第5話【俺の手柄は?】
「――はい、ではこの依頼で決定致しますね。」
「あぁ、よろしく頼む」
受け付けのお姉さんは依頼内容が間違っていないか最終確認を取った後、俺たちの名前を依頼の書かれた紙に書き足し、赤いハンコを押した。
スライムを3匹討伐するという依頼を遂に俺たちは正式に受ける事が決まったのだ。
遂に……遂にだ……っ!!今まで、俺は依頼を受けに行く父の背中を見る事しか出来なかった。
何度かついて行こうとした事もあったが「危ないから家にいろ」そう言われ続けて来た。
だがっ!!そんな過去の自分とは今日でさらばっ!!俺はこれからモンスターを討伐し、この町の人たちを守るんだ!!(まぁ倒すモンスターは被害のほとんど無いスライムだが)
それに、デスティニーレコードにも「スライムを討伐」と記されていたからこれはもう勝ったも同然!!あー気が楽だぜ!
「ちなみに皆さん、このヴェロッサ森の場所というのは――」
「あぁ、それは分かるから大丈夫だ。」
「そうですか、では行ってらっしゃいませ。」
「おうっ!!よし行くぞ!!」
「おーっ!」「……おー、」
こうして俺たち3人は初依頼の舞台へと歩いて行った。
♦♦♦♦♦
ヴェロッサ森、それは俺たちの居るフレイラの西出入口から続く砂利道をしばらく歩くと右側に見えてくる比較的木々の隙間はあるが、膨大な面積量があるという森だ。
木々の隙間が多い事もありこの森にはスライムやワーウルフ。小さなゴブリンの住処があったりもする。ここはオーガなどの大型モンスターを天敵とする下級モンスターにとっては理想的な場所なのだ。
――しかし、人間たちにとってそこにモンスターたちが多く生息するのは良いことでは無かった。
なぜなら、本来ヴェロッサ森は山菜などが生い茂る場所であり、その山菜を売って生活している人も居るからだ。最近では山菜を収穫中にモンスターに襲われたという事例も増えて来ており、ヴェロッサ森を対象としたモンスター討伐以来も増えて来ている。――――
「――と、こんなところだったでしょうか。」
そこで、一旦セリエラのヴェロッサ森の概要説明がストップした。――って、い、いくらなんでも詳しすぎないか……?こいつ、この町に来たのは確か比較的最近だろ?
「いや、十分過ぎると思うが、逆によくそれだけ知っていたな。」
「はい、まぁここら一帯の事はフレイラに来る前から学習していましたから。」
「さすがエルフって感じだねっ!なんにも考えてないハヤトとは大違いだよ〜」
くっ……ケティのやつめ……そんな俺が冒険者に賭けてる思いが無いみたいに言いやがって……
ふんっ!良いもんね!俺なんか今日無事にスライムを討伐出来るって知ってるもんね!!
「って、あ!!見えてきたよ〜あれじゃない?」
「ん?――お、」
するとそこで砂利道の向こうをケティが指さす。
その先を見てみるとそこには数え切れない程の木々が生い茂った森――ヴェロッサ森の姿が見えて来ていた。
「ここがヴェロッサ森だな」
「ずっと近付くなって言われてたから私少し怖かったんだけど……案外普通の森だね」
俺たちはヴェロッサ森の木々を切り開いて作ったのであろう砂利道を歩いて中へと入って行く。
そこは先程のセリエラの説明通りで、光もよく差し込みとても危険な場所だとは思えなかった。
「当然です。この森は少し前まで子供も山菜を取りに来る様な場所だったのですから。」
「――それが大型モンスターに追いやられた下級モンスターたちが住み着いたせいで、危なくなったって訳だよな」
「はい」
まぁモンスターにも事情はあるんだろうが――俺たちは人間、お構い無しに討伐させてもらうぜ――っと、
するとその瞬間、両サイドに生い茂る木々のうち左側から水色のベタベタとしたものが砂利道に姿を現した。
「早速姿を現したか……!スライム……!」
俺は直ぐに背中から剣を抜くと構える。
すると、スライム側もそれに応える様に更に木々の間から2匹のスライムが姿を現した。
これで3対3って訳か!!
「ほら!!ケティ!セリエラ!早く構えろ!!」
俺は後ろを向きながらそう叫ぶ。――が、
「って、ありゃ?」
そこに居たのはケティだけで、セリエラの姿は無かった。って、まさか……!?
その途端、パスパスパスンッ!!3回、何かが貫かれる音が聞こえる。
すぐに前を振り返ると、もう既にスライムたちは3匹ともベチャッと無気力に地面に広がり、湯気を放ちながら蒸発し始めていた。
「よし、討伐完了です。」
気がつくと左側の木の枝の上で弓を構えていたセリエラが相変わらずの無表情でそう呟く。って、
「おいぃぃ!?おいしいところ全部持ってくんじゃねぇよ!?ここはリーダーの俺が全部かっこよく切り伏せるところだろうが!?」
「おいしいところ、ですか。なら大丈夫ですよ。だってほら――」
するとそこでセリエラは俺の後ろに視線を向ける。
ん?なんだ?
すぐに俺はセリエラの視線の先を追いかけるとそこにはなんと更に5匹のスライムが木々の間から姿を現していた。
くっ……!!やっぱりそう都合よく3匹だけ現れて終わってはくれねぇよな……!!
よっしゃ……!!今度こそ俺が華麗に切り伏せて――
「ウォーターボール!!」
しかし、そうしようとした途端、それよりも先にケティが杖から水の玉をスライムたちに放ち、そのまま5匹とも全てを爆発させた。
「やったぁ!!ハヤト!!セリエラちゃん!!見た!?私倒したよ!!」
「おぉ、魔法のセンス、あるんじゃないんですか?」
「えへへ……私呪文の詠唱が苦手だったんだけど――杖なら無詠唱で良いって事忘れちゃってたよ〜」
「……はぁ、」
こうして手柄を全て2人に取られ、初めての依頼は幕を閉じた。(まぁ安全に、デスティニーレコード通り終わったからよしとしよう)
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