第2話 見てみたいなぁ

登場人物


山西やまにし太希たいき

性別:男

年齢:高校1年生

身長:172

髪型:黒のショート。


神川かみがわ水樹みずき

性別:女

年齢:高校1年生

身長:155

髪型:黒のセミロング。


四条しじょう七海ななみ

性別:女

年齢:高校1年生

身長:147

髪型:黒のボブ。


中星なかぼし圭吾けいご

性別:男

年齢:高校1年生

身長:178

髪型:金のショート。





ー次の日ー


「うん。似合ってる。」


そう母親が制服姿の太希たいきを見て頷く。


「じゃ、行ってきます。」


そう言うと太希は家を出る。


山西やまにし太希。今日から高校生である。


🥁


太希は自分が通う“中津なかづ高校”に着くと自分のクラスを確認する。


「おう。太希。何組だった?」


そう1人の男子生徒が太希に声をかける。


この男子生徒の名は中星なかぼし圭吾けいご

太希とは小学校からの付き合いである。


「4組。お前は?」


そう太希が聞き返す。


「2組だったよ。一緒のクラスにはなれんかったなぁ。」


そう圭吾が残念そうな声で言う。


「まぁ、そんなもんだろ。」


そう太希は冷めた声で返事を返す。


🥁


太希が1年4組のクラスに着くと黒板に

適当な席に座って待つようにと書かれていた。


(適当な席ってなんだよ。)


そう思いながらも太希は適当な席に座る。


「山西君?」


そう後ろから声をかけられて太希は振り返る。


そこに居たのはなんと水樹みずきだった。


予想もしていなった展開に太希の思考は止まる。


「同じ学校で同じクラスなんてびっくりだね。」


そう水樹は昨日、太希に見せた優しい微笑みをもう1度、太希に見せる。


その微笑みを見た太希の頭に昨日言われた母親の言葉がよみがえる。


{恋でもしてみれば?}


太希の中に少しずつ何かが作られていく。


🥁


それから数ヶ月後。


パコパコボヨ~ン。

パコパコボヨ~ン。


「ぐっははは!!」


そう太希が叩くバケツの音を聞いて圭吾が大きく笑う。


そんな圭吾を太希は不機嫌そうな目で睨む。


「いつ聞いても最高だなぁ。

お前のは。」


そう圭吾は太希をバカにする。


「うっさい。オレより少しだけ上手いからって調子にのんな。」


そう太希が言い返す。


「お前の少しはどんだけの距離があんだよ。」


そう圭吾は小バカにした態度を変えずに聞く。


「1万キロだろうが2万キロだろうが

オレにとったら、少しなんだよ!!」


そう太希は大きく叫ぶ。


「三下同士の喧嘩はよそでやってくれる?」


そう七海ななみが屋上の扉の前で

太希と圭吾に不機嫌そうに声をかける。


「ちょっと、七海。

そんな言い方ないでしょ?」


そう一緒に居た水樹が七海をしかる。


「ウチは事実を言っただけだよ。

何ヵ月も練習して、下手くそなこいつ等が悪い。中でも・・・あんたの音が1番ムカつく。」


そう言って七海は太希の前に立つ。


「ちょっと、七海!!」


そう怒鳴る水樹を太希が止める。


「悪かったな。行こうぜ、圭吾。」


そう太希は言うと圭吾を連れて校舎こうしゃの中に入って行く。


「も~。何であんな言い方するかな?

