第11話


 はぁ。

 なんか、めちゃくちゃつかれた。

 お爺様、思い込みが激しすぎる。

 

 でも、これで、

 一応は、すべて、解決した。

 

 田中洋二麻里の父親貞香母親は、会社法、証券取引法違反と、

 恐喝、殺人未遂数々の悪事容疑で逮捕されたし、

 晶子さんが勤めていた保険会社の役員たちも解任され、

 業務上背任、横領で起訴されることになるらしい。


 西本愛実さんは、やはり、田中麻里に恐喝されていた。

 中学の時に一緒に煙草を吸っていたことを、

 高校の進路指導にばらせば、特待生を取り消されると恐れてたみたい。

 

 西本さんの期末試験の結果が良かったことと、

 父さんが雇った爺のカネ弁護士が、田中麻里に無理やりやらされた線で

 高校の進路指導とし、お咎めなしとなったらしい。


 田中麻里も、恐喝と傷害罪で女子少年院送致になったし、

 二人とも、西本さんや美玖になにかをしてくることは

 ない、だろう。

 

 僕らは、収斂に、

 運命に、勝ったんだ。


 いまは、

 そう、思いたい。

 

 がこっ

 

 ……

 え。

 あれ?

 

 美玖の奴、珍しく玄関の鍵、かけてるな。

 いつもは、僕が帰る時、不用心に開けっ放しにしてるのに。

 

 しょうがない。

 鍵を差し込んで、

 

 がちゃっ

 

 ……

 

 ?

 

 あれ。

 

 いつもなら、ソファーを占領して、

 家庭用ゲーム機でゲームしてるのに。

 今日はPCゲームでもしてるのかな?

 

 って、

 いる、じゃん。

 

 「美玖?」

 

 寝てるのかな?

 

 ん……?


 「美玖……?」

 

 ふわぁっと。

 ゆっくり、二重瞼を、開いて。

 

 「!?」

 

 え。

 か、顔が、めちゃくちゃ赤くなってる。

 恥じらいの塊みたいな。

 

 (そそるような感じがいいの?)

 

 って、

 また、演技か?

 そうやって僕をからかうのもいい加減

 

 「……

  そ、そ、その、

  こ、これをっ。」

 

 ん……?

 

 てが、み?

 え??

 

 あ。開けろって?

 えーと。

 

 『前略

 

  やー、ゆーくん。

  

  この手紙を見ているということは、

  わたしはもう、この世にいないんだね。』 

 

 ……は??

 こんどは、なんの、ネタを

 

 『収斂仮説の先に行けたのなら、

  わたしが生きてしまった世界とは、

  違う世界に移動したはずだよ。

  

  そうすると、

  28歳で死ぬわたしは

  もう、いなくなる。

  

  たぶん、

  さっぱりと、消えちゃうんじゃないかな。』

 

 え゛

 

 そん、な。


 だから、だから、

 あんな、切なそうな顔をして

 

 『でも、ね。

  がっかりしないで。

  

  わたしはもう、死んでるんだから。

 

  それに、ね。

  

  わたしは、13年間、

  ずっと、ずっと、

  この瞬間に戻りたいと思い続けてたんだよ。

  

  わたしは、夢に見続けたゆーくんに逢えて、

  毎日、ゆーくんと話せて、そばにいられて、

  抱き合えて、体温を感じられて、

  ほんとうに、ほんとうに、

  涙が止まらなくなるくらい幸せだったよ。』

 

 ……っ。

 

 『ゆーくんの目の前にいるのは、

  13年前の、わたし。

  

  ゆーくんに、はなしかったのに、

  声をかけてもらいたかったのに、

  勇気がでなかった、わたし。

  

  でも、ね。

  

  28歳のわたしは、

  目の前にいるわたしに、

  ちゃんと、残ってる。

 

  だから、笑って。

  

  わたしが、

  ちゃんと、ことを、

  わたしに、してあげて。

  

  それが、

  それだけが、わたしの、願い。

  

