第45話 やりたいこと やるべきこと
ゆうしゃが きづいたとき、かのじょは たてものの なかに いました。
そこには、まおうや きをうしなった まほうつかいのおんなのこ、うごかない にんぎょうけんしもいます。
え、わたしたちは いったい どうなったんですか?
ゆうしゃは まおうに せつめいをもとめました。
おれの しろのなかに てんいしたんだよ。おれと おまえが はじめに たたかった くろいしろが あっただろ。ここは その さいじょうかいだ。
そ、そうなんですね、それは すごいです。ですが、『えいゆう』の あのひとは どうなったんですか?
ゆうしゃは かんじんなことを まおうに かくにんします。
……あいつは、このしろの したじきにした。
まおうは かんけつに こたえました。
じゃ、じゃあ あのひとは。
ゆうしゃは しんぱいそうに うつむきます。
しんでるわけないじゃん。あの『えいゆう』を ふつうの かんかくで はかったら いたいめ みるよ。ってか、さんざん いたいおもいしたでしょ。
そこに、いしきをとりもどした まほうつかいのおんなのこが こえをかけます。
おきたのか。まぁ たしかに、これで あのおんなが しぬなら くろうは しないよな。
まおうが いまいましそうな かおをした そのとき。
どっか~ん!
ゆうしゃたちの あしもとのほうから ものすごいおと と しんどうが つたわってきます。
ちっ、さっそく しろのゆかを つきやぶりやがったな あの『えいゆう』。
よそうどおりの てんかいに、まおうは あきれた こえをだします。
かおをつきあわせずに たおそうなんて むしがいい はなしってことでしょ。それで、そのこは どうしたの? なんかずっと うごかないけど。
まほうつかいのおんなのこは、ゆかにたおれて うごかない にんぎょうけんしをみていいました。
……しんで、しまったのかもしれません。『えいゆう』のあのひとに、『にんぎょうごろし』という ぶきで きられてから、ぜんぜんうごかないんです。
ゆうしゃが つらそうなかおをして いいます。
ふ~ん、そっか。
そういって まほうつかいのおんなのこは あるきだしました。
お、おい。どこにいくんだ?
まおうが こえをかけます。
どこって、あの『えいゆう』のとこだけど。いっぱつ ぶんなぐってやらないと きがすまないじゃん。
とうぜんのことのように、まほうつかいのおんなのこは こたえました。
おまえ、あれだけ かんぺきに まけておいて、よく もういちど たたかおうって おもえるな。
そ? こういうのって きもちの もんだいじゃない? なぐりたいからなぐる、いまは それだけでいいよ。
おんなのこは くだりのかいだんをみつけて そこにむかいますが、いちどだけふりむきました。
……こないの?
だれも ついてこないことを ふしぎに おもったようです。
あのな、おれは……。
ああ、まおうは ねらわれてるわけだし、ふういんされたじょうたいで このしろを だすのに かなりムリしたんでしょ。そうじゃなくてさ、あんたは いっしょに こないの?
まほうつかいは ゆうしゃに たいして いいました。
わ、わたしは。あしでまといに、なるかもしれません。さっきも けっきょく、『えいゆう』の あのひとをまえに、ぜんぜん うごけませんでした。……やりたいことと、やるべきことが いっちしていない わたしでは、ダメだそうです。
ゆうしゃは こたえましたが、おこられるかもしれないと おもって、すこし うつむいています。
─────やりたいこと、やるべきこと? なにそれ。
まほうつかいのこえが へやに ひびきます。ゆうしゃは からだをビクッとさせました。
ですが、つづくことば は とてもやさしい ひびきをしていたのです。
よかったじゃん。あんたにも やりたいこと できて。それ、たいせつにしなよ。
それだけ くちにして、まほうつかいのおんなのこは かいだんをあしばやに くだっていきました。
え?
ゆうしゃは おどろき ほうけた かおをしています。
それほど、まほうつかいのおんなのこが のこしたことばは いがいだったのです。
『やりたいこと』、ゆうしゃが しぜんと くちにしていた ことば、そのなかみには いったい なにが はいっているのでしょう?
おい、ぼーっと するな。おまえは そいつを どこかに はこんでやってくれ。どうせ ここは あの『えいゆう』との せんじょうになる。
まおうは にんぎょうけんしを みていいます。
おれは しばらく うごけない。あの まほうつかいも いっていたが、いまのおれが このしろをだすのは さすがに むりがあったみたいだ。
まおうは つらそうに ゆかへ すわりこみます。
はい、わかりましたっ。
ゆうしゃは いまのじぶんでも できることが あるのならと、まおうの ことばどおりに にんぎょうけんしをかかえます。
でも、どこに はこべばいいですか?
ゆうしゃの しつもんに、まおうは すこしだけ まよったあと こたえました。
…………そこの、へやでいい。
まおうは、ひとつのとびらをゆびさしました。がんじょうで、かんたんには ひらきそうにない ふんいきがある とびらです。
ゆうしゃは にんぎょうけんしをだいて まおうが ゆびさした へやのとびらに ふれます。
とびらは おもたいおとを たててひらき、そのとき まおうの かおが すこし うつむきました。
ちっ、こんな じょうきょうだからとはいえ、そこを だれかにみられることになるとはな。
ゆうしゃは、まおうが なにか いったような きがしましたが、いっこくを あらそうじょうきょうなので まようことなく へやに はいります。
そのへやのなかには──────────。
…………あの、これは?
ゆうしゃは おもわず、まおうに きいていました。
へやのなかは ゆうしゃの よそうしていなかったモノで あふれていたのです。
まおうは、かおをそらしながら こたえました。
そこにあるのは、おれが まぞくのくにを はなれていたあいだの すべてだ。
はずかしそうな、こえでした。
まぞくのくにから にげだして、じぶんのしあわせをさがした おとこのすべてが、そこにあるのだといいます。
ゆうしゃは、しずかに へやのなかを みつめました。
そう、なんですね。これが、あなただったんですね。
どうしてでしょう、かのじょには そこにあるすべてのモノが ほこらしく かがやいているように みえたのです。
……いいから、そいつをおいたら はやくそこをしめてくれ。そのへやは ちょっとやそっとじゃ こわれない。
まおうが せかすので、ゆうしゃは にんぎょうけんしを そのへやに のこして なごりおしそうに とびらをしめます。
ゆうしゃは ききました。
これが、あなたの たどりついた しあわせだったんですか?
まおうは こたえます。
まえにも いっただろ。しあわせなんて みつからなかったって。
つづけて、まおうは いいました。
ただ、ソレとむきあっているしゅんかんは しあわせが どこにあるかなんて かんがえなかった。じぶんが なんのためにうまれて、なにをしなければいけないとか、ぜんぶ わすれられたんだ。
まおうが、くろいしろを しょうかんして すごくつかれていたせいでしょう。
ゆうしゃには じぶんのこころを むぼうびに さらけだした かれのすがたが、どこにでもいる ふつうのひとに みえたのです。
─────────そう、だったんですね。
ゆうしゃは なにかを うけいれたように うなずきます。
どうじに、かいだんを のぼってくる ちからづよい あしおとが きこえてきました。
まちがいなく、『かのじょ』が やってくるはずです。
かくごをきめて、ゆうしゃは いっぽ ふみだします。
もう、あしは ふるえていませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます