SFならではの面白さが、これでもかと凝縮された作品でした。
読み終えた後、「シンギュラリティ」なんて、いかにも頭の良さそうな単語をつい口にしてみたくなる、そんなテーマ性もあるのがとても面白かったです。
そうは言っても、小難しい感じは全然ありません。導入から物語の大筋に至るまで、難しい設定とか理屈などは登場せず、スルスルと物語に入っていけるのも作品の大きな魅力です。
ストーリーは、ロボットと人間が共存している未来の世界。そこで起こった殺人事件を二人の刑事が追うというもの。
刑事の内の片方はロボット。もう片方は人間というバディ。ロボットのAIは完璧なもので、人間とまったく変わらない感情を持つのが普通になっている。
このように、ロボットが社会の中で重要な役割をこなし、かつその中で起こる殺人事件を追うと言うと、NETFLIXでアニメ化された浦沢直樹『PLUTO』なども彷彿とさせられます。
本作でもロボットたちに『心』が当たり前にあることにより、ロボットならではの心理的葛藤が描かれるという、とても興味深いテーマが展開されていきます。
「人間そっくりに心を持たせられることが、本当に完璧な『心』の創造となりうるか?」
「ロボットと人間では出自も違えば体の出来も違う。それなのに『心』だけが同じだったとしたら、それは本当になんの問題も起こさないのか?」
本作を読むことで、そんな問いが頭の中に浮かびました。
今まで議論されてこなかったその問いが浮き彫りとなり、それを軸として作品世界で起こった事件が紐解いていかれるようになります。
こうした新たな視点を提示してくたことが、何よりも素晴らしいポイントだったと感じます。
そして迎えるラスト。これまら「ありうる未来」という感覚が強く、思わず感嘆させられるものとなっていました。
すんなり読める構成とテーマでありながら、新しい視点を提供して深いテーマ性を見せてくれる、とても素晴らしい作品です。