三途川不思議事案3 役人の災難

では3件目、これはまあ、すぐ終わりました。


 遥か上から人っぽいものが降ってきました。ついでに役人用橋にぶつかった上で川に落ちたようです。どぼんと大きな音を立て、頬にまで飛んできた水飛沫に触れることしかできませんでした。確認すると、どうやら死出の旅に出た死人さんではなさそうです。死装束来てないし...。ついでに橋はぶっ壊れました。


 まあ以前漂着された方とは異なり、完全に黄泉の方と思われるので、躊躇なく引き上げまして、管理人室に運び、目を覚ますまで宿舎に寝かせておきました。管理人さんはとりあえず普通の仕事をされて、私が様子を伺っていることになりました。放っておく訳にはいきませんし、だからといって作業を中断する訳にもいきません。助手の出番ですね。

 よく見ると、社員証が首からかかっております。黄泉の職員のようですね。彼、目を覚ました瞬間から混乱しておりましたねぇ。


「え?ここどこ?黄泉?僕死んだんですか??あ、死んでるわ、ここ黄泉だ、ああ仕事、どうしましょうここどこですか?????てかなんで水浸しなの冷ためっちゃ濡れててベタベタする気持ちわるってかなんか体もめっちゃ痛い背中とかいったいもうここどこ???」


 ひたすらこんなことを喋ってはキョロキョロ、背中をさすっては喋ってという感じで、口を挟む隙すらありませんでした。

とりあえず管理人さんに、「例の川に降ってきた人、目を覚ましましたー!」と報告しながら、様子を聞いていきます。


「あなただれですか...ここどこ...」


 少し落ち着いてきたところで、ここは三途の川の宿舎であること、あなたは上から降ってきて川に落ちたこと、ついでに落ちる時、橋にぶつかってその橋はぶっ壊れたことなどをお話申し上げました。


「ああ、例の助手さんですね、話は聞いたことあります。生前、黄泉を大混乱に陥れた方で、今は三途の川の管理人さんのもとにいらっしゃるとか。」


嫌な伝わり方をしておりますが、概ね合っています。


「社員証をお持ちですし、オフィルカジュアルな格好をしてらっしゃいますね。どこかの部署の方ですか?」

「ああ、えっと、死出の旅 第1山のチェックにあたっている、第1合係...。まあ小さい部署ですが...そちらに所属しています。」

「どこまで覚えてらっしゃいます...?」

「確か...総務部で会議をするとかで、そちらに向かっていて...帰る途中でロープウェイに乗ったとこまでは覚えてるんですけど...。」


 管理人さんと相談して、死出の旅の山、第1合係の方に連絡をとったところ、たしかにこの方が所属していらっしゃることが確認できました。ついでになかなか帰ってこなくて不安だったことも。


 とりあえず、目撃者、目撃死者の方を探していただきました。聞き込みですね。

しばらくすると、また連絡が来ました。

曰く、ぼーっとしながらロープウェイを見て、職員さんも大変そうだなぁと思っていた死人さんが、人らしきものが落ちていったのを見ていたそうです。


 申し遅れましたが、死出の旅の山には、職員用のロープウェイが設置されております。

死出の旅の中にはもちろん、山もありますから、出張やこの方のように会議で下山する必要も出てきます。下るのも登るのもあまりに労力がかかり、時間もかかる。職員が山を登っている間にも人手が減るわけですから、大量の苦情のもと、ロープウェイが設置されたそうです。


 証言と照らし合わせるともしかしてこの方...ロープウェイから落っこちたんでしょうか...。


 管理人さんと相談して、とりあえずこの方の調書と、死出の旅の山第1合部署の方との連絡、可能性をまとめて総務に提出しておきました。


 この方は、服を乾かしているあいだに私の服を貸出しして、休んでいただいたのち、総務に引き取っていただきました。


にしても...ロープウェイから落っこちるなんてこともあるんですねぇ。あー怖い怖い。

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