第5話


 <訴訟に踏み切ったら、

  いまさら、顔、青くしてきたわ>

 

 結局訴訟まで行ったのかよ。

 馬鹿だなぁ。

 

 <貴方のお父様、凄いわね

  訴訟書類一式、ぜんぶ用意してくれたわ>


 <コンサルタントですからね

  訴訟は慣れっこなんです>

  

 <ふふ

  ありがとう>

 

 <こちらこそ

  美玖の体調を管理して下さって>

 

 <それはこっちの台詞なんだけどね

  私、周り、見えてなかったな>

 

 <一人で扶養家族を養うのですから、

  当然でしょうね>

 

 <あら

  そういうところ、お父様に似たの?>

 

 どういうところ?

 

 <そうね

  貴方にお話しておくけれど、

  私、勤め先、替わりそう>

 

 え。


 あっ。

 

 なんて、ことだ。

 があったじゃないか。

 

 社内の人間関係なんて、

 会社は、辞めてしまえばいいだけだった。

 会社なんて、無限にあるんだから。

 

 視野が、狭すぎた。

 ……所詮、子どもの浅知恵か。

 

 <お父様にね、紹介されて

  いまのところより、お給料も良いし、

  から、ちょうどいいかなと>


 前兆は、もう、あったのか。

 それに気づかないフリをして、

 必死に自分を抑え込んでいたんだな、きっと。

 

 <おめでとうございます

  いまの会社より絶対いいですよ

  必ず、そちらに移ってください>

  

 動か、せる。

 晶子さんの、美玖の、

 運命を、変えられる。

 

 <あら

  お父様にも、同じことを言われたわ

  さすが親子ね>

 

 くっ。

 父さんにいいとこどりされちまったよ。

 ま、いいけど。


*


 勉強を見ながらの生活統制。

 果物中心の必要な栄養素のみ。

 適度な運動は勉強のストレス解消にもなる。

 

 受験合格後は生活を緩和。

 運動習慣を維持しながら栄養を調整。

 

 結果。

 

 「うわははははは。」

 

 またオッサン臭い叫びを。

 

 「だってだって、

  ほら、ほらみてよ。

  13号が入るんだよ、凄いスゴイ。」

 

 いわゆるLサイズのことね。


 身長163.2センチ。

 体重59.8キロ。

 

 胸はさすがに縮んだけど、バストサイズは大きくなり、

 胸以上に大きかったお腹まわりは凹み、

 まんまるだったお尻は輪郭を持つようになった。

 

 なにより。

 

 「やばいなわたし、

  もてちゃうかもしんないっ。」


 「また調子にのって。」


 ……正直、そうなってもおかしくはない。

 コミュ力高いし、胸も大きいし、

 

 「ほらほらほら、

  カラコン入れるとシム腐女子向け海外ゲームっぽくない?」


 ……整って、しまってる。

  

 「?

  ゆーくん、どーしたのー?」

 

 近い。

 

 もとから、近かったとはいえ、

 凹むところが凹み、目が開くようになっただけで。

 

 言えない。言えっこない。

 きみにドキドキするようになってしまった、

 だなんて。


 ……いや。

 美玖も、オンナだ。

 離れるタイミングと大義名分は、考えておかないと。


*


 <いまさら引き留められたけど、

  無視ね>

 

 <それが正解です

  絶対に辞めきって下さい>

 

 <あはは、そうね

  代行してくれる人を紹介して貰ったから

  そちらにお願いしたわ>


 よかっ、た。

 これで、フラグを消せる。

 

 美玖が児童養護施設に送られることもないし、

 高卒で終わることもないし、

 死ぬことも、ない、はず。

 

 高卒、か。

 成績、ちゃんと、

 引き上げないと、だな。


 <その

  あとで、連絡がいくけど、

  驚かないでね?>

 

 ?


*


 うわ。


 「悠。」


 「ど、どうしたの、父さん。

  に戻ってくるなんて、

  一年ぶりくらい?」

 

 「あ、あぁ。

  その、なんだ。」

 

 どうしよう。

 お互い、別にキライじゃないけど、

 なんか、緊張しちゃう。

 

 「お父さんな。」

 

 「う、うん。」

 

 「その、

  再婚を、考えてて、な。」

 

 「え。」

 

 「い、嫌か?」

 

 ……。


 あぁ。

 

 (他所の家の話だけどさー、

  酷い親だねー、ゆーくんの母親)

 

 たぶん、美玖がいなければ、

 こんな風に、言えなかった。

 

 「ううん。

  お父さんの人生だもの。」

 

 思ったより、依存してる。

 僕が、美玖に。


 だめ、なのに。

 

 「そ、そうか。

  それなら、良かった。

  

  その、だな。」

 

 「う、うん。」

 

 「明日、お前を交えて、

  向こうの家族と、

  食事会を開こうと思ってな。」


 「そ、そうなんだ。」

 

 「嫌か?

  嫌なら。」

 

 「大丈夫、だよ。

  大丈夫。」


 変わりたい。

 僕も、ちゃんと。


*


 え゛

 

 「やっほー、

  ゆーくーんっ!」

 

 お、わっ。

 

 「あはははは、

  いやー、わたしもびっくりしちゃってさー。

  まさか、こうなるとはねー。」

 

 う、うしろ。

 うしろ、うしろっ。

 

 「ど、え。

  し、知り合い、なのか?」

 

 「う、うん。

  あの、父さん、

  幼稚園の時、一緒だった入鹿山さん。」

 

 「あ、そ、そうなのか。

  全然、分からないが。」

 

 ウソでも知ってるって言わないとなのに。

 そういうとこだよ、そういうとこ。

 

 「ゆーくんっ。」

 

 「な、なに?」

 

 


  「おにい、ちゃんっ!」


 


 ぶっ!

 

 「あははは。

  うわーいっ!」

 

 ご、合計43歳の癖に、

 遊び方が小2なんだけどっ!

 

 「……

  貴方には、こんな感じなのね、

  美玖は。」

 

 「え、えぇ。」

 

 っていうか、晶子さん。

 髪整えて、化粧すると、それなりに見られるんだな。

 第一印象と偉い違いだ。

 

 「……

  ま、いいわ。

  ね、悠君?」

 

 「は、はい。」

 

 「……

  なんだ、

  知らないのは、俺だけだったのか?」

 

 うわ。

 父さん、ちょっと不貞腐れちゃってる。




逆行してきた幼馴染が妹になったら篭絡してくる

序章


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