ダチュラの口付け 第8話

 タンジは悩んでいた。


 目の前には、黄色くて丸い宝石が花束のようにあしらわれたブローチ。

 タンジが悩んでいる理由は一つ。


「……あいつ、ブローチなんかつけたっけな……」


 これをレンジアへのプレゼントにしようと思ったのだが、レンジアはブローチを使うのか、という悩みだった。

 レンジアが小さな装飾品をつけているのは見た事がある。細いブレスレットは、確かつけていた。もらったネックレスも小ぶりだ。

 そう考えると、あまり大きな装飾品は好まない可能性もある。


「……わかんねー……」

「兄ちゃん、何悩んでるんだい?」


 タンジは急に思考を遮られ、肩を振るわせた。


「あ、えっと」

「ん? あんた……」


 店主が何かを思い出すように眉を顰める。

 まさか、ばれたんじゃ。

 タンジは無意識にネックレスに触れる。


「レンジアのところの子かい?」

「……え、なんで知って」

「髪の色が同じだろう? そんな綺麗な髪をしているのなんて、レンジアくらいしかおらんよ!」


 太陽のように笑う店主を見て、緊張が急に解けた。


「まあ……そう」

「あの子にもついに子どもができたかい!」

「いや子どもじゃねーわ!」

「そうなのかい? でも、見た目が彼女そっくりだよ」

「それは……っ」


 タンジは慌てて口を噤んだ。

 店主はそれに不思議そうな顔をしながらも、タンジの手元を覗き込む。


「それが欲しいのかい?」

「あ、いや」

「もしかして、レンジアへの贈り物?」

「う」

「おお〜いいねいいねえ!」

「いや、まだ」

「レンジアにはお世話になってるから、おじさんも一緒に考えよう!」


 タンジの前に椅子を引きずってきた店主は、ニコニコしながらそこに座る。


「……レンジアにお世話になってるって?」

「ああ、この国の……特にこの町の住人はね、レンジアのおかげで平和に暮らせているんだよ」

「……何?」

「レンジアが目を光らせてくれているおかげだ」


 店主が、幸せそうな顔をした。


「おじさんたちの幸せは、レンジアがいなきゃ、成り立たないんだよ。彼女は、俺たちにとって、幸せの魔女さ」


 タンジは、黙ってそれを聞いていた。

 幸せの魔女。

 漠然と、彼女にぴったりの名前だと思った。


「……店主、これくれ」

「おや、即決かい?」


 花束のような、黄色い宝石たち。

 幸福の象徴のようなそれが、この世で一番、レンジアに似合うと思った。

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