第7話


 美玖に話すか、

 話さないか、迷ったけど。


 言わなきゃ、わからないから。


 「……あー。

  そう、なるのか……。」


 美玖は、少し真剣に考える顔になる。

 そういうときは、エロさが減って、美少女っぽく見える。


 「……」


 身内のひいき目が入ってるかもしれないけど、

 実際、美玖は、

 

 「やっぱり、

  慣性、かな?」

 

 慣性?

 

 「……うん。

  前の世界で晶子さんが死ぬのって、

  ちょうど一か月後くらいなんだよ。」

 

 あぁ。

 

 「前の世界と同じような動きになろうとする動きが、

  働いてるんじゃないかって。」

 

 おかしい。

 にわかに信じがたい。


 「美玖が、賢そうに話してるなんて。」

 

 「ぶはぅっ!」

 

 物理用語を使える美玖なんて、ありえない。

 

 「あのねっ。

  ゆーくん、わたし、28だよ?

  

  そりゃまぁ、ゆーくんからみれば、

  なんーにも考えずに、流されて生きて来ちゃったって見えるかもだけど

  歳の功で、いろいろ見てきちゃったし、

  わたしなりにわかることもあったし、思うこともあったんだよ。

  

  それに、時間旅行なんて、

  ゆーくん、してないでしょ?」

 

 依然として信じがたいんだが。

 

 「前の世界で、

  さぶすくまだ存在しないのアニメでいろいろ見てたんだよ。

  時間旅行もの。」

 

 知識、そこからなのかいっ!

 真剣に出典を考えて損した。

 

 「にゃははは。

  でも、アニメ製作者の人達もいろいろ調べて書いてるし、

  理系の大学院出た人もいたりするから、

  案外、バカにできないんだよ。」

 

 まぁそうかもしれないけど、

 所詮はフィクション

 ……みたいなものだな、いま。


 「その中にあったの。収斂仮説。

  元の世界で起こった出来事へ戻そうとする力。」

 

 ……。

 

 「シチュエーションや事案は違うけれども、

  最終的に起こった出来事そのものは同じ、

  みたいなやつだよ。」

 

 ……あぁ。

 

 「うん。

  その場合だと。


  どうやっても、晶子さんは死ぬ。

  

  ……みたいな感じ。」

 

 ……。

 

 ん…?

 あ、れ?

 

 「この話、さ。」

 

 「……うん。」

 

 「一万歩譲って、

  晶子さんが死んじゃうとするでしょ。」

 

 「……。」

 

 

  「でも、究極、

   美玖とは関係なくない?」

 

 

 「……

 

  え?」

 

 「だって、そうなったとしても、

  美玖は、父さんの義理の娘だし、僕の妹だよ。」


 少なくとも、

 児童養護施設に行くことはない。

 

 「……

  ……

  あ。

  

  で、でも。」

 

 「最悪、同居人ってことになったとしても、

  父さんの性格からして、

  美玖を見捨てたりすることはないよ。

  

  一見冷たく見えるけど、

  一度懐に入れた人には甘いから。」

 

 だから、あの女に付け込まれたんだけど。

 

 「……

  ……

  

  なの、かな。」

 

 「うん。

  まぁ、僕もいるしね。」

  

 頼りないけど。

 物理、弱すぎるけど。

 

 「……

  ……

  

  ……

  

  すきっ!!」

 

 「うわっ!」

 

 どすぅんっ!

 

 「あ、危ないな、も

 

 ……

 

 ふよん


 ふよんふよふよ

 

 「あ、遊んでるでしょっ!」

 

 「にゃはははは、

  ば、バレた?」

 

 「か、顔に胸、押し付けてれば、

  バレないわけないでしょっ!」

  

 「バレないバレない。」

 

 「バレバレだってのっ!」

 

 な、なんか、

 重たい空気、抜かれた気がする……。


*


 「例の田中洋二氏の娘、

  推薦、取り消しになってるようだな。

  素行不良だそうだ。」


 あぁ。

 そこは捌いてたのか。

 しまったな、ちゃんと気にしておくべきだったかもしれない。


 「入試で入れる高校が、

  かなり柄の悪いところだったらしく、

  虐められてたらしい。」


 (おいブタ、

  てめぇ、なんとか言ったらどうなんだ。)


 ……因果、応報。 

 同情の余地、ゼロだな。

 

 「で、高校に通わずに、

  県外の街で遊び惚けてたのをを補導され、

  親を呼び出そうとしたところ、親の会社が、倒産してたと。」

 

 ……。


 「そして、だ。

  田中氏の件、残念だが、

  晶子さんと、関係があった。」

 

 ?

 

 「田中氏の会社が潰れた理由が、

  晶子さんが勤めてた保険会社が不渡りを出したからだと。」

 

 ……

 ん?

 

 「要するに、一種の連鎖倒産だな。

  後ろ暗い類の。」

 

 ……それって。


 「どっちみち計画倒産のつもりだったようだが、

  向こうはそう捉えないだろうな。

  晶子さんが美玖ちゃんの娘だと気づいていれば、なおさら。」

 

 逆恨み、か。

 ……どっちも、危ない。

 

 「俺は晶子さんを護る。

  お前はくれぐれも美玖ちゃんを頼む。」

 

 「……わかった。」

 

*


 けど。

 僕って、物理は頼りないんだよなぁ。

 ほんと、どうしよ。


 がちゃっ

 

 ……美玖は

 いな


 ぅぶっ!?

 

 「あ。

  あー、あはははは。

  あるかぁ、こういうのも。」

 

 な、な、なに余裕持っちゃってんのっ!

 

 「えー。

  だ、だって、ほら、妹だしさ。

  幼い頃は一緒にお風呂入ったじゃ

 

 「記憶まで捏造すんじゃないっ!」

 

 「えー。

  幼馴染ならあったって

 

 「ぼ、僕ら、

  そこまで近くなかったでしょっ。」

 

 「あーっ。

  そっれは言っちゃだめだよー。

  そんなゆーくんにはおしおきっ!」

 

 「うぶわっ!」


 た、タオル、

 タオル、ぜんぶ、いま、取っ

 

 「はぁーい。

  みっわくのサービスショットでしたぁっ。

  んっじゃねー、おにーちゃんっ。」

 

 ……

 

 ……

 

 や、ば、いっ

 は、ばなぢ、ででるっ……っ!?

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