第三章〜4(完)

 わたしたちがおそおそる出ると、そこには一人の男が立っていた。

「ビームを無効化むこうかしたのは、貴様きさまらか!」

「そうだよ! あんなのがあったら攻撃こうげきできないもの!」

「何でだ? 何で電脳精霊でんのうせいれいの味方をするんだ! うんざりしていたんじゃないのか!」

「うんざりだよ! ゲームの続きはしたいし、動画とか漫画まんがみてゴロゴロしたい!」

 わたしは、創斗そうとくんや詩絵留しえるみたいにコンピューターに詳しくもない。たすくみたいにスポーツに打ち込んでもない。ピアノは習っているけど、マーキュリーほどでない。

 他の四人のようにすごいところなんてないわたしは、ダラダラするのがちょうどいい。

 でも、はるちゃんの涙を思い出す。金子さんの叫びも思い出す。

「わたしは他の人にも好きなことしてもらいたいんだよ! 電脳悪霊とかハクティビストJとか、そんなの気にしないで!」

 わたしはステッキを振り上げる。

「だから、わたしは倒す!」

「ならつぶすしかないな」

 ペトヤが両手を広げると、小型こがたの二体が飛びかかってくる!

 わたしと丞はシールドをはる。

「丞が本体をたおそ! マーキュリーと私であとの二台を無効化したいけど……」

まかせろ! 勝利の歌だ!」

 わたしのシールドの後ろにいるマーキュリーは、キーボードで勇ましい伴奏を弾く。

「ああそうだ! 俺たちは戦士だ! 勝利のために、眼前がんぜんてき蹴散けちらせ!」

『こっ、これは戦闘せんとうアニメにインスピレーションを受けたマーキュリーが作った曲ね!』

 詩絵留くわしい……。

 マーキュリーの声と共に、いくつもの衝撃弾しょうげきだんが素早く飛び出した。二人で無効化しようと思っていた二体にリズミカルにぶつかっていき、向こうはひるむ。

 ……何か思ってたよりすごい。いいことなんだけど、マーキュリーが何がどこまでできるのか分からないのはものすごくネックだ。

 かといって、マーキュリーを引かせたところで、わたしが二体を同時に攻撃できるわけでもないし、丞に早いとこ動いてもらおうかな。

「丞、タイミング見て行っちゃって!」

 丞がシールドを弱めて一歩み出そうとしたけど、マーキュリーの衝撃弾が襲ってくる。

「うわっ」

 わたしがシールドで防ぐと、上手い具合に跳ね返った。

 それを見た丞は、はっとして飛び出し、衝撃弾を右足でり上げる。

「てやあ!」

 光が強くなった衝撃弾はそのまま本体へとぶつかっていく。

「なるほど!」

 わたしも創斗くんにお願いしてから、ステッキを横に振り回す。

 威力は弱いけど、幅広い衝撃波が、マーキュリーの衝撃弾にまとわりつく。

「丞! 衝撃弾はわたしが引き受けるから、とどめお願い! 詩絵留、エネルギー充填じゅうてん! マーキュリーはそのまま歌い続けて!」

 四方八方しほうはっぽう。数え切れないほどの光の球がわたしの周りを飛んでいる。

 威力いりょくは弱めでも範囲は大きめに調節したフリーズショットで、敵をひるませる。

 反撃はんげきり返そうとするペトヤの動きは一瞬いっしゅんだけ止まった。

 丞はそれを見逃みのがさない。ゴールめがけるフォワードのように、助走をして飛び上がる。

「いけー! フリーズシュート!」

 かけ声と共に、丞が右前足をけり出すと、身長くらいの光の球が本体へと向かった。

「こしゃくな!」

 ペトヤがステッキを振り上げるのを、わたしは弱いけど素早い光線をはなって食い止める。

「進め進め進め!」

 マーキュリーがコールすると、丞の放ったシュートはさらに力を増す。

 光がペトヤを包み込む。

「うぎゃあああああぁぁぁ!」

 耳をつんざくような悲鳴ひめいと共に、ばされるような暴風ぼうふうがわたしたちをおそう。

「いけー!」

 無我夢中むがむちゅうに、三人で一緒に叫んだ。


 その後、創斗くんと詩絵留がやってきて、後始末あとしまつを始める。

「仲間たちがハクティビストJのアジトを見つけて、君たちを救出きゅうしゅつしたと連絡があったヨ。こちらでたおされておとなしくなったペトヤもとらえた。もう、いつ戻っても大丈夫」

