第17話 多難

 グラが裏路地にある階段に座りながら廃棄されたゴミを食べていた。味は当然に悪く、酸っぱさと苦さと、不快な味が混ざり合っているものだ。しかしグラはもともと廃品を漁るような生活をしていたこともあってそこまで苦ではない。

 それにANIMAの肉を食べた今ならばほぼすべての味や食感を受け付けることができる。


 ただ殺した男から奪った財布があるため買ってもよかったとも思う。しかし財布をを使うのはどこか気が引けた。常識や倫理といったものが邪魔をしたのだ。そのせいでグラはゴミを漁って食べている。

 惨めだと。租界が潰されて生き抜くために足掻いていたあの頃と同じだと食べながらに思った。そして廃品を口に放り込みながら色々と先のことを考える。まだ何一つとして分かっていない。


 コートのことも、自身の体に起きた変化のことも。そしてこれからどうすればいいのかも分からない。この生存圏はグラのいたところではない。というのも、人類の生存圏は幾つかあり、それぞれが孤立していたりしていなかったり。

 少なくとも、連絡こそ取れるもののANIMAのせいで物資の輸送が困難な場合が多い。

 

 そしてグラは何も知らない。当然だ、この都市に来たことがないのだから。

 この先どうやって生きて行こうかと、そんな不安が頭を巡る。仕事を探す伝手も無い、都市について何も知らない。問題を解決する選択肢の一つすら頭に思い浮かばない。


 グラがそうして道端に座りながら考えていたが、取り合えず動かなければ何も変わらないということで立ち上がって歩き出した。


 ◆


「あの――」

「やれるモンなんかねえよ。あっちに行け」


 何日か、少なくとも三日以上が経っている。泥水をすすり、ゴミを漁って生きているが厳しいことには変わりない。もうなりふり構っていられず、屋台で何かを焼いている店主にグラが声をかけようとしたものの、取り付く島もなく追い返される。

 何かの手伝いをして稼ぐ、食べ物を貰おうにもこうも断られるのならばグラに出来ることは何も無い。このままでは餓死するか、力尽きて倒れたところを襲われる。すでに満身創痍。昨日から何も食べていない。

 

「はぁ……」

 

 思わずため息をきたくなる。精神的な疲労と肉体的な疲労。スラムは危険だ。寝る場所も無い。つい前日はANIMAが襲来して、すぐ近くにいた浮浪者が食われた。

 グラは運よく逃げ切ることができたので良かったが、防衛隊が来なかったら死んでいただろう。少なくとも今羽織っているコートが防御してくれればANIMAが来てもグラが死ぬ可能性は低い。

 しかし男を殺した時からコートや服が自然に動くことは無かった。というより、今は形状を変えてコートからボロ布のような形になっている。これはグラが意識した結果として姿を変えただけだが、レイの体力が減っていくのと同じように、服もエネルギー不足から知らないが無理に動くことができないように感じられた。

 

 感じられた。そう、あくまでも感覚的な話だ。グラはコートについて何も知らないし、動かないのには何か別の理由があるのかもしれない。少なくとも、前のように緊急時に服が姿を変えてグラを守ってくれる可能性は低い。

 現に、裏路地で寝ていた時に絡まれた男達にコートは反撃を示さなかった。グラは運よく逃れることができたが、それでも死にかけた。無駄に体力も消費してしまった。

 

 いざとなれば拳銃がある。しかし弾数は限られている。無駄に使うことは出来ない。

 すると、そんな風なことを考えながらグラが歩いていると鼻を飯の匂いが刺激した。

 匂いに釣られるようにしてグラが歩く。大通りを抜け、横道に入り、裏路地を進みまた大通りに出る。そして開けた場所に辿り着くとそこには大釜と、その前に並ぶ人々が見えた。


(炊き出しだ……)


 租界でいつも見て来たから目の前で何が行われているのかすぐに分かった。グラは僅かに表情を緩ませると、喜々とした表情で列に並んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ANIMA 豆坂田 @mamesakata

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