怖さ、不思議さ、そして可笑しさ。様々な味を楽しめる落語調ホラー

 語りは小説の命です。そこの語り口一つによって話の雰囲気がガラリと変わり、読む人がニコニコしながら読むか、それともゾワっと戦慄しながら読むかの違いが出てくるものです。

 この『みぎてだけ』は、その点でとっても語りが上手い。まず落語調という形で、噺家が一つの『怪異譚』を語るという形式になっています。

 とあるアパート。そこに住みついた男が、壁からある『奇妙なもの』が生えているのに気づく。最初は汚らしいと思って駆除していたが、それはだんだん『一つの形』となって成長していく。

 場合によっては不気味なエピソードとなりそうな設定ですが、語りも軽妙な上、主人公もどこかとぼけた雰囲気で憎めない。
 そんな彼が、壁から出てきた『存在』に対して、ある感情を抱き始める。

 それが妙に切ないやら、ちょっと可笑しいやら、それでいて少しゾワゾワくるような感じもして、どういう方向へ話が転がって行くのだろうと、読者としてはぐいぐいと先を読まされることになります。
 語り口とキャラクターの個性によって、どんなオチに向かって行っても不思議ではない、絶妙な味わいを作り出しています。

 とても巧みで、そして面白い小説でした。是非ともこの一席、味わってみてはいかがでしょう。

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