最終話 ずっと好きだった

登場人物


山西やまにし太希たいき

性別:男

年齢:22

身長:176

髪型:黒のショート。


四条しじょう七海ななみ

性別:女

年齢:22

身長:148

髪型:黒のボブ。


中星なかぼし圭吾けいご

性別:男

年齢:22

身長:182

髪型:金のショート。




静かな視線で太希たいきは自分のドラムスティックを見つめる。


その視線の先には大きなハートマークがあった。


{なんだよ、このハート。}


{私と太希君の夢だよ。}


{夢?}


{そう。1つ1つは小さなハートだけど、2つ合わさると大きなハートになる。

なんちゃって。}


「・・・水樹みずき

もう1度、言われてくれ。

叶えに行こうぜ。2人の大きな夢を。」


そう小さな声で、でも力強く太希は呟くと立ち上がり、ステージに向かう。


ステージの上から見る景色は4年前とは違っていた。


ただ1つ同じなのは水樹が居ないという事だけだ。


その現実に太希は大きく息を吐くとドラムの前に座る。


そして、天国に居る水樹に届くよう願いながら自分の全てを叩き表現する。


その音に観客達が大きく盛り上がる。


「・・・これが…あの日、水樹が聞きたかった音。」


そう水樹の母親が壊れそうな声で言う。


「聞かせて…あげたかった…。」


そう母親は涙を流す。


そんな母親の体を優しく支えながら父親は優しい声で告げる。


「聞いてるよ。」


「え?」


「この音は必ず天国まで届いてるはずだから。だから…絶対、聞いてるよ。

水樹も。

母さん…そろそろ私達も前に進まないといけない時なんじゃないかな?

水樹のためにも。」


そう告げる父親に母親は目線を上げる。


「でも…今は…涙を流しながら…

聞こうじゃないか…この音を…。」


そう父親は言いながら溢れる想いを吐き出す。


その父親の涙を見て母親は初めて知る。

夫も辛かったのだと。

でも、自分が深く落ち込んでいるから、夫はそれを吐き出せないまま4年間過ごしたのだと。


母親は自分の涙をくと

自分の体を支える父親の手を強く握った。


“もう大丈夫だよ”と言う想いを込めて。


🥁


太希のドラムは最高潮へと向かって勢いを上げていた。


そんな太希の眼前がんぜんの景色が変わる。


現実に存在している観客達が白く消え、現実に存在していないの姿が見える。


その水樹は嬉しそうに微笑みながら手を叩いていた。


{そう。いい調子。そのまま頑張れ。}


高校生の時、練習している自分に水樹がかけてくれた言葉を思い出す。


太希の心がさらに熱く盛り上がる。


そして、ドラムは最高潮へ。


「ねぇ…中星なかぼし。」


そう七海ななみが隣に居る圭吾けいごに声をかけると

圭吾は「ん?」と言葉を返す。


「・・・水樹はあいつの音の何が好きだったんだろう?」


そう七海が尋ねると圭吾は目線を七海に向ける。


七海の目線はステージに立つ太希に向いたままだ。


「・・・さぁ?詳しくは分かんねぇけど。多分、太希が1番神川かみがわさんの事を好きだったからじゃないかな?」


「え?」


そう七海は驚きながら圭吾に目線を向ける。それと同時に今度は圭吾の目線が太希に向く。


「オレもお前も心のどかで神川さんを諦めてたんだよ。お前は性別的に。

オレは…太希あいつがいたから。

それを神川さんは感じ取ってたんじゃないかな?

つまり…あいつが1番純粋に神川さんを好きでいたんだ。

だからあいつは神川さんのために頑張れたんだよ…きっと…な。

今回、あいつの練習を手伝ってオレもやっとそれが分かった。

オレ達の音が神川さんの心に強く響かなかったのは…多分、それが理由だよ。」


その圭吾の言葉を聞いて七海は目線を太希に戻す。


「今聞いても、あいつの音は嫌いか?」


そう圭吾が尋ねる。


「・・・嫌いだよ。

でも・・・昔ほどじゃない。」


🥁


「…終わったよ。」


そう太希は水樹のお墓に報告する。


「水樹に届いたかな?

・・・うん。届いた気がする。

だって、あの日の帰りの駅で言ってくれただろ?1番近くで応援してくれるって。

お前はその言葉通り、いつも1番近くで応援してくれた。今日も1番近くで…。」


そう太希は溢れ出しそうな涙をえると顔を上げて笑顔を作る。


「あの日から・・・嫌。

初めて水樹に会ったあの時から。

ずっと…ずっと…言いたい事があったんだ。伝えたい言葉があったんだ。

水樹…ずっと好きだった。」


そう太希は4年以上自分の心にあった想いをやっと水樹に告げる。


だが…その告白に返事は返ってこない。


「・・・じゃ、またな。水樹。」


そう言うと太希は水樹のお墓に背を向けて歩き出す。


「私も好きだったよ。ずっと。」


そう水樹の声が太希の耳に届く。


その声に太希は振り返る。


だが、そこに水樹の姿はない。


それでも確かに太希の心に水樹の返事は届いたのだ。


その言葉が嬉しくて太希は微笑むとまた歩き出す。自分の人生みちを。

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天に届けたい想い 若福清 @7205

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