三途の川不思議事案2 漂着者

 さて、二件目をご紹介しましょうか。今回は何とも...よくわからないといいますか、結局よく分からないという結末でした。ですので、後味が悪いことが苦手な方は聞かない方がよろしいかもしれませんね。では語っていきたいとおもいます。


 いつも通り点検をしていると、三途の川に漂着した人間がおりました。

 この一件の不可解なところは、三途の川を渡った後、つまり私たちがいる彼岸の畔に人間らしきものが漂着していたことです。ほぼ死人ですが、渡りきっていはいない不審な状況です。こちら側の畔に上半身を地面に預けて、下半身は水の中でゆらゆら...といった感じでうつ伏せで倒れておりました。


 まあ、渡ってしまえば黄泉の住人。ここに来た時点で渡ることはほぼ確定しているといっていい。あくまでもこの川を渡ることは死出の旅の通過点で、黄泉へのゲートみたいなものですからね。


 でもたまに、死にかけから蘇生して現世に戻られたという事案もありますから、確実に渡っていると判断出来ない場合は、一概に死人とは言いきれません。まあほぼ、彼岸に来てるので死人っちゃあ死人なんですけど。


 服装は登山家のようで、一眼レフが首にかかっております。首には深い傷がぱっくりと割れていて、首にかけた紐がその傷の中に入り込んでいることだけが少し不気味でごさいました。うつ伏せで倒れているため、顔は見えませんし、なんとも手が出しにくい一件でございました。

 ここで漂着されても邪魔になりますからね。引きずってこちら側に引き上げたいところですが、完全に川を渡られた訳ではなさそうなので、手出しができません。仕方なく、総務部に事案をまとめて提出してみました。


 しばらくしていると、回答が返ってきました。三途の川でのトラブルは、後からいらっしゃる方々の迷惑となり、列が詰まってしまいます。入口が詰まって他の方々が中に入れない、という感じでしょうか。ですので、優先的に処理にとりかかっていただけます。ここでは、しっかり速やかに、問題点と状況、こちらの判断しかねる理由をまとめて受け渡します。迅速に、余計なやり取りを省かねばならないことは、電話交換手時代から変わりませんね。


「こちら総務部です。そちらの案件に関わる可能性があると判断しましたので、現世に出張していた者を派遣します。」

「速やかな対応ありがとうございます。また、管理人と確認し次第、ご連絡申し上げます。」


少し待っていると、青年を連れてスーツの者二人組が三途の川にいらっしゃいました。


「どうも、総務部から連絡が行っていると思うのですが...助手さん?かな、助手さんの資料と合致する者が三途の川前行きの電車が止まる例の廃駅にいましたのでそのまま連れてきました。」


 青年は軽いラフな格好でした。また、首がぱっくりしておられて、リアル首の皮一枚で繋がっていました。少しの衝撃で頭が落ちそうになっております。致命傷ですかね。


「この方ねぇ、自分が死んだことに気づいてなかったようなんですよ。それで彷徨って例の駅に辿り着いたみたいでしてね。」


少し後を着いてきた背の低めの男性が補足します。


「魂だけ抜けてた、ようなんですね。山から転げ落ちて頭を打って気を失って、その上で尖った枝で首がえぐられたみたいです。それが致命傷でした。気を失ってから死んだことに頭っていうのかな、それが追いついてなかったようでして...。」


 体だけ三途の川前に飛ばされたということでしょうか。そして中身が無いため踏ん張ることもできずに、衝動でふらふらと川に落ちたのち、死んでいるということで彼岸側の畔に漂着したようです。魂、意志を持った中身がいなかったため、ただただ彷徨って流されて辿り着いたといった所でしょうか。


 まあ似た事案といえば、幽霊ですが、彼らは死んでいることを自覚しながら現世に執着していると総務部は判断していることから、どうやら専門部署でリストを作成して経過観察しているようです。

 生霊の方もたまに迷い込んできたりしますが、この場合はまだ確実に体は生きていらっしゃるので、それとなくこちらは違いますよーと三途の川であることも知らせないままにお返ししてます。


  他に似ている件いたしますと、本人が病気で死にかけていることですかね。意識が朦朧としてこちらにいらっしゃいますが、治れば元に戻られて、死ねば体ごとこちらにいらっしゃるので、川の前でぼーっと留まっておられることが多いです。片足水の中に突っ込んでいるか方もおられますが...。後、たまに既に川を渡られた方が心配されて、様子を見に来たりしておられます。まあ、役人ですから、対処はそこまで。邪魔にならない範囲でお願いしますとだけ伝えております。


 それは置いといて、今回の場合、当の本人は、死んだことを思い出したようで、素直に着いてきます。管理人さんの指示の元、付き添って役人用の橋を渡っていただいて、対面していただきました。違った場合はすぐ戻っていただかないと、本当にこちらの住人になってしまいます。


 まだ捜索中で死体が発見されてないため、棺桶からスムーズにいらっしゃることもなく、白装束を着せられたり、被せられることもなく...火葬されることもなく、ですので格好もそのまんまということに...まあ、ほとんどこじつけですが...。なんともすっきりしませんが...。


 とりあえず、当事者であることを確認していただき、後は総務部に連絡して、外側と中身の方を引き取っていただきました。経緯や駅に辿り着いてそのまま電車に乗ってきた理由、死に方、などなど確認すべきことがあるようです。


 もちろん、青年を連れていらっしゃった方々と確認し合いながら、互いの状況と本人の供述、対処法をまとめて管理人さんの判断での行動です。


 まあ、仲介さえしてしまえば後は向こうの仕事ですので、手続きと連絡、応急処置、判断を的確にしてしまえば、こちらは一旦待機といったところですかね。

 死んでると気づかないと、体は死んで三途の川に来たのに、中身は現世に留まろうとする。そこに矛盾が生じるようでございます。


 にしても、今回は助手らしい行動をしましたね。主導権は管理人さんにお任せして、連絡役や付き添いを勤める。まだ経験は浅いですが、これから経験を積んでいく。これからが本番だと、感じましたねぇ。

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