第10話


「……なるほど、な。」


 父さんに報告をしている間に、頭が整理される。

 別の世界で、僕が西本さんと付き合った理由も、

 なんとなくわかってくる。


「……。」


 父さんが、沈痛な表情をしている。


「いや、実はな。

 事務所の資金繰りのためにと俺が融資申し込みした先を、

 晶子さんが調べて、ストップしてくれたんだよ。

 この内容なら国の機関で貸してくれるってな。

 

 で、改めてその融資先をちょっと調べたら、

 外は普通の金融機関を装っているが、

 実態は相当不味いところだったようでな。

 あんなのを借りていたら、骨までしゃぶられるところだった。」


 うわ。

 えらいディープな話を。

 

「……そうなったら、

 俺は親父に頭を下げなきゃいけないところだったんだよ。」


 あ。

 

 


「……

 晶子さまさまだよ。

 俺が助けていたはずなのに、

 いつのまにか、俺が助けられてる。」


 そう、か。

 晶子さんと父さんが結婚したことが、

 西本さん達の罠から父さんと僕を救ったわけ、か。


 ……

 

 ん

 ん??


「……

 ねぇ、父さん。」


「なんだ。」


「その、

 ちょっと、突飛すぎる発想なんだけど。」


「ん?

 どうした?」


*


<まさかと思ったが、

 お前の言う通りっぽいぞ>


 やっぱり、か。


<晶子のおかげでカネの流れが見えたから、

 積み上げて突き付けやる>


 ……


<あのね、父さん>


<なんだ>


<こっちも、

 の件、謝ったら?>


 あ。

 黙った。


<ほんとうに残念だけど、

 これについては、御爺さまが正しかったよ

 晶子さんみて、そう思わない?>


 沈黙、か。

 

<検討する>


 ……はは。

 そりゃ、意地、あるよなぁ。

 親に逆らって命がけで結ばれたはずの相手が、

 ただの詐欺師だったなんて、思いたくなかったろうし。


 ……

 その、血を、

 僕は


「ゆーくんは、ゆーくんだよ?」


 ぶっ!?!?

 な、なっ


「にゃははは

 だってぇ、ぜーんぜん気づかないんだもんっ。」


 う、わ、おっ!?

 の、伸し掛かってくるなっ!


「ふふ、

 ゆーくん、かっわいいっ。

 いまのうちに、いっぱい堪能しておかないとねっ。」


 な、なにをだよっ!?


「だーいじょうぶ。

 あのね、いい遺伝子持ってても、

 クソみたいなオトコ、いっぱいいるんだから。

 

 そういうのはね、

 カオに、しっかり出るんだなー。」

 

 ……

 ぶっ!?


「にゃっはははっ」


 い、いま、いま


「ほっぺたでしょー?

 ヨーロッパではごあいさつだよ?」


 そ、それも、

 アニメの知識だなっ!


「うんっ。」


 開き直るな43歳っ!


「にゃははは。

 でもいまはぴっちぴちの15歳だからさっ!」

 

 ぐふっ

 魔法の言葉の効果がない、だ

 

 ぬぞわぁぁぁぁぁっ!?

 く、首筋を舐めるなぁっ!!


「だいじょうぶだいじょうぶ。

 ゆーくんは、わたしがちゃぁんともらってあげるからさー。

 西本さんみたいなアバズレじゃなくてねー。」


 アバズレって。


「まぁ、もう、言っちゃうけど、

 なんていうか、可哀そうだったけどねー。

 家のためだもん。」


 ……ってことは、

 やっぱり、僕のことが好きなわけじゃ


「……

 ううん。

 たぶんね、素直になれないんだと思う。


 なんていうか、怖いから、マウントを取っておきたいんだよ。

 好きな人だからこそ、振り回されるのが、怖い。

 ちょっとだけ、わかるよ。

 

 でも、さ。

 そんな自分大事な娘に、

 わたしの大切な大切なゆーくんを渡すのは、

 願い下げだねっ。」

 

 ……

 

 んぶっ!?

 

「にゃはははは。

 この胸、ハリ、あるでしょー。

 ぼよん、ぼよよんっって感じ?

 ほらほら、揉んでみる?」


 い、い、いいから、

 見せなくていいし、

 そんな直球、要らないからっ。


「えー?

 もう、むっつり童〇スケベだなぁ。

 そそるような感じがいいの?」


 ……

 いいって、もうっ。


「……

 だいじょうぶ、だよ。

 きっと、ね。」


 ……?


「あー。

 おなかすいたよぅー。

 なんか美味しいの作って、おにーちゃんっ。」


 たまには作れっての。

 ほんとにもう、本能しか入ってないんだから。

 おばさんって幼児退化するのかな。


*


「……

 お前の言う通りだった。

 俺の不始末で、迷惑をかけたな。」


「…… 

 いいよ、もう。


 ああいう人もいる。

 それだけのことだよ。」


「……。


 変わったな、悠。」


 変わった、か。

 いい方向に、だといいけど。


 もう、あの女のことを、忘れられる。

 晶子さんと、美玖と一緒に、

 前を向いて、生きていける。


「……

 親父、お前と飯が食いたいそうだ。

 今日の話とは、別にな。」


 え。


「……

 残念ながら、お前を気に入ったようだ。

 我が親ながら、ああなると、めんどくさいぞ?」

 

 う、わっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る