第12話 慟哭。嘆き。TS
TS。男の子がいろんな事情で女の子化するジャンルだ(逆もあり)。
ジャンルとしては古くから存在する。
水をかぶることで女の子になる漫画によって性癖をゆがまされたクリエーターは多いとも聞く。
おち〇ぽオナホケースよりは、よほど一般的だと思う。
一般ものでTS主人公はたくさんあるし、男の子が女の子に目覚める過程は根強い人気がある。
ただジャンルとしてはやはりニッチ寄りだ。
エロゲーになると絶対数は少なくなるし、エロ同人ゲームだと数はさらに顕著だ。エロ同人ゲーに求められるのは即効性あるエロなので、過程をじんわりと楽しむTSものはちょっぴり相性が悪いのかもしれない。
だが、まったく存在しないわけではなかった。
「オレ……女になってるな」
女の子になったリンは自分の身体をぺたぺたとさわっていた。
おめめはぱっちり、まつ毛は長い。
髪はキューティクルなつやつやで、中性的な顔つきには可愛さも同居している。スレンダーな体型のようで胸や尻の肉つきがよく、健康的美少女だ。
だが、元男だ。
なんで…………⁉ どうして……⁉
予兆なんて一切なかったじゃないか!
「リ、リン君、どうして女の子に⁉」
アルルは面食らったように言った。
「……わかんね」
「昨日まで男の子だったじゃないですか⁉」
「……起きたときから身体が妙に重いし、動きのキレも悪いなーと思ったんだよ」
「気づきましょうよ⁉」
「女になったなんて思わないし」
リンは厄介そうにぽりぽりと首をかいた。
「リン君、なんでそんなに冷静なんです?」
「いや驚いているよ? 驚いているけどさ」
リンは俺に視線を向ける。
俺は地面に四つん這いになって叫んでいた。
「うおおおおおおおおおおおお⁉⁉⁉ どうじでえええええええ⁉⁉⁉ 神よううう! 彼がいったいなにをしたのですが⁉ どうじでええええ、どうじで、かような試練をお与えにいいい⁉」
「オレより動揺している奴がいるから、逆に冷静になったっつーか……」
リンは呆れたように言った。
俺はさめざめと叫ぶ。
「リンんんん! ど、どうじてそんな姿にいいいい……⁉⁉⁉」
「あの森でアンタが呪われたようだし、オレもなにか変なのをもらったのかね」
モリノウラの仕掛けた種が関係あるのか?
ゲームでリンのTS化イベントはもちろんなかった。
俺が介入することで、もしかしたらなにかがズレたのかも。リンの体内に仕掛けられた【種子】は騎士の力でこっそり破壊しておいたが……。
「すまない! すまない! 俺のせいで!」
「別にシャクヤのせいじゃないだろう」
「うぐぐぐ……」
「ま……アンタの呪いが関係してるかもしれねけーど」
「すまないすまないすまない!」
「あー……悪かったって、冗談だよ。オレ、そんなに気にしてねーからさ」
リンは少しかがんで不器用に笑ってみせる。
なんだかすでにTS化したボーイッシュヒロインの一面を魅せてきて、俺はワッと泣いてしまった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおん‼」
「な、泣くほど責任を感じなくても……」
このままじゃ……このままじゃあ……!
アルルとリンの甘々ラブちゅっちゅな営みができない‼‼‼
だって今のリンにはついていない!
穴につながるものがないわけだ! アルルとの嬉し恥ずかし甘々イチャイチャがこのままじゃあ消えてしまう!
だって! 凹凸がなければ人はつながらない‼‼‼
「しかしリン君、すごく可愛くなりましたねー」
アルルはちょっと見惚れながら、リンの髪の毛をさわっていた。
「お、おい、やめろってば」
「髪の毛がさらさら……お肌もきめ細かく、なめらか……。呪いの効果でしょうか? 美の女神さまびっくりの可愛さです」
「なにひとつ嬉しくねーなー」
「女の子のリン君も素敵ですよ」
アルルは性別が変わった幼馴染を気にせず受け容れている。
リンはそんな彼女にこそばゆそうに頬を赤らめていた。
……う……む。悪くはないのか?
俺に百合の素養はないが、今は多様性の時代。
同性同士ぐらいどーんと受け容れるべきじゃあないのか?
