新・折上短編集

折上莢

ダチュラの口付け 第1話

 豪華絢爛な謁見の間で、男は退屈そうに頬杖をついていた。視線は目の玉座には向けられていない。大きな窓から見える青空に向けられている。

 黒髪の長髪を無造作に結った男、タンジは、玉座に座る兄には興味ないと言わんばかりの態度だ。


「タンジ、聞いているか?」

「聞いてない」

「聞いてくれ」

「聞いて何になる? リンド、魔女なんて架空の存在だろ。それも王室直属? 馬鹿な話はよしてくれ」

「まあ、……聞くより見た方が、説得力があるか」


 リンドがため息をつきながら手を叩く。


 誰もいなかった玉座の隣に、小さな薄紫の花が舞った。その花たちは徐々に数を増やしていき、人の形を作り出す。


 タンジは目を見開いた。


 花の中から、女性が現れる。

 薄紫色の髪が、風のない謁見の間でふわりとたなびく。花が消え、そこに立っていたのは美しい女性。大きなとんがり帽子の下から、新緑の瞳が覗く。


「紹介しよう。彼女が王室直属魔女『曇の魔女』こと、レンジアだ」

「初めまして、王弟さま。レンジアと申します」


 レンジアがふわりと笑う。自分が彼女を凝視していたことに気づいたタンジは、慌てて目を逸らした。


「ふむ」


 リンドは何か思案するように視線を上げる。そして、太陽のように笑った。


「しばらくはレンジアと行動するといい!」

「はあ⁉︎」

「彼女はこう見えて長命だ。俺たちの曽祖父よりずっと前から王族を支えてくれている。タンジの苦手な歴史の教師としては、申し分ないだろう」

「だ……っ、だからって一緒に行動しなくてもいいだろうが!」

「放っておくとタンジはすぐにどこかへ行くだろう。見張も兼ねている」

「ふざけんな絶対に嫌だ!」


 飄々としたリンドに食ってかかるタンジ。

 そんな二人を見て、レンジアは小さく笑う。


「……何がおかしい」


 タンジが睨みつけると、レンジアは慌てて表情を取り繕った。


「いえ。なんでも」

「なんでもなくないだろ。今絶対に笑ってた」

「笑っていません」

「笑ってた」

「王弟さまの見間違いでは?」

「なんだと」


 軽快にやり取りする二人を見て、リンドはまた笑う。


「仲が良さそうで何よりだ!」

「仲良くねーよ! よく見ろ! こいつ人見て笑ってんだぞ!」

「まあまあ。ちゃんと仲良くなれるさ」

「聞けよおいリンド!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る