短編小説の読み方(徹底解体してみよう⭐︎)

もうひとつ、書いておきたいことを思い出しました。

これを最後のネタにします……きっと……


今回のテーマは、『短編小説の読み方』です!


(僕自身がとある事情で、商業作品の短編小説批評を修行を兼ねてやっていた時期があり、50作品以上分解したと思います)


僕がこれまで書いてきたことは、言わば『プロ作品を解体』して分かってきたことなんです。

なので、『読み方』が分かれば、いくらでも他人から技を学べるのです……!


本来は短編限定のテクではないのですが、前提として、短編サイズを対象に語っていきますね。

この記事のテクニックを使うと、本のレビューや批評などにも応用できるはずです。



▼短編小説の読み方のポイント

まずは短編小説を読み解く際の要点を先に挙げておきます。

短編小説なら、長編小説に比べて文量が少ないので比較的容易だと思います。


・メタ分析

・キャラクター分析

・文体分析

・テーマ分析

・どんでん返し分析

・カテゴリー分析

・タイトル分析

・深層分析

・総括『⚪︎⚪︎小説』


これくらい分解すれば、かなり吸収できることがあると思います。


分解対象は、僕の自作の『宝石泥棒』でやってみます!


宝石泥棒

https://kakuyomu.jp/works/16818093078919770396


鬼のようにネタバレしていくので、あらかじめご了承ください!

では順を追って解体していきます。



▼『宝石泥棒』の内容

⚪︎キャラクター

主人公は、おばあさんの静江。息子の妻の美紀子。孫の恵一。


⚪︎ストーリー

・静江は恵一とテレビを観る。押し込み強盗のニュースが流れる。

・鏡台にしまってある宝石箱が登場

・美紀子が遺産や、宝石箱の中身を狙うイメージが描かれる。静江は不気味に思う

・夜に泥棒が侵入してくる。泥棒は思いがけず紳士的で、亡くなった静江の夫を思わせる

・静江は心の中で、泥棒に宝石箱を盗んでいってほしいと願い、その通りになる

・美紀子が翌日きて宝石箱に言及する。静江は言う。「そうね、ほんとうに。まったく残念ね」


こんな感じの展開になります。

さっそく分解していきます。なるべく客観的にやっていきます。



▼メタ分析

はじめにやるのは、メタ分析です。

あまりこのレイヤーのことを分析しないと思うのですが、結構重要です。

特に、『どんな背景の作家が書いたか』が重要です。

例えば作者の浅里は、カクヨム公開作品を読むと、『主にファンタジーで、ヒューマン要素もある作品』を中心とした作家だとわかります。

その中で、本作は不思議要素なしの、渋みのあるヒューマンものです。

ってことは、作者の作風の中では、やや珍しい部類だと分かります。つまり、『浅里はリアリズムの練習的な意図で書いたのかも』みたいに想像できるわけです。


もしプロ作家の作品の場合は、公開情報で、例えば作家になる前の職業や、来歴などがわかりますので、『だからこんなものが書けるのか』みたいな背景を推察できます。

それに、短編小説が雑誌掲載されたものであれば、エンタメ系か文芸系かで、作風を調整しているだとか、『自分の特徴を印象づけて芥川賞を意識している』みたいなことがわかります。

書かれた時代から、社会的な背景をどう作品に落とし込んでいるか、みたいな示唆も得られます。


こんな具合に、メタ情報がわかると、『どんな意図や背景で書かれた作品なのか』がわかります。

『読者視点ではなく、作家視点』で読まないといけないんです!



▼キャラクター分析

本作では、先に挙げた三人(静江、美紀子、恵一)が主なキャラクターです。

本作の場合は上の方で僕が整理しましたが、普通は自力でやらないといけないです。

まずはキャラクターリストを作りましょう。



▼文体分析

作品の文体を整理しましょう。

本作は三人称であり、静江を観察するカメラと、静江の内面のカメラを行き来します。

それにより、『外から静江の哀愁を描きつつ、静江の内心の葛藤を描く』ことができています。

ゆったりとした語りで、リラックスして読めます。

この文体分析により、『筆致と読み口のコントロール』を学べます。ぜひ意識してみましょう!



