ダチュラの口付け 第9話

「ただいま」

「おかえり。遅かったな」

「タンジは……随分早いわね? 町にいたんでしょう?」

「用はすぐに済んだから」


 レンジアが帽子を脱いでポールハンガーにかける。お茶を淹れようとキッチンへ向かう道中、テーブルの上に、今朝は見なかったブローチを見つけた。


「なあに? これ」

「やる」

「……私に?」

「他に誰がいるんだよ。女物だろ、どう見ても」


 目をぱちくりさせるレンジアに、タンジは顔を逸らす。その耳は、湯気が出そうなほど真っ赤だった。


「……ふふ、ありがとう」

「お前からもらった小遣いだけどな」

「いいのよ、そんなことは。私のために選んでくれたのが嬉しいんだから」


 レンジアが慎重な手つきでブローチに触れる。


「綺麗な黄色ね。シトリンかしら」

「知らね」

「でも、なんで黄色だったの? 私のイメージに、黄色なんてあった?」


 タンジはレンジアの方を見ない。


「……」

「タンジ?」

「……幸せの魔女なんだってな、お前」


 その言葉に、レンジアはきょとんとした。


「なあにそれ、誰が言ってたの?」

「町のやつ」

「やだ、恥ずかしい」

「ぴったりだろ、幸せの魔女に」


 つっけんどんな言い方に、レンジアは困ったように笑った。


「……ねえ、タンジ。あなたにとって私は……幸せの魔女でいられてる?」

「少なくとも、隣国へ婿入りするよりは幸せだよ」

「そう。……それなら、いいの」


 レンジアは大切そうに、ブローチを抱きしめる。


「タンジが幸せなら、それで」

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