蟷螂の初恋

梵ぽんず

虫も人間のように恋をするらしい。

 当時、関東地方の田舎に住んでいた友人がいた。この友人をここではN美と呼ぶ事にする。


 N美は小さい頃から人には見えないモノが見えた。更に人が心の中で何を考えているか声に出さずとも理解したり、神社やお寺に祀られている神様ともお話ができる遺伝的な体質の持ち主。


 この話はN美と飲みに行った際に聞いた話の一つだ。


◇◇◇


「知ってる? 虫ってさ、喋るんだよ」


 突然の話題に私は目を丸くした。


「虫が喋る? じゃあ、ゴキブリも喋るの?」と聞くと、「ゴキブリは人を見たら悲鳴をあげて逃げてるよ」と笑って答えてくれた。


「特に大きい虫はね、人間みたいに意識がハッキリしてる。今までで出会った虫の中で印象深かったのは蟷螂かまきりだったよ」

蟷螂かまきり? もしかして、蟷螂かまきりも喋る?」


 私が聞き返すと、N美は「そうそう」と頷いた。


「親戚のお家に遊びにいた時だったかな。家の近くに山があったの。その山の近くにあった木の幹に一匹の蟷螂かまきりがいたんだけど……」


 ここで何かを思い出したのか、N美が軽く吹き出した。


「その蟷螂かまきりね、見るからにショボーンってしてるの。ネットでよく見る『(´・ω・`)』って顔文字があるじゃない? 本当にこうなってたw」


 ケラケラとN美は笑っていたが、この時の私は蟷螂かまきりがどんな顔をしていたか思い出していた。


 人間とは違って虫には表情筋とやらはないだろうし、仮にあったとしてもニヤリと笑う顔なんて想像できない。


 私が抱く蟷螂かまきりの印象は三角形の小さな顔に大きな二つの目を持ち、お尻の先を水に浸すと、細長いハリガネムシが出てくるという印象しか抱いていなかった。


「それで? その蟷螂かまきりはなんで落ち込んでたの?」

「好きな子がいてずっと狙ってたらしいんだけど、フラれて他の蟷螂かまきりと一緒になったのを目撃したんだって。だから、ショボーンってなってたらしい」


 蟷螂かまきりが落ち込んでいる姿を想像したら、「フラれて落ち込むとか人間じゃんwww」と私まで笑ってしまった。


 その後、N美の話によれば、その蟷螂かまきりに『あっちの雑草に行きたい。連れていけ』と命令されて、木の枝を使って連れていってあげたりしたとの事。


 今まで本能で子孫を残しているのかと考えていたのですが、虫も人間のように恋をするのかと初めて知った話なのでした。








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蟷螂の初恋 梵ぽんず @r-mugiboshi

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