短編小説の書き方について
浅里絋太
プロ風味の短編小説の書き方
本シリーズでは、短編小説についてまとめてみたいと思います。
はじめのネタは、プロ風味の短編小説の書き方についてです。
『プロの短編小説の雰囲気や切れ味は、どうやって出しているのだろう』
こんなことを考えたことは、ありませんか?
僕も書き方系の本をそこそこ読んできたのですが、『短編小説の本当の書き方』に触れているものが、意外に少なかった気がするのです。
そんなわけで今回は、いままで僕が短編小説を書く中で感じてきたこと、考えてきたことをご紹介します。
あくまで、僕はこう思うけど、みなさんはどうですか?
というスタンスのものでして、押し付ける意図はありませんので、ご了承ください。
▼短編小説の定義
本稿での短編小説とは、数百文字くらいから二万文字くらいの間のお話で、『広義の感動』を目的とした小説ということにします。
(ミステリーなどで、トリックの華麗さを見せたり、ホラーの恐怖を、、などとなってくると、また変わってくると思います)
▼短編小説スキルの意義
短い範囲のストーリーを作れると、長編小説を書く際でも、中弛みしにくい、キレのある読み味を作れます。また、連作短編という選択肢も出てきます。
なので、知識・スキルとして押さえておくと、なにかの役に立つのではないでしょうか?
▼短編小説の一番大事なこと
短編小説って、良いお話を読んでも、
『なんとなく締まった気がしない』というときがあります。
一方で、『たいしてドラマティックでないのに、なぜか納得させられる』
というときもあります。
その違いは、『ジンテーゼ』にあると思っています。
ある意味、ジンテーゼが描けていると、
『短編を読んだー!』という気にさせられます。
ジンテーゼは、言い換えると『着地』とでも言えます。
(詳しくは、ジンテーゼなどでGoogle検索をば!)
あとは、ジンテーゼととなり合い、『円環構造』というテクニックがあります。これも重要なので後述しますね。
▼ジンテーゼ=着地について
テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼは、以下のように言い換えられます。
・テーゼ 主題
・アンチテーゼ 気づき
・ジンテーゼ 着地(クライマックス)
で、具体例として以下の自作を題材にしてみます。
世界の終わりと雪うさぎ
https://kakuyomu.jp/works/16817330665638312785/episodes/16818023213743123392
小説ではなく詩ですが、それなりに短編のエッセンスが入っています。
(本作がよいというわけでなく、題材としてわかりやすい、ということですので!)
▼世界の終わりと雪うさぎ 解説
児童の視点の詩です。
朝お母さんに呼ばれて外に行ったら、世界が雪に覆われており、世界の終わりだと感じた
↓
足元に雪うさぎがある
↓
世界の終わりではなく、美しい自然の側面を知る
↓
どん底でも希望を見つめる雪うさぎが児童の心に残る
こんな筋の詩です。
これを分解します。
・テーゼ 世界の終わり(終末)
・アンチテーゼ 足元の雪うさぎ(希望)
・ジンテーゼ 終末の中にいつでも希望がある
このようになっています。
着地(ジンテーゼ)があることで、短編小説?として相応の納得感が生まれると思います。
このジンテーゼが短編小説の必須要素だと思っています。
ジンテーゼが明確でないと、いい話の気がするけど、切れ味や発見がない、みたいな読後になるのです。
▼どんでん返し
例に出した詩では、ラストにどんでん返しはありません。
短編小説としては、どんでん返しがあった方がよいです。
(ジンテーゼほどではないですが、読者さんの満足度のためには必要なものだと思います)
その際、着地を補強するように、どんでん返しを仕掛けると効果的です。
そのため、物語序盤から伏線を置いておくとよいと思います。
主題→伏線→気づき→伏線発動→着地
みたいな流れがスムーズです。
とはいえ、どんでん返しはなくても、良い短編になりますので、無理に入れる必要はありません。
(どんでん返し論は世の中に無数にありますね)
▼円環構造
短編小説については、円環構造が重要になることが多いです。
ジンテーゼ≒円環構造と呼べるくらいだと思っています。
テーゼ(主題)とジンテーゼ(着地)を映像化して、それぞれを対応させる方法がよくとられます。
例題の詩では、
テーゼ ⭐︎雪景色と絶望
アンチテーゼ 雪うさぎの発見
ジンテーゼ ⭐︎雪景色と希望
このようにはじめと終わりに⭐︎雪景色を対応させ、円環構造が強調されています。
メジャーな作品でも、キーとなるセリフや象徴を最初に見せておく、みたいなことがよくありますよね。
円環構造化することで、ジンテーゼが強力になり、『いい話読んだー!』って度合いが強まります。
