第9話 想像もできないなぁ

登場人物


山西やまにし太希たいき

性別:男

年齢:22

身長:176

髪型:黒のショート。


四条しじょう七海ななみ

性別:女

年齢:22

身長:148

髪型:黒のボブ。


中星なかぼし圭吾けいご

性別:男

年齢:22

身長:182

髪型:金のショート。





太希たいきがもう1度あのステージに立つと決めてから数週間。


圭吾けいごの力も借りて太希はひたすら練習をしていた。


もちろん、今日も音楽スタジオで練習中である。


「はぁ。はぁ。どうだ?圭吾~。」


そう疲れた様子で太希は圭吾に感想を求める。


「あぁ。4年前のレベルには戻ったんじゃないか?でもまぁ、もう1度あのステージに立つならそれ以上の実力が必要だけどな。あのライブハウス、この4年間で結構、有名になったらかな。ステージに立つのも難しくなってるよ。」


そう圭吾が説明する。


「マジですか~ぁ。」


そう太希はヘロヘロと倒れ込む。


「どっちにしろ、神川かみがわさんに届けるなら、あの時以上のものにしないとだろ?じゃないと、4年間の意味がねぇよ。」


そう言いながら圭吾はお茶のペットボトルを太希に差し出す。


そのペットボトルを無言で受け取ると太希は飲み始める。


「あの時以上のもの…か。」


そう小さく呟きながら太希は考える。


🥁


次の日のバイト終わり、スタッフルームで太希は七海ななみに声をかける。


「なぁ。四条しじょう。」


そう名前を呼ばれた七海は無言で太希を見つめる。


「オレにドラム教えてくれないか?」


「はぁ?!なんでウチが…」


{それが分かってるからお前も迷ってんだろ?プロのオーディション受けるかどうか。}


{きっと、素敵な音を叩けると思うんだ。

ねぇ。いいでしょ?}


圭吾と水樹みずきの言葉を思い出して七海は言葉が止まる。


急に言葉を止めた七海を太希は不思議そうな目で見つめる。


「・・・いいよ。手伝っても。」


そう七海の意外な返事に太希は「え?」と驚く。


🥁


そして、七海の力も加わり太希の練習はよりハードになった。


それでも太希は逃げ出さずに練習する。


水樹にあの日以上の音を届けるために。


🥁


そして、時は流れに流れ。

山西やまにし太希。22歳の秋。


圭吾は七海を夜の公園に呼ぶ。


「なに?こんな時間にこんな所に呼んで。」


そう七海が圭吾に尋ねる。


「明日だな。太希のオーディション。

実際どうなると思う?」


そう圭吾が尋ねる。


「さぁ?でも…やれる事はやったと思うよ。」


そう七海は圭吾に目線を合わせずに答える。


「1つ聞いてもいいか?」


「なに?」


「なんで太希を手伝おうと思ったんだ?

いつものお前なら断ってただろ?」


その圭吾の質問に七海は少し考える素振りを見せる。


「・・・あんたと水樹の言葉を思い出したからよ。」


「神川さんの言葉?」


「あいつなら、素敵な音を叩けるって。

その音がどんなものなのか、気になってね。」


そう目線を合わせないまま七海は答える。


「聞けるといいな。あのステージで。」


そう圭吾が言うと七海はやっと目線を圭吾に向ける。


「・・・期待してないよ。ウチは。」


そう静かな声で七海は答える。


次の日、太希は見事にオーディションに合格する。


🥁


そして、さらに時は流れ。

音兎おとうさぎの年末ドラマーライブ当日。


「太希~。あんた朝ごはんどうするの?」


そう聞きながら母親は太希の部屋を開ける。


だが、そこに太希の姿はない。


「・・・どこ行った?あいつ。」


🥁


そのあいつは水樹のお墓に来ていた。


丁度ちょうど4年…か。

随分待たせたよなぁ。

でも、その代わり…あの日以上の音を届けるよ。だから、天国そこで聞いててくれよ。1番の特等席で。」


そう伝えると太希はチケットを水樹の墓の前に置く。


「ライブが終わったら、もう1度来るよ。

あの日、伝えられなかった想いを伝えに。」


そう言って太希は軽く手を合わせると立ち上がり、水樹の墓を背に歩き出す。


そんな太希の背中に声がかかる。


「頑張れ。」


その声に太希は振り返るがそこには誰も居ない。


軽く微笑んだ後に太希はまた歩き出す。


🥁


ー神川家ー


「母さん。」


そう水樹の父親が母親を呼ぶ。


その声に母親は弱々しく顔を上げる。


「これ、覚えてるかい?」


そう言って父親は1枚のチケットを母親に見せる。


「あの日、水樹が最後まで大事に握ってたチケットと同じ物だ。

このステージに太希君がまた立つんだよ。一緒に見に行かないかい?

あの子がずっと見たがっていた景色を。」


そう父親は優しい声で母親に話しかける。


🥁


「よっ。」


そう圭吾が七海に声をかける。


その声に七海は目線を向ける。


「ついに本番だな。」


そう圭吾が七海の横を歩きながら言う。


「そうね。」


そう冷めた様子で七海は言葉を返す。


「どんな音、叩くかなぁ?あいつ。」


そう圭吾は尋ねる。


「さぁ?想像もできないなぁ。」


そう七海は小さな声で答える。


そして、太希のライブが始まる。

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