第11話【現実へと変わる】


「ケティさんッ!!うしろっ!?」


 ヴェロッサ森に現れたというワーウルフを討伐する依頼を引き受けた俺たち。

 無事目標のワーウルフを討伐でき、デスティニーレコードに記された「4月5日:ワーウルフ討伐にてケティが右足を負傷」が現実になる事も無かったと安心していたその瞬間、今まで一切感情を声に出さなかったセリエラが俺の背後でそう叫んだ。――――って、!?


「ど、どうしたっ!?」


 声が聞こえた瞬間、俺は一気に安心の中から引き離され、再び不安と緊張の世界に引き戻される。

 そこで後ろを向くと――


「……ッ!?」

「ぇ……?」


 そこには俺を追いかけて砂利道に出てきていたケティと、それをワーウルフの姿があった。


 って、!?なぜ……っ!?なぜワーウルフがまだ居るんだ!?1匹じゃなかったのか……!?


「避けてケティさんっ!!」

「避けろッ!!」


 とにかく、俺とセリエラはケティに届くよう声を荒らげた。いつの間にかケティの背後に居たワーウルフは俺が見た時には手を振り上げており、これから動いても絶対に間に合わないからだ。


「うぅ……っ!?」


 すると、なんとか俺たちの声は届いた様でケティも身体を横に倒し回避行動を取る。――が、今回のは気付くのが遅過ぎた。

 なんとかワーウルフの狙っていた胴体から攻撃を外すことは出来たが、代わりにの太ももからふくらはぎまでをざっくりとえぐられてしまった。


「ぎゃあああああああああっっっ!?!?」

「……ッ!?ケティっ!!」


 足から血をダラダラと流し、地面に倒れて悲鳴を上げるケティ。

 俺は直ぐに走り、ケティの方へ向かう――が、そんなケティに対してワーウルフはもう一度容赦なく、血で真っ赤に染まった腕を振り上げて追撃をしようとする。


「させません……っ!!」

「あうううんっ!?……」


 しかし、それは木の上で弓を構えていたセリエラが頭を矢で貫き、防止。ワーウルフを倒した。


「大丈夫かケティ!!――……ッ!?」


 俺は直ぐにケティに駆け寄ると、必死に声をかける。――が、

 

「痛い痛い痛い痛い痛いッ!!?!あづいあづいあづい!!」


 完全を足をえぐられ骨はむき出し、滝のように流れてくる血。そんな大怪我で大丈夫な訳が無い。

 ケティに俺の声など届かず、涙を流しながらひたすらそう叫ぶだけだった。


 なんで……?なんでこうなるんだよ……?俺はただ普通の冒険者ライフを過ごしたかっただけなんだぞ……?

 今までの人生を家族以外だとその次に共に過ごしてきた幼なじみの今まで見た事も無い様な悲惨な表情や声に俺は吐き気を覚え、今にも気を失いそうになりながらも必死に声をかけ続ける。


「ケティ!!大丈夫だ俺がついてるぞ!!――ッ!!そうだ止血……ッ!!」


 正直、俺がついているなんて自分で言える程自信は無かった。

 小さい頃の俺は父と似ず弱虫で、いつも泣いている様な子供だった。――でも、そんな時いつも「大丈夫?私が一緒だからねっ」ケティがそう励ましてくれた。


 ――だから……ッ!!たとえ自信がなくても、今すぐ目を逸らしたくなっても、今だけは強いパーティーのリーダーとして出来る事をしてあげるんだ……ッ!!


 俺は腰に付けていたバックから応急処置用の包帯とロープを取り出すと、まずは血を止める為に右足の付け根を強くロープで縛り、その後は包帯で足を巻いていく。


 正直、こんなやり方に効果があるかなんて分からない。けど、少しでもケティの力にならないと……っ!!


 包帯を巻き終わると俺はすぐケティに話しかける。


「包帯巻いたからなっ!!フレイラに戻ったら回復魔法を使える人間に治してもらおうな!!だから、今だけの辛抱だからなっ!!」


 出来るだけケティに心配をかけない様、笑顔で必死にそう問いかける。

 すると、対してケティも涙や汗でベタベタになった顔をなんとか笑顔にしてこう返してきた。


「ありがとう、ハヤト……ごめんね、私のせいで……」

「そんな……お前のせいじゃないだろっ!!」


 どれだけ……どれだけ優しいやつなんだよ……っ!!こんな時くらい自分の心配をしてくれ……っ!!

 だけど安心しろ、これからすぐに俺が連れて帰ってやるからな……!!


 俺はすぐに抜いていた剣をしまうと、ケティに背中を向けておんぶの体勢になる。


 ――がその時だ。


「ハヤトさん、どうやら厄介な事になった見たいです……」


 いつもの冷静さを取り戻したセリエラがそう言ってきた。


「厄介な事……?そんな事より今は――」

「聞いて下さい、周りの音を。私はエルフですからもう聞こえていますが、人間のハヤトさんでももう聞こえてくるはずです。」


 音、だと……?

 俺は目を瞑ると周りの音に集中する。

 すると――何かが今俺たちが居る場所に向かってきているのが分かった。


「なんだ……?この音は……?」

「きっと先程倒したワーウルフたちの仲間でしょう。――今朝発見されたのもたまたま1匹で居るところを目撃されただけかと」

「……ッ!?、マジかよ、」


 どうする……今すぐケティを背負って走るか……?いや、でも結局俺は人間で相手は強靭な筋肉を持ったワーウルフだ。ましてやひとり背負っている状態だなんて、セリエラはともかく俺とケティは絶対に追いつかれる。

 やはり、戦うべきか……


 俺は立ち上がると、再び剣を抜こうとした――その時、地面に倒れるケティが上半身だけをなんとか起こし、

 

「セリエラちゃんとハヤトで逃げて欲しい。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る