第47話 てばなさなかったもの

ゆうしゃのせいけんと まおうのまけん、はなたれた ふたつのひかりが『えいゆう』に ちょくげきして あたりをまばゆく そめあげました。


それらのひかりが おさまったとき、『ほしつるぎ』が つらぬいた てんじょうから ほんものの ほしのひかりが やさしくへやをてらします。


ゆうしゃとまおうは ちからをつかいはたして いきをあらげていますが、ふたりとも まだ かおをあげています。


だって、そのしせんのさきでは いまもなお『えいゆう』が たおれることなく たっていたからです。


ほん、と。いろんないみで こたえる いちげきだったわ。でも、ね、とまらないのが『ゆうしゃ』なら、たおれないのが『えいゆう』よ。


『かのじょ』のひとみには いまだに ちからづよいひかりが ともっています。


く、くそっ。これでも まだ、たおれねえのかよ。


むりして まけんをつかっていたのか、まおうは ゆかに たおれこみます。


あなたは、じゅうぶんに がんばってくれました。あとは、わたしにまかせてください。


ゆうしゃは せいけんをてに いっぽまえに ふみだします。それだけで ぜんしんに ひめいをあげたいほどの いたみが はしりましたが、かのじょは それをかおに だすことなく、ひとみの ひかりも きえたりしません。


─────やっぱり、あなたは とまってなんかくれないか。わたしに のこされた ちからで あつかえるぶきなんて もうのこってないんだけどな。


そういいながら、『えいゆう』は ゴソゴソと にもつぶくろをあさって、いっぽんのつるぎを とりだします。


もう、これしか ないか。


『かのじょ』が てにしたのは、ただの てつのつるぎ。いちどは ゆうしゃをたたきのめした つるぎです。


いまのあなたが こんなもので とめられるとは おもわないけど、それでも わたしのまあいに はいってくるのなら、きるわ。


『えいゆう』は おおきく てつのつるぎをふりかぶります。ほんとうは もういっぽも うごけないだけなのですが、『かのじょ』は それでも まけをみとめるわけには いかなかったのです。


いきているかぎりは かならずたちあがり、ぶきをてにしたからには かならずあいてをうちたおす。


そのちかいを はたしてきたからこそ『かのじょ』は『えいゆう』であり、そんなじぶんのありかたを すてることなんてできません。


こんなの、ただの いじ だってわかってるけどさ。


いっぽ、いっぽ。とまることなく ちかづいてくる ゆうしゃをみて『かのじょ』は つぶやきます。


でも、そんなの『ゆうしゃ』ちゃんだって いっしょでしょ。


めのまえの ゆうしゃをみつめます。


ゆうしゃのひとみは ただひたすらに『えいゆう』の すがただけをうつしています。


『かのじょ』が もうたっているだけで せいいっぱいで、まおうをたおすちからなんて のこっていないことに きづいていません。


ただ ゆうしゃは、かのじょのせなかにいる あたりまえに まもるべき かれのため、『えいゆう』をうちたおさなければ、と せまってくるのです。


そのひとみをみて、『かのじょ』は とおいむかしを おもいだしました。


はじめて、この てつのつるぎを てにした そのひ。


みんなのためとか、だれが てきで だれが みかたとか かんがえもせず、ただ まもりたいひとたちをまもるために つるぎを むがむちゅうでにぎりしめた あのひ。


いまは、ずいぶんと ごちゃごちゃ おもたいものを つるぎにのせるようになったもの と『かのじょ』は じぶんをうすくわらいます。


ゆうしゃは もう『かのじょ』の まあいに はいっていました。


あとは、ぜんりょくで てつのつるぎをふりおろすだけです。


つるぎに さいごのちからをこめます。


ポキンッ。


ですが そのまえに、てつのつるぎは あっさりと おれてしまいました。


え?


『えいゆう』の まのぬけたこえが ひびきます。


いったい いつのまに つるぎは おれていたのでしょうか?


『かのじょ』は おもいかえします。


まおうが このくろいおしろを しょうかんするまえ、


なんども なんども てつのつるぎをゆうしゃに たたきつけました。


なんどもなんども うちこまれて、それでも しょうじょは せいけんをてばなしませんでした。


……そっか、『ゆうしゃ』ちゃんを たたきのめしたつもりで、じつは あのときには もう おれてたんだ。


まもりたいもの すべてをまもろうとした かのじょのかくごに。


どんなに つよいあいてをまえにしても じぶんのかくごをぜったいに てばなさなかった かのじょの とうといすがたに。


わたしは、とっくに まけていたんだ。


『かのじょ』は ちいさく つぶやきます。


めのまえには せいけんをにぎりしめて ふりかぶる ゆうしゃのすがたが。


かのじょは、ぜんしんに はしる するどい いたみも、こきゅうするだけで しにたくなるほど の むねのくるしさも むしして せいけんをふりぬくつもりでしょう。


そのまえに『かのじょ』は いいます。


『ゆうしゃ』ちゃん、わたしの まけよ。────かんぱいだわ。


じしんの、『えいゆう』としての はいぼくを つげました。


──────────え?


