貴族であっても人間。そこに生まれ翻弄され昇華する様々な愛のかたち。

幼い頃から睦みあい、何事もなければ王と王妃として誰からも祝福された人生を送るはずであったルイトポルトとパトリツィア。しかしそこに貴族社会のしがらみという残酷な嵐が吹き荒れ、二人の愛は大人たちの思惑に翻弄されます。その結末は明るい未来が待ち受けているのか、それとも悲嘆の涙に濡れるのか。若く無力な二人が縋るのはお互いへの愛のみ。けれど、その愛は時に人智を超えたエネルギーとなって、運命に抗うのです。ルイトポルトは妻への想いと革命への使命、どちらを選ぶのか。結末が気になります。
そしてメインキャラクターの心の動きと共に注目して頂きたいのが、脇を固める個性的すぎる面々です。愛人であったり、参謀であったり、スパイだったり、皆それぞれ、与えられた人生を精一杯生き、時に愛欲に溺れて楽しむことも忘れません。そこは作者様の真骨頂であるエロスの描写に生き生きと描かれ、シリアスなストーリーでありながら時にくすっと笑えてしまうのです。その中でも突出して魅力的なのがルイトポルトの側近であるアントンでしょう。冷徹な実務家であると同時に桁外れの好色家、彼の艶聞の多彩なことと言ったら!けれど彼の心の奥底にある人間の強さと主への忠誠、そして時折見せる妻への愛情……まさに漢(おとこ)たるもの、かくあるべし!と思わせる人物像です。時に主人ルイトポルトを凌駕してしまうその個性にも注目して頂くと、よりこの作品を楽しめると思います。

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