第46話 ゆめみる まけん
かいだんを のぼって あらわれてきたのは やっぱり『えいゆう』でした。
『かのじょ』は まほつかいのおんなのこを こねこのくびをつかむように かたてで もっています。
ちっ、よそうしていた とはいえ やはりこうなったか。
まおうが いまいましげに つぶやきます。
だけど、ふまんそうな かおを しているのは『えいゆう』もおなじでした。
『かのじょ』の かたほうの ほっぺたは まっかに はれあがっていたからです。
いった~。ほんと、このこ には おどろかされるわ。たった いっかい まけただけで2ばい3ばいに つよくなってるんだもの。
そう くちにした『えいゆう』は、『ほしつるぎ』をにぎって、あたらしい よろいも つけていました。
『えいゆう』が ほんきで たたかった あかしです。
つい ぜんりょくで たたきのめしちゃったから、しばらくは おきないかも。
『かのじょ』は まほうつかいのおんなのこを かいだんのそばに そっと おきました。
もっとはやく このこ と であってたら、わたしも さみしいおもい しなかったかもしれないのにね。
ざんねんそうに『かのじょ』は ちいさくつぶやきます。
さ~て、いいかげんに けっちゃくをつけましょうか。この おしろよりも すごい きりふだは ないだろうし、おとなしくしてくれるなら くるしまないように ころしてあげるけど?
『えいゆう』は ろくに うごけない まおうにむけて『ほしつるぎ』をむけます。
くっ。
まおうは くやしそうなかおをしますが、それでも みうごきできません。
そこへ、ゆうしゃが まおうのまえに たっていました。
このひとを ころさせるようなことは わたしが させません。
ゆうしゃは せいけんを『えいゆう』にむけます。
は~、また『ゆうしゃ』ちゃん? いいかげんに あなたの でばんは ないって わかってくれないかな。わたしに かてない、まおうも ころせない あなたは ひつようとされてないんだよ。おとなしく『みんな』のなかに まじって しあわせそうに くらしてたらいいじゃない。
『えいゆう』は つめたいことばを ゆうしゃになげかけます。
ですが、ゆうしゃのせいけんは ゆらぎません。
もし、ほんとうに わたしが ひつようとされてなかったとしても、わたしの でばんが もう もとめられていないとしても、わたしは ぜったいに ここから にげだしません。
ゆうしゃは まっすぐな ひとみで『えいゆう』に いいきりました。
……それは、なんで?
『えいゆう』の めつきが かわります。ゆうしゃに さきほどまでとは ちがうなにかを かんじたからです。
わたしが、なんのために たたかうのか、きづいたからです。わたしは、しあわせそうに くらす『みんな』にまざりたくて たたかってるんじゃないんです。わたしは、しあわせをさがしもとめる ひとたち すべてのために この『せいけん』をてにしたんです。
はっきりと、かのじょは いいきりました。こえは、ふるえてなんかいません。
お、おまえ。
ゆうしゃのうしろで まおうが おどろいています。
すべての、ために? 『ゆうしゃ』ちゃん、じぶんが なにをいってるかわかってるの? そんな ざれごとをくちにしながら まおうをまもるってことは……。
『えいゆう』のしせんが ほそく するどくなります。
はい、そうです。あたりまえのしあわせをさがしもとめる ひとであるのなら、わたしは そのひとのためにたたかいます。──────それがたとえ、まぞくのためであっても。
ゆうしゃのこえに ゆらぎはありません。
ざんねんだわ、『ゆうしゃ』ちゃん。あなたは くちにしてはいけないことを くちにした。ちからあるものが まぞくにも てをかすというなら、それはにんげん『みんな』の てきにほかならない。いつのじだいも、ちゅうとはんぱな たちばをとったやつは まっさきに たたきつぶされるんだよ。だって、めいわくだもん。
『えいゆう』は、そういって『ほしつるぎ』をゆうしゃへとむけました。
あなたのいうとおり、どっちつかずで みようによっては めいわくな おこないかもしれません。しかしそれでも、わたしは このおこないを つらぬきとおします!