「そーなんだ。……ところでどれくらい時間がたったの?」

「んー、今15時カナ」

 それを聞いたマーキュリーがあわてる。

「しまった! ライブにすっかり遅刻ちこくだ!」

「……ライブどころじゃなかったものね」

「アジトはZ駅からそんなに離れてなかったケド、どうする? やっとく?」

 ヒポタンの言葉にマーキュリーは頷いた。

「ああ、もちろん! 俺は歌で世界を救いたいんだ!」

 Z駅に到着とうちゃく直後、顔の上半分を隠す仮面をつけたマーキュリーは、大慌てで走った。

 一応、ブログに『トラブルがあって、これから始めます』とは書き加えてはいる。

おくれて申し訳ない! ちょっと世界をすくっていた!」

 うそみたいだけど本当の話をはさみながら、マーキュリーは歌い始めた。

「ああそうだ! 俺たちは戦士だ! 勝利のために、眼前がんぜんてき蹴散けちらせ!」

 セットリストの中には、あの四方八方に光の球を飛ばした歌も入っている。

 人々が集まる中で、堂々と歌うマーキュリーは、やっぱりわたしと同じ小学五年生とは思えない。顔をかくしているのもあって、ずっとずっと大人に見える。

「生のマーキュリー……至高しこうね……」

 少女漫画の主人公みたいにつぶらな瞳をうるませた詩絵留が横でつぶやいている。

 右側をちらりと見る、当初来る予定のなかった男子二人も夢中になって聴いている。

 前会ったよりも大人びて見える。今日会うと思ってなかったので、心の準備が足りない。

「家で詩絵留にかされてはいたけど、生で聴くのって全然違うね」

 曲の合間にとつぜんこちらを向いて話しかけてくる。目が合って、ものすごく動揺どうようする。

「……どうしたの? らんさん。さっきまで大変だったし疲れたの?」

 心配そうな創斗くん。

 今まではわたしが見下ろしていたはずなのに、その差が縮んでいることに突然気付いた。

「だ、大丈夫っ」

電脳精霊でんのうせいれいもビックリな素晴らしい力だナ……。マーキュリー……」

「蘭さん突然とつぜん赤いよ! 座った方が良くない?」

 左側でヒポタン(人間バージョン)がなんか言っていて、右側の創斗くんはあせってる。

「へっ、いやっ、平――」

「ああ、ボクはあの未知なる力を是非ぜひとも研究シたい……!」

 ヒポタンうるさいわ!

 やがて次の曲が始まり、ストリートライブは、開始時間が遅くなった以外の問題もなく、大盛況だいせいきょうの内に終わるのだった。


 ライブ終了後、ファンにかこまれたマーキュリーと会話することはできなかったし、残りのメンバーは早々に帰宅した。

 そして翌日、電脳世界でんのうせかいに、電脳でんのうレスキューレンジャーの五人+ヒポタンで集まった。

「あ、昨日できなかったし、自己紹介。俺、牧之内まきのうちきゅうっていうんだ」

 牧之内求。まきのうちきゅう。まーきゅりー。

「ああ、だからマーキュリーなんだ」

「そうそう。名前と似ていた方が忘れないからな。気軽にきゅうって呼んでくれ!」

 昨日も思ったけど、求は結構いい人そうだ。

「俺の歌をみんなが聴いて、笑顔になるのが幸せなんだ! さらに、世界も救えるなんてサイコーじゃないか! 蘭、創斗、丞、詩絵留、ヒポタン! みんなよろしくな!」

 求はぐっと親指を立てた。

 ヒポタンはパタパタとわたしたちの周りを飛び回る。

「よし! コレで電脳レスキューレンジャーS市北部支部としての体制がととのったネ! この五名で戦うとしよう!」

 当初わたしと創斗くんであわあわしていたのになぁ。すごい。

「ハクティビストJはあのペトヤだけではナイ。上で調べてるし、昨日創斗にも協力してもらったケド、電脳ヒューマンということ以外、まだまだ分からないコトばかりなんだ」

 くもった顔で創斗くんも呟く。

「……蘭さんと求が接触せっしょくしたことで、相手も堂々どうどうと姿を出してくるかも」

「つまり、より強い敵になることが考えられるのね」

「今まで結構流れで勝てたもんな……」

 詩絵留と丞も不安げな顔をする。

 だから、わたしは出来る限り力強い表情で、みんなをぐるっと見渡す。

「だから、わたしたちは集められたし、戦うんでしょ。みんなでがんばろーよ!」

 わたしは、うでり上げる。

「おー、さすがリーダーだな蘭! 俺も歌をささげよう!」

 求はアカペラではげます歌を歌い始めると、次第に他の三人の顔もほころんでくる。


 流れとスイーツビュッフェにつられてやり始めた電脳レスキューレンジャーだけど、そのおかげで、わたしはわたしや他の人の大切な人を救うことができた。

 うん、この仲間たちと一緒にわたしは戦おう。

 みんなが好きなことができるように!

 わたしは電脳悪霊とハクティビストJに立ち向かうことを決意したのだった。



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以下本文外

小ネタの近況ノート

https://kakuyomu.jp/users/nitosawa/news/16818093083625091948


https://kakuyomu.jp/users/nitosawa/news/16818093083674373118


https://kakuyomu.jp/users/nitosawa/news/16818093083742997295


参考文献とかのメモ

https://kakuyomu.jp/users/nitosawa/news/16818093083789392797

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ブートオン! 電脳レスキューレンジャー! 仁嶋サワコ @nitosawa

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