ダチュラの口付け 第4話

 一週間後。タンジの婿入りが、正式に決定した。


 明日は、隣国での顔合わせ。リンドは大変喜んでいた。

 レンジアは、タンジの部屋の前に立つ。


「……王弟さま」


 やはりと言うべきか、返事はない。

 何もしなかったわけではない。反対もしたし、理由をつけて婿入りを破棄させようとした。それだけではないが、リンドはレンジアに話した時点で、ほとんど全てのことを決定させていたのだ。だから、間に合わなかった。レンジアも驚くほどのスピードで、婚姻話は締結した。


 しかし、これは言い訳にしかならない。レンジアが言ったのだ。「絶対に、なんとかする」と。言葉を違えるつもりがないのなら、ここからでも、なんとかしなければいけないのだ。


「王弟さま、入ります」


 ドアを開けると、そこは凄惨な状態だった。

 散乱した本、クッション。布団は床に投げ出されていて、カーテンは無惨なほどに破れている。

 暴れたのは明白。暴れた本人は、この間と同じくベッドの上でうずくまっていた。


「……嘘吐き」

「……」

「なんとかするって言った。お前が言ったんだ。なのに、なのに! おれの婚姻は決まった! おれの意見なんか無視されて、お前も、助けてくれなかった」


 怒号のような。悲鳴のような。


「……お前もどうせ、心の底では隣国に行った方が幸せになれると思ってるんだろ」


 そして、絶望のような。


 レンジアは唇を噛んだ。婿入りを止められなかった。信用を落とした。それは紛れもない事実だ。弁解のしようがない。

 でも、レンジアは言葉を違えない。


「……顔をあげてください、タンジ」

「出ていけ」

「私は言葉を違えません」

「うるさい、もうお前は違えてんだよ!」

「いいえ。まだ手はあります」


 こつん、と杖をつく。

 薄紫の髪が、突如発生した風によって巻き上がる。


「……何をするつもりだ」

「一つ、お聞きします」


 タンジの問いに、レンジアは薄く笑った。


「王族という肩書きを、捨てられますか?」

「……いらねーよ、もう。そんなもん」

「わかりました」


 そう応えたと同時に、タンジの部屋を薄紫色の花弁が充した。

 花びらで満たされた部屋で、こつんと音が鳴る。ふわふわと花弁が一枚ずつ消えていく。


 全てが消えた時、レンジとタンジの姿もなくなっていた。

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