第3話【パーティー登録】


「でさぁ〜、セリエラちゃんってエルフ族だから実はもう何百年も生きてるんだって〜!ね!セリエラちゃん!」

「はい、まぁエルフにしたらまだまだですよ」

「ふぅん〜!って、ねぇハヤト?聞いてる?」

「――ん?あ、あぁ!すまんすまん!少し考え事しててな、」


 それから、幼なじみのケティとその隣に居たセリエラとの3人で話し始めたのだが――俺は先程から全然、会話が頭に入って来なかった。


 その原因はもちろん、この手に持つ「デスティニーレコード」だ。

 本当に一体なんなんだこの本は……未来予知魔法的なやつなのだろうか……いや、でもそんな魔法聞いた事が……


 第一、そんな魔法を本に写し出すなんて神業、この町にいる人間が出来るなんて思わんが……

 俺たちが住むこの町フレイラは、決して大きい訳でも無ければ小さいという訳でも無い。いたって普通の町なのだ。


 すると、次の瞬間デスティニーレコードの事で頭がいっぱいになっていた俺にケティが――


「で、さっきからずっと気になってたんだけど、その手に持ってる本ってなに?」

「え!?」

「いや、さっきからずーっとその本の表紙見てるなーって思ってさ。デスティニー、レコードって言うの?」


 固まる俺に顔を近付け、手に持つデスティニーレコードの表紙を見るケティ。

 って、だ、ダメだ!!こんな物見せたら絶対気持ち悪がられるに決まってる!!


「こ、これはなんでもないから大丈夫!!」

「大丈夫じゃないでしょ〜?良いからぁ〜幼なじみのケティに見せなさいっ!!」

「うぉ!!ちょ、――」


 しかし、なんとケティはそのまま俺の持つデスティニーレコードを取ると「一体ハヤトがそんなに必死になって隠そうとしていた本には何が書いてるのかな〜?」昔からイタズラをしてくる時によくしていた悪そうな顔でにししと笑いながら1ページを開いた。


 ――その中に書かれている文章がおそらくこれから起こる出来事だと知らずに。

 ダメだ……この不気味な本にケティも巻き込んでしまう……


「……ッ」


「って、あれぇ?なぁんだほんとに書いてないじゃん」

「――え?」

「本当ですね。紙は全て古くなっていますが、白紙です。」


 ど、どういう事だ……?


「ちょ、ちょっと返してくれ」

「う、うん、勝手に取ったりしてごめんね」


 そうして急いで先程未来の出来事が書かれていた1ページ目を開く。まさか――あの時のは見間違え……?


「……ッ!!」


 しかし、俺が見るとそこにはしっかりと

 

 4月1日:ケティ、セリエラと仲間になる

 4月2日:初依頼でスライムを討伐


 先程と変わらずその文章が記されていた。

 という事は……この文章はケティやセリエラその他大勢には見えなくて、、自ら購入した俺にだけ見える。という事か……?で、でもそれならとりあえず……!!


「ほ、ほらな?だから言っただろ。これはそのあれだ――これからの出来事を記録しようと思って買ったんだよ。」

「日記って事?」

「まぁそんなとこだ」

「へぇ〜ハヤトってそういうのすぐ飽きちゃうタイプだと思うけどな〜まぁ良いや」


 ふぅ……なんとかバレずに済んだ……


 ♦♦♦♦♦


「でさ、ハヤトってまだ誰ともパーティー組んでないの?」

「ん?あぁまぁな。というか、そのメンバーを探しに冒険者ギルドへ来たんだよ」


 使用武器の登録をしに来たという訳でもあるが。

 あれから会話の中には一切「デスティニーレコード」という単語が出てくる事は無く、自然とパーティーの話の流れになった。


「そうなんだね。――あ、実はって言うか分かると思うけど、私はセリエラちゃんと組む事になったよ!!誘ってくれたしね〜」

「そうなのか」

「ねぇ!ハヤトも入ってよ!」

「え?」

「確かに、ハヤトさんなら剣ですし、ケティちゃんの遠距離魔法、私の弓とは相性が良さそうですね」


 そこで俺は先程受け付けお姉さんに言われたセリフを思い出す。


 『――距離から攻撃出来て相手にスキを作る事の出来る冒険者の方を仲間にするのがおすすめですよ。』


 ま、まさかここまでドンピシャな2人だとはな……

 これじゃ本当にデスティニーレコードの通りになるじゃないか。


 ――まぁでも、良いか。別に悪い内容が書かれた訳でも無いしな。それに、決められた未来通りに進めばきっと普通の冒険者ライフを送れるだろう。うん。

 だから俺は、


「そうだな、確かに相性良さそうだし。良いぞ。パーティーを組もう。」

「お!やったぁ!ハヤトと同じパーティーだ〜!」

「おう、改めてよろしくな。――セリエラもよろしく」

「はい、よろしくお願いします。」


「じゃあ2人はここに居て〜!私今からパーティー登録して来るから!」

「あいよ」「了解です」



 ――そして無事パーティー登録が終わり、その日の夜。

 俺は新しい自分ひとりの家の寝室でベッドへ横になりながら天井を見上げ、考え事をしていた。


 (今俺が居る家は母が買ってくれた物だから――早くいっぱい依頼で稼いで返していかないとな。だからこそ明日は――)


 4月2日:初依頼でスライムを討伐


 デスティニーレコードの通りに行けば明日俺たちはスライムを討伐する。

 なんか、こうして改めて考えてみると予め成功が決まってるってすごく気持ちが楽だな!!


 デスティニーレコード、最初は気持ち悪いと思っていたけど、案外悪い物でも無いのかも?いや!絶対良いものだなこれは!だってこんなのチートじゃねーか!


「じゃ、寝るかね。おやすみ」


 そうして俺は誰に対してという訳でも無くポツリと呟く。



 ――この時はまだ知らない。俺がこれからどれだけデスティニーレコードに苦しめられるのかを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る