怖さ、不思議さ、そして可笑しさ。様々な味を楽しめる落語調ホラー
- ★★★ Excellent!!!
語りは小説の命です。そこの語り口一つによって話の雰囲気がガラリと変わり、読む人がニコニコしながら読むか、それともゾワっと戦慄しながら読むかの違いが出てくるものです。
この『みぎてだけ』は、その点でとっても語りが上手い。まず落語調という形で、噺家が一つの『怪異譚』を語るという形式になっています。
とあるアパート。そこに住みついた男が、壁からある『奇妙なもの』が生えているのに気づく。最初は汚らしいと思って駆除していたが、それはだんだん『一つの形』となって成長していく。
場合によっては不気味なエピソードとなりそうな設定ですが、語りも軽妙な上、主人公もどこかとぼけた雰囲気で憎めない。
そんな彼が、壁から出てきた『存在』に対して、ある感情を抱き始める。
それが妙に切ないやら、ちょっと可笑しいやら、それでいて少しゾワゾワくるような感じもして、どういう方向へ話が転がって行くのだろうと、読者としてはぐいぐいと先を読まされることになります。
語り口とキャラクターの個性によって、どんなオチに向かって行っても不思議ではない、絶妙な味わいを作り出しています。
とても巧みで、そして面白い小説でした。是非ともこの一席、味わってみてはいかがでしょう。