▼テーマ分析

作品のテーマ展開をジンテーゼ方式で整理しましょう。


テーゼ→宝石箱を大事にする

アンチテーゼ→泥棒がやってくる

ジンテーゼ→宝石箱を盗まれ安寧を得る


こんなふうにまとめました。

このように、テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼを整理すると、短編小説の筋がかなり明確になります。



▼どんでん返し分析

本作のどんでん返しを整理します。

ポイントとしては、『ふつうは障害である泥棒』

が、静江の心を乱す中心である財産、その象徴である『宝石箱』を盗む点。さらに、『夫の雰囲気をまとう泥棒に、盗まれることを望む心境になる』というところ。

ここがどんでん返しと読めるでしょう。

このどんでん返し分析をすると、『あるどんでん返しを成立させるため、どんな伏線の描き方が必要か』を学べます!



▼カテゴリー分析

カテゴリー分析をします。

本作は、『リアリズムのヒューマンもの』と呼べるでしょう。

その中でも『老境小説』であり、皮肉とペーソスに溢れる作風ですね。

いろいろタグづけしてみるのです。

こんな感じでカテゴリー分析を行うと、作品を大局的にとらえることができ、『自作のバランス感覚や読み口のコントロール』が向上します!



▼タイトル分析

本作のタイトルは『宝石泥棒』です。

タイトルについて、以下のようなことが言えると思います。

・宝石泥棒が最後に登場するが、精神的には静江も宝石泥棒と言える(表層的なダブルミーニング)

・宝石=大切な思い出とするならば、美紀子が宝石泥棒であり、本物の泥棒=夫の幻影がそれを守ったと考えられる(精神的なダブルミーニング)


このように2x2の意味づけがなされていると言えます。

タイトル分析をすると、『うまいタイトルの付け方』を学べます!



▼深層分析

タイトル分析でも触れましたが、作品を批評(分解)するに当たって、『表層』と『深層』を分析すべきです。

表層は物理的なこと。深層は精神的なことが多いですね。

本作の場合は……


表層→大切な宝石を盗む、泥棒が現れる


深層→宝石や遺産を美紀子に狙われることで、静江は心理的負担を感じている。宝石とは大切な思い出でありながら、静江の老後にこだわりをもたらす足枷になっている。


これらのことから、『大切に思えることほど、心を縛るものである。それを失うことを深層で望むのが、人間である』こんなメッセージがあるかもしれません。


こんな具合に、さまざまな分析の仕上げに深層を掘り下げることで、『およそ対象作品を丸裸にし、理解する』ことになります。

ここまでくると、『深いメッセージを自然に織り込む』みたいなテクニックのヒントにもなると思います。



▼総括『⚪︎⚪︎小説』

最後です!

⚪︎⚪︎小説 みたいに一言で表現してみましょう。

本作ならば、『老境の喪失と再生を描く小説』と言えるでしょう。

これは、『自分なりに作品のおもしろさを総括し、意義を確認する』ものでもあり、ブックレビューのタイトルを考えたりする練習でもあります。


さらにこの総括をしていくと、

『描きたいテーマを逆算し、作品に展開する』ということのヒントになります!



▼まとめ

あらためて今回は、以下の要素に分解する手法を紹介しました。

・メタ分析

・キャラクター分析

・文体分析

・テーマ分析

・どんでん返し分析

・カテゴリー分析

・タイトル分析

・深層分析

・総括『⚪︎⚪︎小説』


ぜひこれらを参考に、自分なりの『おもしろい短編小説』を模索してみてください!



ここまでたどり着いた方は、もう一度本稿の一話目を見てみてください!


上記に書いたことから逆算した内容になっているはずです。


プロ風味の短編小説の書き方

https://kakuyomu.jp/works/16818093083144801998/episodes/16818093083145340035



あー、これはもう語りつくした……

もう終わりかな……

アディオス!

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