第4話 叶えに行こうぜ
登場人物
性別:男
年齢:高校3年生
身長:176
髪型:黒のショート。
性別:女
年齢:高校3年生
身長:157
髪型:黒のセミロング。
性別:女
年齢:高校3年生
身長:148
髪型:黒のボブ。
性別:男
年齢:高校3年生
身長:182
髪型:金のショート。
年末ライブ前日の12月30日の夜。
「10時スタートの19時終了か。
太希君の出番は12時だよね?」
そう水樹が案内チラシを確認しながら聞く。
「あぁ。」
そう太希は静かな声で答える。
「初ライブ、緊張してる?」
そう水樹が尋ねる。
「・・・少しだけ。でも…楽しみでもあるかな。あのステージの上から見る景色がどんなものなのか。」
そう太希が正直に答える。
「楽しんでね。目一杯。
私も楽しみにしてる。あのステージで今まで以上に輝いてる太希君の姿。」
そう水樹が優しく微笑む。
「・・・なぁ…水樹。」
「ん?」
「ライブが終わったら、少しだけオレに時間をくれないか?」
「別にいいけど…どうして?」
そう水樹が尋ねる。
「お前に伝えたい事があるんだ…ずっと前から。」
そう太希が答える。
「…分かった。」
🥁
そして年末ライブ当日の12月31日。
太希は
{なんだよ、このハート。}
{私と太希君の夢だよ。}
{夢?}
{そう。1つ1つは小さな
なんちゃって。}
「・・・叶えに行こうぜ。
2人の大きな夢を…。」
そう呟くと太希は立ち上がり、ステージに向かう。
🥁
ステージの上から見る景色は太希が今まで見たどの景色よりも素敵なものだった。
そんな景色の中から太希は水樹の姿を探すが見つからない。
(さすがにこの人数の中から見つけるのは無理か。)
そう思いながら太希はドラムの前に座る。
そして、1度大きく息を吐き出すとドラムを叩き始める。
今までの自分の想い全てを音にするために。
その音に観客達は盛り上がる。
(いい…気持ちいい…。
最高の気分だ。こんなの初めてだ。
ずっと叩いていたい。
この瞬間だけ…この
オレ世界なんだ。)
そう太希はどんどん上がる気持ちをさらに音に変え叩く。
演奏を終えた瞬間。
数分間の疲れが一気にきて太希の息を荒くする。
そんな太希に観客達は拍手を贈る。
その音に太希は顔を上げると立ち上がり、深く頭を下げる。
🥁
(間違いなく、今まで1番の音を叩けた。
水樹は気に入ってくれたかな?)
そんな事を考えながら控え室に帰った太希は用意されたロッカーの中に入れてあった自分のスマホを取り出す。
すると圭吾から着信があった事を知る。
「どうしたんだ?」
そう思いながらも太希は
「おう圭吾。どうしたんだよ。」
そう太希が明るい声で聞くのとは真逆に
圭吾は暗い雰囲気だった。
「・・・なにかあったのか?」
そう不安になった太希が声を落として尋ねる。
「・・・
「…水樹が?」
「…事故で病院に運ばれた…。」
その言葉を太希の脳は上手く理解できなかった。
太希の中の世界に
🥁
太希が病院に着くと圭吾と七海が暗い雰囲気で椅子に座っていた。
「・・・水樹は?」
そう太希が2人に尋ねると圭吾が弱々しく首を左右に振る。
その動作の意味が分からず太希は「は?」と聞き返す。
そんな太希に圭吾が無言で目の前の部屋を指差す。
太希の中に緊張がはしる。
苦しさで息が荒くなりそうなのを
そしてゆっくりと扉を開けるとそこには
泣き崩れている水樹の母親とそんな母親を支えている父親の姿があった。
「・・・太希君…。君も来てくれたんだね。」
そう弱りきった表情で父親が太希に声をかける。
「おじさん…水樹は?」
そう太希が聞くと父親は無言で目の前の台に乗っている人物を指差す。
その人物は全く動かない。
太希はゆっくりとその人物の顔を確認する。
その人物は…間違いなく…水樹だった。
太希の中の世界が壊れる。
それと同時に太希の心を黒く包み吐き気を感じさせる。
その吐き気に
太希は便器の中に自分の心を包む黒いものを吐き出す。
「おぇ。おぇ。おぇぇぇ。」
止まらなかった。
色んな感情が心を渦のようにかき乱す。
🥁
トイレを出た太希を待っていたのは
目を赤くした圭吾だった。
「これ。神川さんが最後まで強く握ってたもの。」
そう言って圭吾は血まみれのチケットを太希に渡す。
それを受け取る太希の心は真っ白で何の感情もなかった。
🥁
暗い帰り道、太希の足は自然と水樹と出会ったあの道路へと進んだ。
…音が聞こえる。バケツドラムの音だ。
太希が目線を音の方へ向けるとそこには泣きながらバケツを叩く七海の姿があった。
その音はいつも七海が叩く音とは違って、何かを壊す様に荒々しかった。
その音に足を止める人は1人もいなかった。
ただ1人…太希だけが遠くから七海を見つめていた。
🥁
家に帰った太希は自分のベッドに倒れ込むと静かに天井を見上げた。
そんな太希の頭に
いつも見せてくれた水樹のあの優しい微笑みだった。
太希は自分の手の中にある血まみれのチケットを強く握り潰す。
真っ白な太希の心に冷たい雨が降り始めた。
その雨は何時間も
この日から太希はドラムを叩けなくなった。
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