黒いレースのようなアゲハ蝶。それはあたかも、死者を見送る貴婦人の装い。幼い頃の遠い記憶が手招きしている。それは本当に現実? それとも……何気ない日常の先に起きた不思議な体験。飾り気のない追想だからこそ、ゾクリとします。
黒アゲハ、というのがまた怪しげな印象を受けました。語り口調がポツン、ポツンとしていて、なんだかそちらからも不思議な印象を受けました。絵本や詩の読み聞かせのテンポに近いかもしれません。ポツン、ポツンと言葉が胸に染み込んできました。子どもながらの感性等、随所から唯一無二のノンフィクション感を受け、すごく映像的で、場面場面の心境を共有しながら読めたように思います。不思議の中に揺蕩う体験ができる、雰囲気のある素敵な作品でした。
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