あれは「クサビ」か、それとも「クビキ」か?
第1話 カテイのクサビ 草稿より
論争再開に先立ち、たたき台となる「カテイのクサビ」への現段階での所感を関係者より聴取しております。
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森川一郎氏 談
これは米河清治氏の経験そのものではないにしても、この作品の経験自体をテキストとして論ずるに値するものであると考えます。
まず、この増本家が主人公の或作家氏に対して与えた影響という点につき。
或作家氏は「クビキ」であった可能性を述べておりますが、対手のメルジーヌさんの指摘通り、これは「クサビ」であったというのが妥当な解釈であろうと、現段階では思料しておるところです。
ところで、この増本さん宅の親父さんですか、私とは親子ほどの年齢差のある方ですが、実に物静かな方という印象を強く受けますな。それは図らずも彼の妻でもある増本家の母親の賑やかしさと子らへの一種の支配欲のようなものが併せ描かれているだけに、その親父さんの静的なたたずまいがかえってくっきり浮かび上がってまいろうというものか。
私自身はと言うとその親父さんよりもっと騒がしい習性を持っていたと思うが、静かに物を見極めていくその目力というのですか、その凄みを感じますな。
あの米河君も確かに騒がしさはないではないが、一方で黙って静かに何かしているような特性も併せ持っていますね。あの時代のよつ葉園では、彼のような人物を適正かつ適切に導く手法や技量が足りていたと言えぬのは、辛いところです。
米河清治氏 談
自らの作品ということで申し上げるのもなんですが、われながら自らが肌身で見聞きしたことを書いたかのような仕上がりになったかもしれません。
この母親のようなべったり感と母子一体性は、良くも悪くも息子さんたちに影響を与えていますね。ですが、あの親父さんがいないと、確かにこの家庭は崩壊の憂き目に遭っていたであろうこともまた痛感させられます。
私個人としましては、その親父さんを必ずしも全面的に見習いたいとは思っておりませんけれど、軸としてよく似たものを持ち合わせているなと感じると同時に、私自身はあのような形で家庭を持てないと思う次第です。
このテキストを書いた者が言うのも難ですが、ひとつ第三者としての目でじっくり読みなおしたうえで論争にあたって参る所存です。
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