第5話 画竜点睛4 うちは「貧乏」の暴力性 2

 前話に引続き、この論点にて。

 今回は、森川一郎氏の弁を御紹介します。


 この母親の問題点として、自分の家が貧乏であることを根拠として子どもらの要求とも言えぬおねだりを拒否というよりうっちゃることがままあったことを記されていますね。そのような言葉を用いて子どもらにあたる母親の問題点をしっかりと米河君は御指摘されている。それは大いに結構。

 さて、彼女はその点に関する限り悪人と言えるのだろうかとの問いかけに対し、私なりの所見を述べさせていただく。


 彼女のそのような弁は、確かに周囲によろしくない空気を拡散してしまう要素がある点については認めましょう。

 しかしながら、彼女が悪人であるならば、もっと違ったアプローチを子どもらに仕掛けていたのではないかと思われる。その言葉は、彼女が善人でなおかつある程度の教養があったが故の言葉ではないか。ある程度ということは、必ずしも高い教養があったとはお世辞にも申せない点が見られるからである。そこは米河氏の御指摘であるが、私もそれには異論はない。

 となれば彼女は善人であるということになろうが、善人であるが故に性質の悪い側面が見えてくるという。ただ、彼女はそのたちの悪い側面の与える影響について無関心であったとは思わないが、単純に不知であったのではないかという気がしてなりません。米河君のかねて仰せの「良く言えば無邪気、悪く言えば低能」を地で行くようなエピソードということになりましょうか。


 あくびは伝染すると言いますな。この貧乏という言葉も、形を変えて伝染する。

 その結果とでもいえるのが、息子さんたちの一見すんなりと前に進めていない青年期の状況につながったのではないかと米河氏は指摘されている。

 どちらも高校受験に失敗して1年間いわゆる中学浪人を経験し、さらには大学受験においても苦しみ、上の息子さんこそ後に薬剤師になられたが、下の息子さんは大学を早々に中退して実家に戻って会社員生活を徐々に送るようになったという。

 彼らのその結果を、母親の問題点が露呈したゆえであると米河氏は明に暗に指摘されているが、その背景には確かに、専業主婦として暮らしてきた母親の社会の狭さにあると言われれば、無下に否定はできんでしょうな。

 さらに米河氏はそのような母親の言動や姿勢が、後に隣家の弟一家と袂を分かつようになった遠因ではないかという指摘もされている。

 それだけが原因というわけでもないであろうし真相は不明としか言いようがないとはいえ、彼女が息子さんらや主人公の或作家氏に対してされていた言動が隣家の甥たちにも向っていたとすれば、さすがに自宅で自分の息子さんらに対するようには済まなかったことは想像に難くない。弟さんは何だかんだで社会人として働いていらっしゃったろうから、姉の社会の狭さを感じるような言動には辟易もしたでありましょう。まだ若い客人に過ぎぬ或作家氏でさえもそうなのだから。まして自分の息子らが伯母に余計なことを言われたあかつきには、そりゃあ、しまいには堪忍袋の緒も切れるというものでしょう。


 彼女の両親、子どもらからすれば祖父母がいた頃はまだ良かったろうが、その祖父母が相次いで他界してしまって後に互いに袂を分かつようになったのは、やはり母親のそのような性質が大きく絡んでいたという印象を、読者として読む限りでは受けざるを得ませんな。


 そして、或作家氏も増本さん宅が郊外に移転後は電話連絡こそ取ったことはあるものの実際にその地に行っていない。それが、その母親の性質が招いた、或作家の増本家との取るべき距離の「最終回答」だったのではないかな。


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養護施設創業者VS元入所児童 最終戦争Vol.3ー2 与方藤士朗 @tohshiroy

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