▼短編で扱えるもの
短編は長さが限られているので、1テーマとして構成すると良いです。
テーマが込み入ってくると、読んでいてよくわからなくなってくると思います。
▼アンチテーゼのテクニック
アンチテーゼの要素は、小物や目に見える事象に、象徴化させるとわかりやすくなります。
例題ですと、雪うさぎですね。
この小物をタイトルにすると、うまく整うことが多いです。
▼タイトル
タイトルは、僕の好みでは、
『ダブルミーニング』があると嬉しいです。
ダブルミーニングは、
『アンチテーゼとジンテーゼを繋ぐもの』に絡んでいると、しっくりきます。(そうでないと、逆に難しい)
例題『世界の終わりと雪うさぎ』ですと、雪うさぎが該当します。
『世界の終わりと雪うさぎ』の二つがどう関連するのか、と興味を引くとともに、読み終わってみて、納得感があります。
また、雪うさぎは小物としての存在と、希望の象徴でもあり、ダブルミーニングになります。
▼ペーソス
ペーソス(哀愁)があると、解決しきれない課題となり、余韻が残ります。
なので、ペーソスを残すということは、『話としては納得できる範囲で、余韻を残す』テクニックとなります。
またまた例題でいうと、
『世界の終わりにも希望がある』というジンテーゼを迎えますが、『そもそも世の中は厳しい』という、受容せざるを得ない痛みは残ります。
この『いかんともしがたいしこり』がペーソスです。
恋愛ものなら、背徳感や、犠牲になった負けヒロインの悲しみ。
バトルものなら、ライバルの悲しみや挫折への共感。
このような『いかんともしがたいしこり』が、短編小説の存在感を残します。
▼切り上げ所と切れ味
どこで話を終えるのかも重要です。
『ちょっとだけ書き足りない』というところがほどよいと思っています。
また、この話をペーソスの後にしているのは意味があり、『テーゼは片付いて、ペーソスのみ残す』この瞬間に切るのが、もっともオツだと思うのです。(ときに、読者を崖に突き落とすように、、)
この爽快さとクールさが、切れ味のよさだと考えるのですが、どうでしょうか?
▼おさらい
重要な順におさらいです!
・テーゼが明確で一つ
・どんでん返しがある
・円環構造がある
・アンチテーゼの象徴化
・タイトルがダブルミーニング
・ペーソスがある
・切り上げる場所がクール
これで(僕が思う)プロの味に近づけると思います!
▼短編小説の紹介
良い短編を書くには、まずは読むことだと思います。
世の中には無数に短編小説がありますが、いくつか、僕が思うおすすめをご紹介します。
・紙の動物園(ケン・リュウ)
中国のSFが熱い中で、短編でも定評のあるケン・リュウさん。
テクノロジーと人間性のはざまでゆらめくドラマとペーソスが、鋭い切れ味で描かれます。
・夜明けの縁をさ迷う人々(小川洋子)
小川洋子さんは多数の短編集を出されてますが、あえてひとつ推すとしたら本作です。
マジックリアリズム風の幻想的かつ残酷な物語の中で、人間の依存や妄執や愛を探究しています。
・雪沼とその周辺(堀江敏幸)
上品で繊細な人間模様を描いた短編集。
薄味で奥深いペーソスを描きたい方は必見です。
ナチュラルな世界観の中で、どんでん返しよりも、静かなジンテーゼの構築が重要なことを教えてくれます!
・古典や近代
どこまで古典とすべきかわかりませんが、
Oヘンリー、チェーホフ、ボルヘスなど有名ですし、数えきれないくらい無数にあります。
・その他
コンピレーション的に、作家をまたいで集めてある短編集を読むと、いろんな作品に触れられるので、おすすめです。
その他、かの村上春樹は短編もクールでおもしろいです。
宮本輝も、泥臭い人間味のある短編が魅力です。
本当にいろいろありますが、、
今回はこんな感じで、ざっと僕の思う短編小説の全体像をまとめてみました。
なにかの参考や、刺激になると幸いです。
また、違った意見なども教えていただきたいですm(_ _)m
▼自作紹介
せっかくなので、蛇足ながら自作の短編小説を幾つかご紹介します。
どんだけのものを書いとんのじゃおどれ、みたいになりますよね、、
失せ物の森(約10,000文字)
https://kakuyomu.jp/works/16817330652226428605
苺パンナコッタ(約1,500文字)
https://kakuyomu.jp/works/16817330654099021957/episodes/16817330654099339253
宝石泥棒(約5,000文字)
https://kakuyomu.jp/works/16818093078919770396/episodes/16818093078919791764
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