腹筋BREAKER決勝トーナメント 第三試合②

「あれが今回初出場のルーキーかあ」

「なかなかやるじゃん」

 あきあかねがシタミデミタシの漫才を舞台袖で見ていた。

 可愛らしい外見とは裏腹に、その表情は自信に満ちていた。

 腹筋BREAKERファイナリスト唯一の女性コンビである彼女たち。

 あらゆる意味で注目度が高いのは間違いない。

「そろそろ出番だね」

「そんじゃま、やっちゃいますかー」

 あきがあかねの方を見て、声をかけた。

 それにあかねがゆるい感じで返す。

「シタミデミタシ対あきあかね。続きまして後攻、あきあかねです!」

 そしてついに、あきあかねの漫才が始まる。


「どーもー、あきでーす」

「あかねでーす」

「「あきあかねでーす、しゃーい!」」

「最近ね、ここではないどこかに行ってみたくなる時ない?」

「自殺の名所?」

「そこまで追い詰めてないよー! 興味があるっていうかね。流行ってるやつなんだけど」

「SNSを使った選挙活動?」

「ちょっと待って違う! それも流行ってるかもしれないけど。異世界転生よ」

「あーそれはあたしも行ってみたかったかも」

「ね! どんな感じなんだろうって思うじゃん?」

「はーしれはしーれー いす〇―のトラックー キキードオオン! はい異世界行きましたー」

「ちょっと待って! それはもうダメ!」

「何で?」

「訴えられたら負けるー!」

「異世界もののマンガは大体こんなんばっかよ」

「運送業界から苦言を呈されているんだから、もっと考えないとダメだって!」

「じゃああれだね。自分のミイラを残すために安楽死ね」

「なんか設定すごすぎるわー! それで異世界行ったとしてどうすんの?」

「ラブリーチャーミーな敵役!」

「それすごい聞いたことあるー! 何、悪役令嬢すんの?」

「あかね鋭いねー」

「そこまでお膳立てがあったらね、流石にね」

「そ・れ・で! 転生した悪役令嬢であるこのあたしが活躍するにはどうするか、あかねも考えて欲しいわけ!」

「結局自分の願望を満たすわけかー」

「よーし、イケメン捕まえに行くぞー」

「欲望ダダ漏れじゃん」

「スパマリ捕まえたるからなー!」

「スパダリね! スパマリだとスーパーなマリオが出てくるよ。マリオもすごいけどさ。あきには何か作戦ってあるの?」

「ガンガンいこうぜ!」

「ドラクエの話じゃないの! どうやってスパダリを振り向かせるかだからさ」

「ここはやっぱ料理だと思うんだ」

「ああ、料理ねー。胃袋から制圧しに行くかー」

「でもさ、その世界にないはずの料理を作って大丈夫かな?」

「そこは知識チートしちゃえばいいじゃん! 転生特典みたいなもんよ」

「現地は野菜も果物も糖度が低いよ絶対!」

「そこは諦めて! 郷に入っては郷に従えだから」

「だからさ、甘いものがいいんじゃないかなって思ってるんだ」

「スイーツは時代を超えて愛されてるからねー」

「プディング、がいいんじゃないかと思ってね」

「プリンでいいじゃん。すっと言ってよー」

「やんごとなきお方には刺さるからね」

「それ何か別の有名作品じゃん」

「やっぱ偉いお方にはプリンでおじゃる!」

「やっぱおじゃる丸だったかー」

「それでイケメンをゲットするのはいいんだけど、異世界生活って心配事が結構あるじゃん」

「イケメンゲットは確定路線なんだ。確かに現実と違うところって多々あるだろうしね」

「まず心配なのは美容関係ね。スキンケアとかどうしてんのかなって」

「ホントだー、考えたことないかも」

「米のとぎ汁にうぐいすのフンとかやだよ」

「ちょっと待って! それ日本の平安時代じゃん! 異世界だったら中世ヨーロッパ辺りでしょ」

「あとお化粧も気になるなあ。白粉にお歯黒とかかなあ?」

「だから平安時代じゃないって! 流石に化粧とか香水は何とかなるんじゃない?」

「あー、女性はいつまでも可愛く美しくありたいものなんだから、そこが保証されてないと心配だわー」

「ちょっと取り乱さないでねー」

「あたしからルックスを取り上げたら何も残らないわー」

「よう言うなあそんなこと!」

「あーもうそんな生活耐えられない。化粧品もスキンケアグッズもドラッグストアも通販もないなんて!」

「勝手に色々要求を増やしてきたね」

「そんなんだったら異世界行くのやめた!」

「ってことはさ、あきって現実結構楽しんでんじゃね?」

「Chu、リア充でご・め・ん!」

「それめっちゃ敵作るやつやーん。もういいや、どうもありがとねー☆」


 あきあかねの漫才で会場は再び盛り上がりを見せる。

 拍手笑いも多く、接戦が予想される。

 後は結果を待つだけである。

 シタミデミタシとあきあかねは会場の中央に呼び出される。

「それでは、シタミデミタシとあきあかねの漫才、結果発表に行きたいと思います」

 スクリーンの後ろにそれぞれの点数が表示されようとしている。

「先攻、シタミデミタシの点数はこちら! 374点!」

 シタミデミタシの点数がスクリーン上に表示される。

 後はあきあかねの点数がどうなるかだ。

「後攻、あきあかねの点数はこちら! 371点!」

 接戦の末、シタミデミタシが勝利をもぎとった。

「それでは、審査員からのコメントを頂きたいと思います」

 審査員の一人が総評を語り始める。

「どちらのコンビもしっかりとお題を活かしたネタを披露してくれていました。私はシタミデミタシの方を高く得点つけたんですが、決め手となったのは後半にかけての流れですね。シタミデミタシの方がしっかり笑いを取りに行っていた印象を受けました。あきあかねも序盤から積極的に笑いを取りに行っていたのは良かったんですが、もうちょっと終盤でのパンチが欲しかったですね」


「ありがとうございました。それでは、先攻のシタミデミタシのお二人にお話しを伺いたいと思います」

 審査員の淡々とした総評が終わり、司会者がシタミデミタシの二人に話を振る。

「どうなるんだろうと思いましたが、ひとまず安心しました」

「お手柔らかにお願いします」

「今更だろ! もっと言うことあるんじゃねえか?」

 悟とくがっちが何とかして話し始めた。

 コメントに不慣れなのだろうというのが聞いていて伝わってくる。

「続きまして、あきあかねのお二人にも伺いたいと思います」 

 司会者があきあかねに話を振った。

「まだまだだったんだなと思うばかりですね」

「そっちは初めてなんだからさー、あたしたちに勝ちを譲ってくれないとさー」

「それ言ったらだめよー」

 あきが急にシタミデミタシの二人に話を振ったので、思わずあかねがツッコミを入れる。

「は、はい!」

「はいじゃないんだよ!」

 それに対してくがっちがモロに反応してしまったので、悟がツッコミを入れる。

「お客様の前で不正はしないで下さいね。第三試合はシタミデミタシの勝利と言うことで、おめでとうございます!」

 会場が拍手で包まれた。

 シタミデミタシの二人は準決勝へと向かう。

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未来は下見できない たたみや @tatamiya77

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