白花冥幻譚
浅里絋太
紫燐ノ森
紫燐ノ森 1
森の天幕の向こうには鼠色の雲がはびこり、秋空を重く染めている。雨でも降り出しそうな湿った風に木々はざわめいた。
周囲には
そんな薄暗い、石ばった山道をゆくふたつの人影がある。
村人がふいに出くわしたなら、人ならぬ者――それこそ
前を歩く青年の侍は、黒衣――それも墓地から掘り起こした
――侍の名は
左眼の上には縦の大きな傷痕が走り、いささか瞼が引きつっている。くすんだ消し炭色の
その後ろをゆくのは、笠をかむった白装束の巫女。――端然とした小顔に薄桃色の唇を結び、笠の下の白磁の肌を刺す日光すら厭わず、歩みを進めてゆく。
常に力のこもった、己を閉じ込めるようにしかめた眉は、巫女に課せられた宿命と、その内圧的な性質によるものだろう。
――巫女の名は
沙耶は息を切らせ、いかつい侍に遅れじと懸命に歩いているようで、顎に締めた傘紐にも汗が伝っている。
土に
白衣に縫い取られた『
――しかしこんな山道には、獣か樹木くらいしか先行きを阻むものはない。いや、強いて云えば、眼前の侍の背中――蓮二の存在がもっとも、沙耶を警戒させた。
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