万請負屋　石田光成

　石田は、徳川の世で、石田光成の名が災いして浪人となった身で、石田屋の主幸右衛門の遠縁である。石田が妻小夜の元に通ってくるのには訳がある。
　小夜は上州の郷士の娘で、借金の形(かた)で石田屋に奉公していたが、未払いの花代を取り立てて石田屋に届けた石田と小夜は互いに一目惚れし、石田が小夜の借金を肩代りして夫婦になった。その結果、小夜は石田屋の上女中になった。郷士の娘の小夜は読み書き算盤の才に長けていた。
　跡継ぎがいない主の幸右衛門は、ゆくゆくは石田と小夜に石田屋を任せたいと思い、小夜に石田と暮すよう家人用の部屋を与えて、石田屋の帳場を任せるようになった。
　だが、石田は小夜と夫婦になる以前から、隅田村の好意によって浪人仲間四人と共に隅田村の白鬚社の番小屋に暮していた。石田たちは隅田村の好意に…続きを読む