ゆうしゃは はしりだし、『えいゆう』にむけて せいけんをたたきこみます。
ついさきほどまでは、『えいゆう』に きずひとつつけられなかった いちげき。
くっ。
それを、『えいゆう』は『ほしつるぎ』で うけとめなくては いけませんでした。
ちょっと、そこの まほつかいのこ じゃあるまいし、すこし めをはなしたすきに ずいぶんと つよくなったんじゃない?
ゆうしゃの いちげきを くいとめながら、『えいゆう』が いいます。
もし そうであるなら、それは あなたのことばが ただしかったからだと おもいます。いま、わたしは まちがいなく やりたいことをやりたいようにしている。そしてそれが、わたしの やるべきことでもあるんです!
ゆうしゃの せいけんが よりつよく、おもく『えいゆう』を 『ほしつるぎ』ごと おさえつけます。
やるべき、こと? これが、あなたの やるべきことだっていうの? いままで さんざんころしてきた まぞくをたすけることが? 『みんな』をさんざん くるしめてきた『まおう』をすくうことが?
いらだちにも にた『えいゆう』の ぎもんのこえ。
それに、ゆうしゃは まっすぐと こたえます。
そうです。わたしじしんが どれだけまちがってきても、かれじしんが どれだけまちがってきたとしても、あかるい『あした』を、しあわせな『あした』を のぞむひとをこそ わたしは たすけ、すくいたい!
せいけんが、はくぎんのひかりを はなちます。
わっかんないなぁ。そこの『まおう』くんが『あした』をのぞんでるわけないでしょ? わたしだってわかるよ、そこの かれは いつおわってもいいって おもってる。ここでわたしにころされても しかたないか、くらいにはおもってるよ。すくなくとも『ゆうしゃ』ちゃんが まもるべき あいてじゃないっ。
ゆうしゃのせいけんのひかりに めをくらませながら、『えいゆう』は いいかえします。
だけど、ゆうしゃが そのことばに ひるむことはありません。
それは、あなたが あのひとの うちがわをしらないだけです。あなたが『まおう』としてしか かれをみていないだけ。『みんな』のてきで、まぞくのおうさまである あのひとのおくに、ただ きのむくままに『せかい』をうつくしく えがきたいとねがう へやがあるってしらないだけですっ。
っ、そんなの しるわけないし、しらなくたってどうでもいいことでしょ。だってかれは そんなことよりも さきに『まおう』なんだから。
せいけんの、おしつぶされそうな あつりょくにこらえながら、『えいゆう』は それでも まけじと いいかえします。
しってますし、まちがっているのは きっとわたしです。でも、『にんげん』であるまえに『ゆうしゃ』の わたしにとって、『まおう』であるまえにひとりの『ひと』でいたかった あのひとのおもいは なによりも まもりたいものなんです!
ゆうしゃのことばが、なによりもつよいちからとなって『えいゆう』をおしつぶします。ですが、
──────────ひどい、ひとだったのね、あなた。じぶんが まちがってたって おもいながら、それでも とまらないんだ。でも、わたしは くうきなんてよめないから、そんな あなただって とめてみせるよ!
『えいゆう』のこえに『ほしつるぎ』が はんのうします。
『ほしつるぎ』は ものすごい いきおいで きょだいかして せいけんごと ゆうしゃを ふきとばしました。
これが、『ほしつるぎ』の ほんとうのすがた。そらとぶドラゴンでさえ ちじょうにたたきおとし、わたしを『えいゆう』として かんせいさせた ちからよ。
まおうの くろいおしろの てんじょうをつきやぶり、『えいゆう』の『ほしつるぎ』は まさに ほしにもとどかんとばかりに おおきくなりました。
ほんとうにこれが さいごよ、しにたくなかったら そこをどきなさい『ゆうしゃ』ちゃん。こんな どでかいつるぎに つぶされて しぬなんて こわいでしょ?