  ゆーくん。

  わたしの、いとしいひと。


  ありがとう。

  

  じゃあ、ねっ。』

 

 ……

 なんだよ、

 なんだよ、もうっ……


 こんなの見せられて、

 感情、堰き止めておけるわけ、ないじゃないかっ……。

 

 ……っ

 ……


 だめ、だ。


 (だから、笑って。)


 泣いちゃ、だめだっ。


 ……

 ………

 残して、おいたこと、か。

 

 ……

 

 太ももを触られ、

 頬っぺたをねぶられて、

 首筋を舐められたら

 

 もう、あとは、

 

 「ぁっ!?」

 

 あ、あぁ。

 28歳じゃ、なかった。

 

 でも。

 

 「……みく。」

 

 「!

  は、はいっ!」

 

 う、わ。

 

 顔、真っ赤にして、

 涙、溜めながら、俯いてるのに、

 身体は、どうしようもなく、豊満で。

 

 ……

 そ、

 そそ…る……っ。

 

 僕は、ゆっくりとみくを抱き寄せ、

 薄いルージュの薫る唇を、そっと、奪った。


 みくの頬に、涙が、

 つぅっと、伝っていく。

 

 「……

  これが、

  美玖の、答えだよね。」

 

 「……

  はい。」

 

 ……

 っ!?

 

 「こう、しろって。

  ……ふふっ。」

 

 ……

 はは。

 ははは。

 

 ちゃんと、記憶が、あるんだ。

 でなきゃ、舌なんて、入れてこない。

 

 「ごめんね、みく。

  気づいてあげられなくて。」

 

 「……

  ちがい、ます。

  つたえなければ、わからないんです。


  わたしが、やれなかったことを、

  美玖ちゃんは、やってくれました。

  いっぱい、いっぱい、教えられました。」

  

 「……

  それは、僕も、かな。」


 ぬくもりが、あたたかくて。

 抱き心地のいいからだを、すこし、強く寄せると、

 みくが、小さく声をあげる。

 

 なつかしくて、

 うれしくて、

 泣きそうになって。


 「みく。」

 

 「……

  はい。」


 「こんな僕でよければ、つきあってほしい。

  これから、何が起こるか分からないけど、

  きみと手を取り合って、一緒に生きていきたい。

  

  どう、かな。」

 

 みくは、

 決壊した涙腺を必死に擦ったあと、

 

 「はいっ!」

 

 花開くような笑顔を浮かべた後、

 僕を、強く、抱きしめた。

 体温が僕の全身を優しく巡る。

 

 僕とみくは、お互いに残ったもの、

 お互いの知らないすべてを確認するように、

 離れがたく抱きしめ合い続けた。


 エッロいカラダなのに、

 瞳は透き通るように清純で、恥じらいが深くて、

 なのに、おかしなくらい積極的で、貪欲に求められて。


 「……

  そ、そのっ。」

 

 「う、うん。」

 

 「ま、まだ、

  美玖ちゃんに残してもらったものを、

  い、頂いて、いないのですが。」


 ん……?

 

 え、

 顔、ユデダコみたいに……

 

 ……!?

 

 「……っ。」

 

 そ、それはまだ、

 早いんじゃ、っていうか、

 なに、教え込んでくれてたんだ美玖っ!

 

 で、でも。

 

 「い、いいの?」

 

 「……

  お、お、

  おねがいしますっ。」

 

 そ、

 そう、なん、だ。

 い、意外に、そういう欲、深いのか。


 ……。

 はは。

 ははは。

 

 してた、よ。

 美玖。


 してる、よ。

 みく。

 

 僕は、

 ずっと、きみに。


 「……

  うん。

  一緒に、ふかく、繋がろう。」


 「!?

  は、

  は、はいっ……!!」


 ……ごめん、美玖。

 もんのすっっごく、そそる……っ。




逆行してきた幼馴染が妹になったら篭絡してくる

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逆行してきた幼馴染が妹になったら篭絡してくる @Arabeske

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