第6話 上手いよ

登場人物


山西やまにし太希たいき

性別:男

年齢:22

身長:176

髪型:黒のショート。


四条しじょう七海ななみ

性別:女

年齢:22

身長:148

髪型:黒のボブ。




ー数日後ー


太希たいきがバイトしている“業績ぎょうせきスーパー”に1人の新人が入る。


「じゃ、山西やまにし君。新人さんの面倒お願いね。」


そうパートのおばさんは太希に新人の面倒を任せると忙しそうにどこかに歩いて行く。


2人残された太希と新人()は黙ってお互いを見つめる。


「よろしくお願いします。

さん。」


そう七海ななみがキンキンに冷めた声で挨拶をする。


(誰か…変わってくれ~ぇ。)


そう太希は心の中で叫ぶ。


🥁


「ありがとうございました。」


そう七海は明るい声と笑顔でレジをち終わったお客様に頭を下げる。


そんな七海を太希は後ろで見守る。


「何でここでバイト始めたんだ?」


そう太希が尋ねる。


「家が近いからよ。

あんたが居るって知ってたら、こんな所選らばなかったわよ。」


そう七海が振り返りもせずに答える。


そんな七海に太希は愛想なく「さいで」と返す。


{もう1度聞きたくてな。

あいつの音が。}


「…ウチは…聞きたくないよ…。」


そう七海は小さく呟く。


「あん?何か言ったか?」


「いいえ。言ってませんよ。さん。」


🥁


バイトが終わり、帰る支度したくをする太希に七海が声をかける。


「この後、暇でしょ?

ちょっと付き合ってよ。」


珍しい七海のさそいに太希は首を傾げる。


🥁


太希が連れてこられたのは

橋下はしした川原かわらだった。


「こんな所でなにすんだ?」


そう聞く太希など無視して七海は大きなリュックからバケツとドラムスティックを取り出す。


「お前、そんな物持ち歩いてんのか?」


そう驚く太希の前に七海はドラムスティックを差し出す。


「叩いてみて。」


そう真っ直ぐ太希の目を見て七海は言う。


「はぁ?なんで?」


そう聞く太希の胸にドラムスティックをし当てると七海は荒々しく叫ぶ。


「いいから叩いて!!」


七海の声は橋の下でキーンと響き広がる。


その七海の声に太希は何か重いものを感じる。


「・・・何があったんだ?

お前…オレの音嫌いだったろ?」


そう心配した様子で太希が尋ねると七海は持っていたドラムスティックを地面に落として太希の服を掴む。


そして、そのまま太希を壁に圧しつける。


「大嫌いだよ!!」


そう七海は荒々しく叫ぶ。


「じゃぁ…なんで?」


そう聞く太希の声は七海とは逆に落ち着いたものだった。


「それでもあんたなんだよ!!

ウチでも、中星なかぼしでもなく。

あんたの音なんだよ!!

水樹に…選ばれたのは…。」


そう必死に訴える七海の顔は太希からは見えない。


「・・・なんで…?

なんで…それを…捨てられるの?

ねぇ…なんで…?」


そう尋ねるながら七海は顔を上げる。


その七海の顔は太希が今まで見たことのないほど弱々しかった。


そんな七海の顔を見た太希は黙って地面に落ちたドラムスティックを拾い上げるとバケツの前に座る。


そして、全力でバケツを叩く。


その音は昔のままだった。

七海が嫌い…水樹が愛した音だった。


{七海。太希君にドラム教えてあげてよ。}


{はぁ?なんでウチが?}


{きっと、素敵な音を叩けると思うんだ。

ねぇ。いいでしょ?}


「・・・やっぱり…。

ウチの方が上手いよ…水樹…。」


そう七海は小さく呟く。


太希のドラムは最高潮へと向かっていた。


そんな太希の心にの景色がよみがえる。


自分が叩く音に盛り上がる大勢の観客達…その中に水樹の姿は…ない。


その景色が太希の心を黒く包み吐き気へと変える。


その吐き気にえられなくなった太希は川に自分の心を包む黒いものを吐き出す。


そんな太希の様子を七海は驚いた様子で見つめる。


「…はぁ…はぁ…。これで分かったか?

オレはドラムを叩かないだけじゃなく、叩けないんだよ。」


そう辛そうな声で伝えると太希は七海の前から去って行く。


その去り際、太希は弱々しい声で「ごめんな」と謝る。


1人残された七海はしばらくの間、動けずにいた。

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