いたみで、いしきを うしないかけていた ゆうしゃは おどろきのこえをあげます。


ちゃんと きこえた? わたしは もう あなたたちをおそわない。わたしは もう、まおうをころさないわ。


おれた てつのつるぎをてばなし、『えいゆう』は りょうてをあげて こうさんの  いしをつたえました。


よ、よかっ、た。


ぺたんと、ゆうしゃは ぜんしんのちからが ぬけたように ゆかに すわりこみます。


…………おい、おまえ。どうして あのけんをつかわなかった? アレをつかえば、すくなくとも おれをころすことは できただろ。


ちからの はいらない からだをどうにか おこして、まおうが『えいゆう』に ききます。


ああ、『まじんごろし』のこと? う~ん、なんでかしらね。きが かわったから、としか いえないわ。だって、まがりなりにも かみさまをころすつるぎ なんてつかったら、どうあがいたって もう『みんな』の わのなかには もどれないでしょ?


すこしだけ かなしそうに、でもほんのすこしの きぼうをこめて『かのじょ』は わらいました。


ゆうしゃちゃんとちがって、いつか『みんな』の わのなかにもどりたいと おもってた……のかもね。つまり、わたしは ゆうしゃちゃんみたいに つよくなかったのよ。


『えいゆう』のことばをきいて、まおうは すこしさみしそうに ゆうしゃをみます。


それを、つよさ というのは ちょっとちがうだろうよ。


げんかいをこえて ちからをつかいはたした ゆうしゃは いしきもうろうで、ふたりのかいわは きこえていないみたいです。


それじゃ あなたたちに まけたわけだし、わたしは いさぎよく たいさんするわね。


『かのじょ』は そういって ゆうしゃたちに せなかをむけます。


ふざけやがって。どうみたって こっちのボロまけじゃねえか。


さっそうと かえろうとする『えいゆう』とちがい、ゆうしゃたちの なかで たっているひとは だれもいません。


あ~、そうだ。せいとうぼうえい だったし、べつに わたしが わるいわけじゃないけどさ。わたしが『にんぎょうごろし』で つきさした にんぎょうくんのことだけど。


せなかを むけながら『かのじょ』は いいます。


もし かれをめざめさせたいなら、『けんじゃ』をさがすといいわ。しんそこ むかつくヤツだけど、そこは べんきょうだいと おもってあきらめることね。


それだけ いいのこして、こんどこそ ほんとうに『えいゆう』は ゆうしゃたちの まえから さっていきました。


─────────え、あれ? あのひとは どこにいったんですか?


ようやく いしきが はっきりしたのか、ゆうしゃが まおうにききます。


あいつは かえっていったよ。おれたちの、かちだってさ。


まおうは たちあがる きりょくもなく、つかれはてたこえで こたえます。


かち、ですか? どうみたって、わたしたちの まけですよね。


それは さっきおれが いった。だがたしかに、あのおんなをあいてにして まだいきてるんだ。まけってわけでもないんだろうさ。


まおうは どうにか たちあがって ゆうしゃのそばまで あるいていき、やっぱりまだムリがあったのか そこにすわりこみます。


?? どうされたんですか?


ゆうしゃは めをまるくしています。


れいを、いってないからな。─────おまえに、たすけられた。ほんとうに かんしゃしている。


まおうは ゆうしゃに ふかくあたまをさげました。


え、そんな、おれいなんていいですよ。わたしだけが がんばったわけじゃないですからっ。


それは しってる。ほかの ふたりにも おおきな かりができた。だけど、それでも、おれは おまえに すくわれたんだ。


まおうは みぎてをゆうしゃのあたまに のばします。


うつくしく つやのある、はくぎんの かみ。まだこんなに おさない しょうじょに、じぶんが すくわれたのかと じっかんするように。


おれは、おまえの ゆうしゃとしての ちからに すくわれたわけじゃない。おれは、おまえの おまえとしての ことばにすくわれたんだ。


まおうは やさしく、いまにも なきだしそうな ひとみをしています。ですが、ゆうしゃには それが どうしてなのか わかりません。


わからなくてもいい。ただ、おれをまおうとしてじゃなく、どこにでもいる あたりまえのだれかとして みとめてくれた。それだけのことが とてもうれしかった おうさまが いたってことだけ しっていてくれ。


まおうは ゆうしゃの あたまから てをはなします。そのとき、ゆうしゃが すこしなごりおしそうに みえたのは まおうの きのせいでしょうか。


さ、それじゃ『けんじゃ』とやらをさがしにいこうか。かりは さっさとかえさなきゃ きぶんがわるい。…………それに、おれの さがしてた しあわせは とっくにみつかってたみたいだからな。


まおうが、こんどこそ ちからづよく たちあがります。


──────────あ。


そのすがたが、どこかにとんでいってしまいそうで、ゆうしゃは しらないうちに かれの せなかに てをのばしていました。


ん? まだ ちからが はいらないか?


まおうは ふりむいて ゆうしゃのてをにぎり、かのじょをたたせます。


にぎられた ては、とてもあつくかんじました。



どうして、ゆうしゃは まおうに てをのばしたのでしょう?


どうして、にぎられた てをあつくかんじたのでしょう?


ゆうしゃには まだわからないことだらけです。



ですが それもきっと、かのじょが ふたたび『けんじゃ』とであったときに わかることなのかもしれません。

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えるだ~すとりあ -ゆうしゃと まおうの ものがたり- 秋山 静夜 @akiyama-seiya

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