ダチュラの口付け 第5話
タンジが目を開くと、そこはあたたかみのある暖炉の前だった。
「……ここはどこだ」
「私の別荘」
「別荘?」
「隠れ家と言ってもいいかもしれないわね。町の西外れよ」
「ていうか、お前……その口調なに」
「いいじゃない。あなたはもう、王弟ではないのだから、敬語を使う必要もないの」
レンジアが杖を置いて、暖炉のそばで揺れていたロッキングチェアに腰掛ける。
「あなたのものも揃えなくてはね」
「……ここに、住むのか?」
「そうよ」
「……おれの、婿入りは、どうなる」
「婿が消えれば、話も自然消滅するわ」
「……おれは、どうなるんだ」
タンジがぱちくりと瞬きした。
レンジアは、肘掛けに頬杖をつきながら、笑う。
その笑い方は、王族の前では決してしなかったもの。イタズラが成功した子どものような、無邪気な笑い方。
「あなたは今から、私の家族よ」
「……家族」
「タンジは、もう王族ではないわ。王族のタンジは消えた。悲しいわね」
肩を竦めるレンジ兄、タンジは開いた口が塞がらない。
タンジは消えていない。だって今、現に、ここにいる。レンジアが語りかけているのはタンジだ。
「じゃ、じゃあ……おれは、なんだ?」
「あなたは、魔女の家族のタンジ。私の愛しい子よ」
平然と答えたレンジアに、タンジは数秒ぽかんとした。
そして、沸騰するかのように、顔を赤くさせる。
「かっ、家族⁉︎」
「ええ。家族よ」
「そ、お、お前、交際期間とか……っ」
「交際期間? 親子に交際は必要ないわよ」
きょとんとするレンジアに、全身の力が抜けた。
愛しい子、って、そういうことか。
脱力して崩れ落ちたタンジを見て、レンジアは楽しそうに声を上げる。
「恋人の方が良かった?」
「うるっっっせー!」
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