同じドラマー同士、仲良くすればいいのに。」


そう水樹は呆れた声で七海に言う。


「同じ?あんな奴等と一緒にしないで。

あんたに好かれるためだけにドラムやってるあんな奴等と…。」


そう最後の1言は水樹に聞こえないほど小さな声で七海は呟く。


🥁


「・・・なぁ。何でお前までドラム始めたんだ?」


そう廊下を歩きながら太希が圭吾に尋ねる。


「お前と同じ理由に決まってんだろ?」


そう圭吾が答えると太希は足を止めて窓の外を眺める。


「・・・だよな。」


そう小さく呟く太希を圭吾は微笑みながら見つめる。


「・・・いい女だよなぁ。神川水樹。」


「・・・あぁ。」


そう太希は短く答える。


🥁


放課後になり、家に帰る準備をする太希に水樹が声をかける。


「ねぇ、山西君。ちょっといい?」


「どうした?」


そう太希は目線を水樹に向けて尋ねる。


「次の日曜日、暇かな?」


「まぁ、予定はないけど。」


「だったら、一緒にドラマーライブに行かない?」


「ドラマーライブ?」


そう太希が聞くと水樹はかばんの中から1枚のチケットを取り出す。


音兎おとうさぎって言うライブハウスでやるんだ。このライブハウスはドラマーを強くしてるの。

だから、年に何回かドラマーだけのライブをやるんだよ。

本当は七海と行く予定だったんだけど、七海が急に行けなくなって、チケットが1枚余ってるの。良かったら、一緒に行かない?」


そう水樹が優しく微笑みながら聞く。


「・・・オレで良ければ。」


そう答えると太希はチケットを受け取る。


「良かった。待ち合わせ場所とかはまた明日、決めよう。ありがとね。」


そう満面の笑みでお礼を言うと水樹は教室を出て行く。


「・・・デート…ではないな。」


そう小さく呟いたのちに太希は再度、目線を自分の手の中にあるチケットに向ける。


🥁


そして、日曜日。

結局、待ち合わせ場所は現地である音兎の前になった。


「ここが音兎か。

おぉ。看板かんばんが兎型だ。」


そう太希は音兎の看板を見つめながら呟く。


「山西君、お待たせ~。」


そう声をかけながら水樹が走ってくる。


初めて会ったあの日以来の水樹の私服。

あらためて見ると…とても可愛い。)


「山西君?」


そう自分の事を見つめる太希に水樹は首を傾げる。


「ごめん。なんでもないよ。入ろう。」


そう太希が言うと2人は音兎の中に入る。


音兎の中は大勢の人で賑わっていた。


その人の多さに太希がまれていると

「ほら、もっと前で見よう。」と言って水樹が太希の手を掴んで引っ張る。


自分の手から感じる水樹の温かさに太希の心は持っていかれる。


その温もりが放れる。


「ほら、見て。あれがあなたが目指す世界だよ。」


そう水樹に言われて太希は目線をステージに向ける。


ステージの上では名前も知らないドラマーが自分の全てを音として叩き表現していた。


その音に会場はわき上がる。


たった1人の人間が叩く音にこれだけの人達が熱く盛り上がる。


今まで太希が知らなかった世界。


そんな世界に太希は圧倒される。


「見てみたいなぁ。」


「え?」


そう太希が水樹の言葉に聞き返す。


「このステージに立った、山西君の姿。」


そうキラキラした眼でステージを見つめながら水樹は言う。


「・・・オレには無理だよ。

圭吾や四条しじょうよりも下手なんだから。」


そう太希は静かな声で答える。


「でも、私は山西君の音が1好きだよ。」


そう優しい微笑みを太希に向けながら水樹は言葉を返す。


そんな水樹の微笑みを太希は黙って見つめる。


🥁


ライブも終わり2人は駅まで一緒に帰った。


「じゃ、私こっちだから。

今日は付き合ってくれて本当にありがとね。」


そうお礼を言うと水樹は太希に背を見せて歩き出す。


「神川!!」


そう太希が呼ぶと水樹は足を止めて振り返る。


「・・・頑張ってみるよ。」


「なにを?」


そう水樹は首を傾げる。


「神川が見たいって言った…。

あのステージに立てるように…。」


そう太希が答えると水樹は嬉しそうな表情を見せて太希に近づく。


「応援するよ私。誰よりも全力で。」


そう言って水樹は太希の両手を強く握る。


「あ、ありがとう。」


そう少し顔を赤くして太希はお礼を言う。


「・・・ねぇ…もう1つお願いしてもいい?」


「え?」


そう太希は再度、目線を水樹に向ける。


「山西君の事、名前で呼んでもいいかな?」


「え?」


「1番近くで応援したいから。」


そう真っ直ぐ太希の目を見て水樹はお願いする。


「・・・別に…いいよ。」


そう唐突とうとつなお願いに太希は力なく了承する。


「ありがとう!!私の事も水樹でいいから!!頑張ってね。君。」


そう嬉しそうなに微笑むと水樹は去って行く。


小さくなる水樹の背中を太希は真っ白な頭で見送った。

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