第12話【ブースト】


「セリエラちゃんとハヤトで逃げて欲しい。私が囮になれば、2人はなんとか逃げ切れるはずだよ。」


 ここにまだ大勢のワーウルフが向かって来ていると知ったケティは地面からなんとか上半身だけ起こすと必死に痛みに耐えながら笑顔を作り、俺に向かってそう言った。――って、な、何を言ってるんだ……?


「いや、そんな事出来る訳無いだろ!!」

「でも、それじゃ2人も怪我しちゃうかも――」

「……ッ!?」


 だから……なんでこんな時にまで他人の心配なんだ……ッ!!


「俺の心配はしなくて良いッ!!お前の事は――ケティの事は俺が守ってやるッ!!」


 俺はそこでケティに対し、そうセリフをぶつける。

 しかし、何故かその瞬間急激な目眩に襲われた。


 そして感じる、今言ったセリフ――「ケティの事は俺が守る」なんて今まで生きて来て一度も言って来なかったが、分かるんだ、俺は何度もこの言葉を言っている。

 この場面も――何度も経験している様な気がした。


 なんだ……この感覚……

 デジャブってやつか……?こんな時に気持ち悪いぞ。

 大体、今まで生きて来てこんな場面なんて一度も――


 思えばこの時、突然の目眩やデジャブに気がどうにかしていた。それは周りの事が考えられなくなるくらいに。

 ――しかし、そこで俺の意識をセリエラの声が現実に引き戻してくれた。


「ハヤトさん、来ますよ」

「――……ッ!!あ、あぁッ!!」


 くっそ……いきなりの気持ち悪い感覚に気を取られてた、危ない危ない。

 なんにしろ、今の目眩があっても無くてもやることはひとつだろうが……ッ!!


 ヴェロッサ森に居るワーウルフを全部ぶちのめして、3人でフレイラまで戻るッ!!


「……ッ!!来たなッ!!」


 すると、そこでヴェロッサ森の入り口とは反対方向の砂利道から何体ものワーウルフが走ってきているのが見えてきた。

 クッ……これを2回目の依頼で相手する羽目になるとはな。


身体強化ブーストッ!!」


 そこで俺は自分の身体能力を通常から魔力の力を使い引き伸ばす魔法――身体強化ブーストを使った。

 正直、俺は父と同じで冒険者の中では魔力量が低い。だから魔力をほとんど必要としない物理職についているというのもあるのだが。


 しかし、そんな俺たち物理職でも使用する魔法があるのだ。それがこの身体強化ブーストである。

 ――しかし、今言った様に俺は持っている魔力量が少ない、だから長時間この状態をキープする事は出来ない。故にここからはスピード勝負という訳だ。

 (まだ実力が無い今使いたくは無かったが、相手が相手だからな、仕方ない。)


「「うぉぉぉぉんっっ!!!」」


 するとそこで、俺の姿を捉えたワーウルフたちも鳴き声を上げ、狙いを絞って更にスピードを上げる。


「勝負だ――ワーウルフッ!!」


 それに合わせる様に俺も構えると、身体の底からふつふつと湧き出してくる力を足に集め、一気にワーウルフの方へ突撃して行った。



「はぁぁぁ!!っらぁッ!!」

「わぅぅんッ!?」


 っし!!まずは1匹ッ!!

 射程距離に入った瞬間、まずは1匹先頭を走っていたワーウルフの首を吹き飛ばす。

 やっぱり身体強化ブーストはすげぇな……!!昔父との模擬戦でしか使った事が無かったが、自分のとは思えないくらい力が湧き上がってくるぞ!!


 ――しかし、同時に一瞬足元がグラつく。やはりまだ体力不足か、もう既に俺の魔力は底を尽きかけていた。

 更に、勢いよくワーウルフの群れ飛び込む様に斬りかかったせいで、今俺の周りを何体ものワーウルフが囲んでいる状態だ。


「わうぅぅ……ッ!」


 俺を囲むワーウルフたちはいつ襲いかかろうかを見計らっている様に大きな口からヨダレをだらだらと垂らしながら、ゆっくりと動き、こちらを睨んできている。


「なんだよお前ら――こねぇなら俺から行くぞッッ!!!」


 だが、そんな時間すらも今の俺には惜しい。考えるより先に身体を動かせ……ッ!!

 俺はすぐに新しい標的を決めると、一心不乱に斬りかかって行った――――はずだった。


 ――が、なんとそこで魔力が底を尽き、身体強化ブースト状態が切れる。同時に身体に蓄積された疲労が一気に押し寄せ、俺はそのまま地面に倒れ込んだ。


「な、なんでだよ……」


 くっそ……なにがケティの事は俺が守るだ……結局群れの1匹を勢いで倒しただけじゃねぇか……


「わうぃぅ……ッ!」


 俺の周りを囲んでいたワーウルフたちがゆっくりと俺との距離を詰めてくるのが分かる。

 くそ……ここまでなのかよ――――


光の矢シャイニング・アロー

 

「「わうぅぅぅん!?!?」」


 しかし、死を覚悟したその瞬間、そうセリエラの声が聞こえ、その後すぐに周りを囲んでいたワーウルフたちが地面に倒れる音がした。


「――なにが……起きた……?」


 恐る恐る顔を上げる俺。するとそこにはケティを背負うセリエラの姿があった。


「大丈夫ですか?すいません、を使うか躊躇をしてしまいまして。ケティさんの止血が不十分だった部分は私がしました。」

「……ッ!?」


 すぐに周りを見渡す、そこには何体もの蒸発していくワーウルフが。全匹死んでいる。が、頭に矢は刺さっていない。一体どうやって……?


 だが、どちらにせよこうしてワーウルフが死んだんだ。

 本当に良かった……これでケティは助かっ――――


 しかし、そこで俺の意識も闇の中へと落ちて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る