『えいゆう』が さいごのせんこくをくちにします。
いいえ、どきません。どんなに こわくても、わたしは もう ふるえたりなんかしません。……それに、そんなおおきいだけのつるぎよりも、あなたじしんのほうが はじめから ずっとこわかったですよ。
やさしく、この せんたくのさきに おこるできごと すべてをうけいれて ゆうしゃは ほほえみます。
ほんとう、いってくれるじゃない。────『ゆうしゃ』は とまらない、か。あのホラふき けんじゃのざれごとだとおもったけど、ウソじゃなかったんだ。
『えいゆう』は いちどだけ あしもとをみます。きょだいかした『ほしつるぎ』をささえて、いっぽも みうごきできない じぶんじしんを。
…………でも、さ。わたしに ここでつぶされるのなら さいしょから いないのといっしょよ!
かくごをきめて『えいゆう』は『ほしつるぎ』をふりおろしました。そのさきにいる『ゆうしゃ』も『まおう』も ぜんぶおしつぶして なかったことにしようと。
しかし、きょだいな いんせきのように おちてくる『ほしつるぎ』をゆうしゃのせいけんからはなたれた はくぎんのひかりが うけとめます。
まるで、オーロラのような うつくしい ひかりが あたりいったいに ひろがっていきます。
へぇ、さすが『ゆうしゃ』ってとこだけどさ、そんなの あと10びょうも もたないでしょっ。
『えいゆう』は さらに『ほしつるぎ』に こんしんの ちからをこめます。
っ、それでも わたしは さいごまで まもりとおします。このきもちを、ほんとうにまもりたい『みんな』を、さいごまで!
ゆうしゃの きはくといっしょに はくぎんのひかりは ちからづよくなりますが、『ほしつるぎ』は さらなる ちからづよさで ひかりごと おしつぶしていきます。
どんなにうつくしい『りそう』も、ただつよいだけの『げんじつ』にまけてしまうとでもいうかのように。
あのな、かってに おまえひとりで ぜんぶ せおってんじゃねえよ。
そこへ、ちからづよいこえが かけられます。
まおうが、ゆうしゃのとなりに たっていたのです。
ゆうしゃが おどろくまもなく、まおうは ずじょうに おちてくる『ほしつるぎ』にむけて まけんをふりぬきます。
まけんから はなたれた しっこくのひかりが、せいけんのはくぎんの ひかりといっしょに『ほしつるぎ』を おしかえしていくのです。
おれは、おまえみたいに ぜんぶ せおうなんていえない。だけど、せめて おれじしんの のぞむあしたくらいは、じぶんで せおってみせる。じぶんの ゆめみるあしたくらいは おまえにおしつけたりなんかしない!
まおうは ゆうしゃのとなりで はっきりと いいました。
それと、な。おれなんかのために たたかってくれるおまえを、こんなところで しなせたりしねえよ。
まけんは さらにちからをましていき、せいけんも それにこたえるように ひかりかがやいていきます。
──────────そのこうけいを、ほんのすこしだけ うらやましそうにみていたのは だれでしょうか?
『えいゆう』は めのまえのこうけいが まぶしすぎて、いっしゅんだけ めをとじます。
てきみかたかんけいなく、まもりたいもの『すべて』をまもる。『すべて』をせおってみせる。と、
そんなふうに『かのじょ』も くちにしてみたかった。
『かのじょ』に まもられるだけじゃなく、じぶんの あしでたってみせる。じぶんのあしたくらいは じぶんでまもってみせる。と、
そんなふうに『だれか』に くちにしてほしかった。
つよさをきわめたさきで、たったひとりたちどまってしまった『かのじょ』には どちらも もう てに はいらないものです。
ほんと、まぶしくて、うらやましい。
『えいゆう』が めをあけます。
ほんのすこしでも めをとじたのが いけなかったのでしょう。
『ほしつるぎ』は はくぎんと しっこくのひかりに おしまけ、ふたつのひかりの いりまじったモノクロームのかがやきが『かのじょ』に せまっていました。
わたしの もってないものたくさんみせつけてさ、…………きみたち ズルいよ。
そう いいのこして、『えいゆう』は まばゆいばかりの ひかりに のみこまれていきました。
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