本編

第5話 もう4年

登場人物


山西やまにし太希たいき

性別:男

年齢:22

身長:176

髪型:黒のショート。


四条しじょう七海ななみ

性別:女

年齢:22

身長:148

髪型:黒のボブ。


中星なかぼし圭吾けいご

性別:男

年齢:22

身長:182

髪型:金のショート。





そして、時は流れ。

山西やまにし太希たいき。22歳の夏。


{見てみたいなぁ。

このステージに立った、山西君の姿。}


太希は水樹みずきの夢で目を覚ます。


「・・・もう…4年経つのか。」


そう寂しそうに呟きながら太希はベッドから下りる。


「太希~!!圭吾けいご君が来てるわよ~!!」


そう下の階から母親が叫ぶ。


「圭吾?こんな朝っぱらから何の用だ?」


そう文句を言いながら太希は部屋の時計に目線を向ける。


時刻はの12時を回っていた。


「・・・こんな昼っぱらから何の用だ?」


そう太希は言い直すと部屋を出る。


🥁


太希がリビングの扉を開けると

そこにはソファーでくつろぐ圭吾の姿があった。


「よぉ。こんな時間まで寝てるなんて、随分といい夢見てたんだな。」


そう圭吾は笑みを見せながら太希に話しかける。


その笑みを不快に感じた太希は不機嫌な声で「あんの用だよ。」と聞く。


そんな太希に軽く微笑むと圭吾は話を始める。


「お前、今日バイト休みだろ?」


「それがなにか?」


「いい物を持ってきてやったぞ。」


「いい物?」


そう太希が聞くと圭吾は1枚のチケットを太希に渡す。


そのチケットにはこう書かれていた。

“第32回音兎おとうさぎバンドライブ”


「それにオレのバンドが出るんだ。」


「お前、バンドとかやってたの?」


そう太希が驚く。


「あぁ。3ヶ月ぐらい前からな。

それまではソロでドラム叩いてたんだけどな。」


その圭吾の言葉に太希は少し表情を暗くする。


「・・・まだ続けたんだな。ドラム。」


そう言う太希の声は少し寂しそうだった。


「…お前と違ってやめるタイミングを逃しただけだよ。」


そう答えると圭吾は立ち上がる。


「まぁ、来る気があったら、来てくれ。」


そう太希の肩を軽く叩くと圭吾は太希の母親に挨拶をして家を出て行く。


(さ~ぁて。どうするかな~。

・・・まぁ…とりあえずは…)


「母さん。昼飯~。」


そう太希は母親に声をかける。


🥁


(せっかく貰ったチケットを無駄にするのは少し気分が悪いので来てみたけど。

4年前よりお客さん増えてないか?)


そんな事を感じながら太希は会場を見渡す。


「あんたがこんな所に居るなんて珍しいわね。」


そう誰かが太希の後ろから声をかける。


太希はその声に振り返る。


そこに居たのは七海ななみだった。


「…お前も圭吾にチケット貰ったのか?」


その太希の質問が七海の機嫌きげんを悪くする。


「違うわよ。ウチは毎回ここのライブには来てるの。」


そう高校生の時と変わらない冷めた声で七海は答える。


「じゃぁ、お前もまだドラム続けてるんだな。」


そう太希が少し寂しそうな声で言うと

七海は軽く鼻で笑う。


「当たり前でしょ?

ウチはあんたと違って昔から本気でやってるんだから。」


そう吐き捨てると七海は太希のそばから離れて行く。


小さくなる七海の背中を見つめながら太希は「そうだったな」と小さく呟く。


1人になった太希は寂しそうな眼で盛り上がる観客達を見つめる。


{ほら、もっと前で見よう。}


水樹の言葉が太希の耳によみがえる。


その声に太希は目線を横に向ける。


だがそこに…水樹の姿はない。


太希は水樹の温もりが消えた自分の右手を見つめる。


「・・・やっぱ…帰ろう。」


そう小さく呟くと太希は音兎を出る。


そんな太希の様子を七海は遠くから見つめていた。


🥁


ライブが終わり、七海は圭吾が出てくるのを待っていた。


そんな七海の前に圭吾が姿を見せる。


「おっ。お前も来てたのか?」


そう圭吾が七海に声をかける。


そんな圭吾の問いなど無視して七海は単刀直入に尋ねる。


「なんで、あんなやつにチケットを渡したの?」


その七海の質問に圭吾はあえて間を作る。


「・・・何か変わるかと思ったんだよ。」


「え?」


「もう1度聞きたくてな。

あいつの音が。」


そう答える圭吾を七海は驚いた表情で見つめる。


「・・・何で…今さら?」


そう七海が小さな声で尋ねる。


「お前なら分かるだろ?

前に進むためだよ。

結局オレ達は止まったままなんだ。

4年前のあの時から。」


そう圭吾が答えると七海は静かに口を閉じる。


「それが分かってるからお前も迷ってんだろ?プロのオーディション受けるかどうか。実力はあるよお前は。

でも、今のままじゃ受からない。

迷いがある…今のままじゃ…な。

オレも同じさ。このままじゃきっと…バンドを続けられない。

別れケリ”をつけなきゃダメなんだよ。

オレ達…3は。」


そう言い残すと圭吾は七海の前から去って行く。


1人残された七海は静かに暗くなろうとしている空を見上げる。

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