、村人に世界観の説明してもらうのがRPGのお約束なのだが。エロRPGプレイ中はプレイヤーの頭の意識がエロに割かれているので、真面目な設定話は頭になかなか入らないんだよな。


 とうらぶも世界観には拘っていた。

 ほぼ同じ舞台の2も、1からマップが進化していた。


 それでも世界の細部まで表現するなんて絶対に無理なわけで、設定はあれどゲーム内に反映されていた記憶はない。


 だから、この世界に人々がちゃんと根付いている姿に驚いた。


 俺が風の町スケベウインドを静かに眺めていると、アルルが不思議そうにする。


「そんなに珍しい光景ですか?」

「……俺の記憶にはないかな」

「シャクヤさんは遠い国の人かもしれませんね。雰囲気が他の人とはちがいます」


 ファンタジーとは縁のない世界で生きてきたしな。

 この身体の記憶もほとんど消し飛んでいるし、異世界冒険記と変わらない。俺の故郷なんてものは……もうどこにもないのだろうな。


 そんなことを考えていると、視線に気づく。


「……?」


 周りの人たちにジロジロと見つめられていた。

 好奇交じりの視線に、俺はハハーンと察する。


「アルル、リン、気をつけろ。二人が可愛いすぎるあまり目立っている」

「か、可愛いだなんてそんな」


 アルルは照れ照れしたが、リンはしらけ顔でいた。


 この世界で美少女であることがどれだけ危険かわかっていないらしい。アルルとはまた違った意味で目が離せないな。


「リン、男だったならわかると思うが……」

「おう、今も心は男だぜ」

「この世はな、一寸先はエロだ。いたるところにエロい罠が仕掛けられている。周りの好奇の視線はすべてエロにつながると思うんだ」

「なんでアンタはエロばかりに気をつけるんだよ」


 リンは一番のド変態はアンタじゃないかみたいな目つきになる。


 くっ……!

 その冷たい視線も、美少女TS化した今ではご褒美になりかねないな!


「だいたいよ。周りの奴らが見ているのはシャクヤだろ」

「えっ⁉」

「麻袋かぶった男なんて怪しすぎんだろ」


 それはそう。それはそうすぎた。


 しかし外したくても頭の麻袋は外せない。

 身体のボロい服は一応脱ぐことはできるのだが、脱ぐときになんかピリピリがするんだよな……。日焼けを剝がしているみたいな。


 もしかして麻袋もボロい服も、俺の皮膚なのかもしれない。


 と、アルルが苦笑する。


「まあまあ、この町まで来たのはシャクヤさんの生活基盤を固めるためでもあります。まず日用品や装備を整えましょうか。兜と鎧があれば外見は誤魔化せそうですし」


 まあ、全身鎧の騎士なれば怪しい感はうすまるかな。

 気合の入りすぎた冒険者感はでるかも。


 とにもかくにも二人のことも心配だが、俺自身もこの世界で生活できるようにならなければいけない。冒険者として稼いでいくにしても、住所不定でステータス画面は壊れているしでまともに依頼が受けられなさそうなんだよな……。


 今の旅道具はアルルとリンのものだし、ずっと世話になるわけにもいかない。


 俺が(比較的)無害な存在だと周囲に認知してもらい、あとはモンスター狩りでどうにか食っていけると思うのだが。


 ただ一つ懸念点がある。

 騎士への変身トリガー『怒りと殺意』だ。


 今は気にしても仕方がないかと、武器屋に俺たちはやってくる。


 ――そして、いかつい店主にこう告げられる。


「てめぇみたいな怪しい奴に売るものはねぇよ。さっさと店から出ていきな」


 いかつい店主が厄介そうに手をふってくる。

 そうして俺は、自分が思ったより厄介な存在になっているのを知る。


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