凹凸がなくても、精神的に繋がるなら、甘々イチャイチャがそこにあれば……。
「私、妹が欲しかったんですよねー」
「妹ってお前なあ」
アルルとリンは和やかな空気だ。
あ。だめだ。このままだと仲良しお友だちエンドになってしまう。ギャルゲーだったらそれはバッドエンドだ。
それに気づいてしまい、俺はまたもワッと泣いてしまう。
「うおおん! ぜったい! ぜったいに男に戻してみせるからなああああああ!」
「いやさシャクヤ……なんで自分の呪いのときより動揺しているんだよ……」
※※※
ひとしきり騒いだあと、俺たちは遅めの朝食をとった。パンに干し肉を挟んだ簡単なもので、草原に座りながらもふもふと食べている。
パーティーリーダーのアルルが、ごくんと呑み干してから言う。
「私たちの目的を一旦整理しましょうか」
アルルは真面目な表情で居住まいを正した。
「私たちは王都ベニスを拠点にしながら各地方を回るつもりでした。シャクヤさんにもお伝えしましたね」
「アルルは精霊使いとして立派になるために旅をしているんだよな」
「はい。お母さんのような立派な精霊使いになるため、巡礼の真っ最中です」
イノセントブルー1ではアルルの母親が各地方を回り、自然の声を聞いた。
それと同じことをするわけだ。
風・火・土・水。
この地域には四属性の色濃い場所がある。ようはそこでメインストーリーを進めましょうってことなのだが。
ちなみに1は精霊の声を聞くたびに、えちえちイベントが発生する。
神秘的なイベントっぽいのに、なぜえちえちイベントが?
それはエロ同人ゲームだからだ。
アルルは言葉をつづける。
「シャクヤさんの呪いの件もあります。風の声がより聞こえるようになれば呪術への理解が深まりますので、まず風精霊の声を聞こうと思ったのですが」
「俺が反対したんだよな」
「【風の大地】はモンスターがちょっと強いですからね。……シャクヤさんがいれば問題ないとは思うのですが」
俺たちが今いる【はじまりの草原】を北上すれば、風の大地へと繋がる。
俺が加入したことで戦略の幅が広がったので、戦力的には問題ないと思うが。
だが……風の大地には、オークとゴブリンが生息しているのだ。
パイズリモンキーの件もあるし、過激エロは発生しないはず。
ただそれでも二人がもう少し強くなってからのほうがいい。まずは【水の森林】で着実にレベルアップしながら旅を進めたほうがいいと提言した。
「ですので。昨晩までは水の森林に向かうことになっていましたが……」
アルルがリンをちらりと見つめる。
リンはあぐらをかいて座っていた。若干、目のやり場に困るな……。
アルルも気にしたのか目をちょっと細める。
「ダメですよ。リン君、女の子がはしたないですよ」
「んなこと言われてもよう。オレ、女になった意識なんてこれっぽっもないわけで」
リンは頭をぽりぽりとかいた。
外見はとんでもない美少女だが、仕草は男ですごくホッとする。
「今のリン君はすごく可愛い女の子ですからね。もっと周りの視線を気にしないと、お姉ちゃん心配で心配で」
「誰がお姉ちゃんだ誰が。わーったよ、こうすればいいのか?」
リンはぶーたれながら女の子座りする。
俺はまたもワッと泣いてしまった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおん! リンが女の子にいいいい!」
「どうすりゃいいんだっての⁉⁉⁉」
リンは面倒そうに地面にばたんと倒れた。
うぐう……胸のふくらみが悲しい……。わりとありそうだし……。
アルルは困り笑みを浮かべたまま告げる。
「とまあ、リン君も呪われたようなので風の大地に進んでもよさそうですが」
アルルはチラリと俺を見つめる。
その提案はもっともだ。
二人の甘々イチャイチャのためにも早期解決は望ましいが……。
リンのTS化。モリノウラの存在。俺の知っているイノセントブルーと微妙にズレているんだよな……。
オークとゴブリンがもし、過激エロ化していたら……。
と、リンがすくりと立ちあがる。
「オレのことは気にするなって。まずは水の森林に向かおうぜ」
「リン君、本当にそれでいいんですか?」
「いいってば……あっ……つっ……」
リンが痛そうに顔をしかめた。
まさかTS化の影響かと、俺はひどく動揺してしまう。
「だ、大丈夫か⁉ リン⁉」
「あ、ああ……ちょっと乳首が服にこすれて痛かっただけ。服のサイズが微妙に合わなくなっちまっているな」
「行こう‼‼‼ 風の大地に‼」
TS初期イベントに戦慄した俺は、方向転換を余儀なくされた。
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シャクヤの慟哭はCV:藤原竜〇さんで再生してください。
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