本作品の以前にも、同様の試みが為されて
おり、そのオムニバス作品にも恐怖が
満ちていた。海、深山、そして社会の闇を
舞台にした三部作は、読む者に心霊的な、
超自然的な恐ろしさを『共生』もしくは『強制』するものである。
今回の作品は自然への恐怖というよりも
無軌道に発展して行く科学技術、システム
その根源である人の心の闇へと誘う。
認知されざる恐怖の『解放』または現実と
常識の『壊崩』を齎す。
誤解を恐れずに告白すると、二人称小説の
何たるかを正確に理解していなかった。
この小説を読むまでは。
特に。作中、二つ目のテーマ《意識》…。
これを読んだ時の不思議な浮遊感と高揚感
まるで自分が初めてこの世に生み出された
《何か》であるような感覚を覚える。
「ようこそ。」
この文字をディスプレイに見た時の、あの
何とも言えない心持ち。自分が何者で
あるのかという疑念。そして、この欺瞞に
満ちた世の終焉を予感させられずには
いられない。