第2話


「ともかく、コミュニケーションを取ろう。」


 情報がないことには、何もはじまらない。


「美玖のことだから、

 叔母さんと会話なんてしてないんでしょ?」


「そんなことないってば。

 わたしだっていいかげん28にもなれ……

 あぁ。」


 ……未来から来たと、認めざるを得ない。

 設定をずっと覚えて置けるほど、美玖は器用な娘じゃないから。 


「そーなんだよねー。

 このくらい15歳って、お互い一番気恥ずかしいっていうか、

 まぁ、わたしが内向的過ぎたんだけどね。

 ぶっくぶくに太ってきちゃったし、ほらほら。」


 ……いいから。

 膨らんだ肉をつまんで見せなくていいっての。


「28にもなってるなら、

 少しは家事能力もあがったんじゃないの?

 叔母さんを手伝ってあげたら?」


 ぽむ、と手を叩くと、

 

「……ぜんっぜん。」


「は?」


「だから、うち、汚部屋だったんだよ。

 それで寮、追い出されそうになったし。」


 ……あのね。


「生まれ変わったんでしょ?

 同じことを繰り返すつもり?」


「う゛っ。

 ……ゆーくんがやってくれたり」


「一回くらいは別にいいけど、ずっとだと意味ないよ。

 それに、こまめに動いたほうが

 少しは顎のたるみも減るんじゃ?」


「うぐっ!?

 ゆ、ゆーくん、ようしゃなさすぎっ。

 わたし、はるばる遠い未来から来たばっかりなのにっ。」


 あってたまるかそんな表現。

 ……時間旅行、か。


「っていうか、

 そんなガンガン言わなかったじゃないっ。」


 美玖、大人しかったもの。

 会話なんてほとんどなかったんだから。


「……。


 ふふっ。」


 ん?


「ううん。

 楽しいなって。」


 え?

 言われっぱなしなのがいいって、

 過酷な生活でマゾっけでも身に着けた?


「あはは。それもないわけじゃないけど、

 ずっと一人で生きて、一人で死んじゃったからさ。

 ずうっと好きだった人と、こんな風に話せてるのが、

 すっっごく嬉しいんだよ。」


 ……。


「うん。

 まずはお掃除から、だねっ。」

 

 ……不安しかないな……。


*


 美玖の叔母さん、松原晶子さんは、

 一見、地道な見た目の人だった。

 

 化粧は最小限に留め、服もファストファッション。

 ただ、安っぽくならないよう工夫している。


 「美玖の幼馴染だそうね。」

 

 「はい。」

 

 「……だから、かしら。

  最近、美玖、急に元気になったのよ。」

 

 さすがに時空を超えてきたとは言えない。

 しっかりした人っぽいから、

 生半可な説得では、絶対信用してくれないだろう。


 「詰まらなそうな顔してるより、

  ずっといいんだけどね。

  それで、何の用なの?」

 

 なるほど、実務的な人だ。

 なんとなく、同僚から煙たがられてそうな気もする。


 でも、いまは、


 (おねがい。


  おばさんを、

  たすけて……っ……。)


 繋がらないと、はじまらない。

 

 だと、すると、

 まずは、で距離を詰めるべきで。

 

 「実はですね、

  美玖のダイエットをお手伝い頂けないかと。」

 

 「どういうこと?」

 

 「健康な食生活と、運動、あとは睡眠ですね。

  残念ですが、いまの身体だと、苛められないまでも、

  あまり良い役回りにはならないかと。」

 

 「……それは、そうね。」

 

 「子どもの頃の美玖は、

  意思のすごく強い娘ではなかったので、

  その性格が同じなら、日常的な監視者がいるなと。」

 

 「……。」

 

 「お忙しいでしょうから、気づいた時で構いません。

  お気づきになった時に、目に止めて頂けると。」

 

 「……ええ。」

 

 「それと、ですね。

  晶子さんのRINE、交換して頂けないかと。」

 

 「……え?」

 

 「僕も毎日こちらを訪れられませんし、

  美玖の話だけでは、進んでいるかは分かりませんからね。

  データも改ざんされたら終わりですし。」

 

 「……随分、しっかりした子ね。

  中学生とは思えないわ。」

 

 親が独立するまで、

 仕事、手伝わされてたからなぁ。

 テンプレを覚えてるだけで。

 

 「……。

  そうね、わかった。

  ふふ、RINEの交換なんて、ひさしぶりね。」


 この一言で、

 晶子さんの人間関係、

 察するべき、か。


*


 「ゆーくん、すごいっ!」

 

 うわ、

 ぼよんぼよんしてる。

 こういう物体感がすごいな。

 

 これは、これで、悪くは、ない、

 とか、思っちゃいけないわけで。

 

 「叔母さんとの会話、

  十倍くらいになったよ。」

  

 「前は?」

 

 「『あぁ。』

  『そ。』

  『おやすみ。』

  

  これくらい?」

 

 ……お互い不器用すぎたってことか。

 確かに、晶子さんもコミュ強とは言い難い。


 「よしっ。」

 

 ぐっとまんまるい手を握った美玖は、

 急に腕立て伏せをはじめ、3回で挫折した。

 

 「お、おもっっ。」

 

 「いきなりは無理じゃない?

  でも、運動経験なさすぎだね。」

 

 「そ、そうなんだよね。

  この身体、この頃って、

  ポテチ喰って、p●xi●見て、tw●tt●r触って、

  ●小説見てウヘウヘして寝てただけだから。」

 

 陰すぎるな。

 

 「おさななじみものの、

  カッコいいオトコノコが出てくるやつね。」

 

 へぇ。

 

 「もう。

  ゆーくんのことだってば。」

 

 は?

 

 「10代のいたいけなわたしが、

  こんなからだしてちゃ、話しかけられっこないじゃん。

  その分、からだじゅうのすっみずみまで」

  

 ぞわっ!?

 な、なんか悪寒がしたんだけど。

 

 「あー、わかるわー。

  いっぺん死なないとぜったいむりだった。

  ねぇねぇ、あそぼ?」

  

 「●ングフィッ●でもやる?

  ハードコース。」

 

 「……子どもの頃からちょっとおもってたけど、

  わりと、意地悪だよね、ゆーくんって。」

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