第4話(最終話)
気が付くと、
朝だった。
私は核ミサイルになっていた。
そして、
夏空を落下している最中だった。
マジで?
今度は核ミサイル?
苦笑しながら、
なんとか
自分の現状を
確認しようとしたが、
私は核ミサイルとして、
目標地点にぐんぐん
近づいているようだった。
すぐに、
見覚えのある風景が
見えてきた。
あのアパート。
あの原っぱ。
そして、
その原っぱには
あの鳩の骸が
静かに横たわっていた。
どうする?
どうする?
どうする?
私がテンパっているうちに、
もう、
あの原っぱは、
目の前だ。
このまま、
私が
着弾して炸裂すれば
私自身はもちろん、
この界隈一帯は、
壊滅状態だろう。
ジ・エンド!
あーあ、
結局私とは、
何者だったのだろう。
こんな訳の分からない
終幕を迎えるなんて、
よっぽど
日頃の行いが悪かったのだろう。
つまり
自業自得ってこと?
さようなら、私よ。
さようなら、世界よ。
またいつかどこかで
お会いしましょう。
そして、
私は核ミサイルとして、
その原っぱに着弾して、
全てが
木っ端微塵になったのでした。
ん?
あれ?
変だな?
核爆発が起きていない。
地震のような
衝撃は
あたり一帯に起こったようだが、
とにかく
核爆発は起きていない。
ただ、
バラバラになった
私の破片たちが
原っぱに散乱している。
どういうこと?
どういうこと?
どういうこと?
つまり不発?
私は、
バラバラになった
痛みに耐えながら、
最後の力を振り絞って考えた。
つまり、
私は核ミサイルでは
なくなっていたようだ。
そういえば、
この核ミサイルの開発者のT博士が、
昨夜、
私の中の部品をいじっていたっけ。
あれは最終調整ではなく、
おそらく、
この核ミサイルの開発者の
T博士の心の中に
人間としての最後の良心が
沸き起こって、
核爆発しないように
できるだけ爆発もしないように
秘密裏に改造していたのだろう。
遠のく意識の中で、
私はそう結論づけた。
よかった!
よかった!
よかった!
そして、
おそらく、
メビウスの帯のように
ねじれていた時空も
私がバラバラになった
さきほどの衝撃波で、
通常の時空に
戻ったのではないだろうか。
原っぱの周りには、
何が起こったのか、
確認するために、
人々が集まってきていて、
ざわついていた。
私の着弾による
死傷者はいないようだった。
そして私が、
イミテーションの
核ミサイルとしての
生涯を終えようとしていたとき、
朝日の眩しい原っぱの
私の破片の一つに、
何か
虫のようなものが
止まるのを
微かに微かに感じた。
私は、
最後の意識の中で
(逆に直感が冴えていたのだろう)
確信した。
あの天道虫だ!
おそらく、
鳩の骸の胃の中で
消化を免れていた
あの天道虫が、
私が起こした
さきほどの衝撃波によって、
奇跡的に、
鳩の骸の胃の中から
ひょこっと押し出されたのではないだろうか。
おお、
天道虫よ。
一度は私だった天道虫よ。
お前は生きていたのか。
生き別れた恋人に出会ったように
私は嬉しい。
おお、
こうなったら、
せめて私の分まで生きてくれ!
そして、
私は完全に
意識を失った。
もう二度と
ループする朝が
訪れることはなかった。
ループする朝 滝口アルファ @971475
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