短編小説の比喩は覚悟を持って

本当に終わるつもりだったのですが、奇跡的にもネタを思いついたので、公開します!


今回は短編小説における比喩表現の話です。



▼短編を読むのは博打

長編小説は全てキャラ小説です。って少々極論ですが、長編は『キャラの変化を描くことが可能な小説』であり、『キャラがイキイキとしていればそれを読むだけで楽しい』ものでもあります。


一方で短編小説では、そこまでキャラに頼れません。短編小説は、『キャラへの感情移入がない』中で、『感動の博打として、賭けて最後まで読んでみる』という側面がつきまといます。

なので、『短編小説ではより、叙述の経済性と、叙述自体の洗練さ』が求められます。

経済性とは、文章を短く読みやすくして、クイックにラクに意味を受け取ってもらう、ということです。


感動できるかわからない短編小説を最後まで読むのは苦痛です。

書き手は、読者さんの貴重な時間を剽窃して、苦行を強いているのです!

その工程を少しでも和らげたいと思うわけです。



▼短編小説における比喩

そこで比喩というものが重要になります。

比喩を活用して、経済性と洗練さを両立させるのです。

さっそく、僕の考えるポイントを挙げてみます。


・親切であること

・ムードに資すること

・テーマに資すること



▼親切であること

比喩は非常に難しいです。

難しいというのは、『センスよく使うのが難しい』のです。


作家が自己満足で入れるような比喩は、エゴイスティックな臭いが漂うものです。

まさに無駄な比喩は、夏場に放置して腐った生魚のような腐臭が漂うもの。兜の緒を締めて挑まないといけません。

こういうのが僕の思うダメな例です。

親切ではなく、作者の思いつきと無駄な慣用句の押し付けで、場違いになっています。

手垢のついた比喩や慣用句は、『センスがないことを宣言』しているものです。

じゃあいい感じの比喩とは?


まず率直な比喩なら大丈夫です。

『ポストみたいな赤い車』こういうのは、気取りがなく、読者の理解を助けることに資するので、親切と言えるでしょう。


比喩を使う場合は、本当に親切心やサービス精神から来ているかを確認して、使うようにしましょう!



▼ムードに資すること

次はムードへの展開です。

自作で恐縮ですが、最近公開しはじめた作品から引用します。


白花冥幻譚

https://kakuyomu.jp/works/16818093083414000760/episodes/16818093083414310188

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 前を歩く青年の侍は、黒衣――それも墓地から掘り起こした屍衣のような、黒ずんだぼろをまとっている。大きな旅行李を背負い、俯き加減の顔を強張らせていた。

——————-


特に前半の黒衣の、ごてごてしい直喩!

これは、『親切』という第一条件はまあまあ満たしているはず。長ったらしいですが、ぼろんぼろんの服を強調して書いています。

慣用句や、ありふれた表現でもない。


同時に、ムードも演出しています。

墓地から掘り起こしてきた、みたいな不吉で陰湿な感じが、シーンや作品のムードを高めています。


優れた比喩は、『親切かつムードに資する』ものだと思います。



▼直喩を隠喩に発展

少し脇道ですが、例題の黒衣と墓地の比喩ですが、ここで導入された黒衣と墓地を捻って、隠喩化すると効率的です!

『侍は感情というものを墓地に忘れてきた』みたいに、直喩で導入した概念をいじり倒して発展させることができます。

『侍の心をも黒衣に覆われていた』とか。

こうすると、ムードや観念を継承し、エコにわかりやすく、侍の精神性を伝達できる可能性があります。

せっかく導入した比喩なので、捻って活用しましょう。

すると、手垢のついたダサい慣用句や比喩を使わず、クールにいけるはず!



▼テーマに資すること

比喩は最終的に、テーマに根ざしています。

黒衣と墓地の例では、物理的にも精神的にも、この侍のキャラクターの本質であり、宿命や課題でもあります。

比喩は瞬間的なツールでなく、テーマの端緒でもあります。

この黒衣のイメージは、折に触れ現れると思いますが、それが作品の先行きや結末ともリンクしてきます。

侍は墓地に象徴される忘れたい過去を隠し、心を黒衣に隠し、旅をするのです。


このように比喩は『親切でムードに資する』だけでなく、作品のテーマを支えるものであると、なおさらエコで、プラスに働くものです。

ファッションの説明が、そのままかっこよさとムードに貢献し、作品を深くしてくれるんです。


逆に、直喩なんかはそれくらいの覚悟で書かないと、作品の品位を落とすので注意したいところです。

それがなければ、『侍は黒衣を帯びていた。』こうした方がいいです。


とはいえ、簡潔で素直な、親切に徹するやつは多少気軽に使って大丈夫だと思いますよ!『ポストみたいな赤い車』とか。




さて、今回は比喩についていろいろと書いてみましたが、どうでしたか?

リアルにネタ切れなので、いったん完結にします。

また思いついたら続けます!

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短編小説の書き方について 浅里絋太 @kou_sh

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