第15話【出会いの今朝】


 翌日4月13日、いつもの様に目を覚ました。


「ふぁ〜、」


 昨日の夜は色々な事を考えていたからか中々寝付けなかったな。今日は無理し過ぎず、特訓は少し緩めにするか。


 俺はベットから上半身を起こすと、隣に置いてあるデスティニーレコードを開く。

 これは相変わらず1日の始まりにする日課だ。


 ――すると、今日は4行目となる新しい文章が記されていた。それは――


 4月15日:ウェイリスと知り合う


「良かった、今回のは依頼関連じゃないぞ……」


 危なくない、誰も怪我をしない。と俺は心の中で胸を撫で下ろした。

 でも、それにしてもウェイリスと知り合うって……さすがに今回ばかりは無いだろ。


 ウェイリス――フルネームはウェイリス・ワンドール。

 これはこの町で1番実力もあり、累計討伐件数も多い言わばフレイラのエース的な冒険者の名前だ。

 もちろん、等級も上級下位とフレイラ唯一の金の板(上級を意味する)の付いたネックレスを付けている人物でもある。


 確か主に魔法を使用した戦い方をしていて、魔法に関しては周りの町の上級冒険者たちと比べてもトップに肩を並べるのだとか。


 ――それに対して俺はこの町の冒険者の中でも魔力量はトップクラスに低く、だからと言って剣術をマスターしているという訳でも無い。

 身体強化ブーストを数十秒も持続出来ないような下位下位冒険者だ。


 普通思うか……?この真反対の2人が知り合うなんてよ。

 絶対思わないだろ。それに確か、ウェイリスは今遠くの王国へ遠征に行ってるんじゃなかったか?俺たちが早朝にしかギルドに居ない事が多いから他の冒険者たちと知り合わないというのもあるかもしれんが、顔見知りになる事すら不可能だろ……


「全く、デスティニーレコードもいい加減な出来事を記すもんだな。」


 知り合えたらめちゃくちゃ凄いが。

 今回のは逆にそうなって欲しかったけど結局違うかったパターンとかになりそうな気がするぞ。

 まぁでも、とりあえずは本当に誰かが怪我をするみたいなのじゃなくて本当に良かった。


「じゃあ今日も朝食を食べて特訓するか」


 そうして俺は今日も今日とていつも通りの生活を始めて行くのだった。


 ♦♦♦♦♦


 そしてそれからなにかがあるという訳でも無く2日が経ち、4月15日になる。

 だが、今日俺にはウェイリスと知り合うという事よりも嬉しい事があった。


「大丈夫か?無理するなよ」

「明日でも大丈夫ですからね」

「もぅっ、数日前から普通に歩けてたんだから大丈夫だって」


 早朝、俺たち3人は冒険者ギルドに向かう。

 そう、遂にケティの足の怪我が完治したのだ!本当に……本当に良かった。


「もう……絶対にあんな事にはならないようにリーダーとして頑張るからな……!!」

「私たち、ずっと特訓をしていましたから前よりは心強くなってるはずです。」

「うんっ!私もハヤトとセリエラちゃんに遅れた分、早く巻き返さないとなぁっ」


「でも、いきなり無理も良くないから今日はスライムとかの弱いモンスターの依頼を受けような」

「分かってるってばぁ」


 そんな会話を歩きながらする。冒険者としては当たり前の日常なのかもしれないが、この時間がすごく幸せに感じた。

 やっぱりこれだよ。前も言ったが、俺は別に世界を救う様な英雄になりたいという訳では無い。


 確かに、いざ英雄になってみればそれは気分が良くて世界中の人たちから称賛されるのかもしれないが、俺みたいな普通の人間がそうなれるなんて到底思わないしな。

 ――だから、ほんとに普通の。どこの町にでもいる様な冒険者ライフを送る。


 そうして依頼を受け、誰かを安心させたり、誰かの支えになれればこれほど良い人生なんて無いと思う。

 だから――これからもずっとこんな毎日が続けば良いな。改めて俺はそう思った。


 

 そうこう話しているうちに冒険者ギルドに到着する。


「じゃあ入るか」

「はい」「うんっ!よーし、久しぶりの依頼頑張るぞぉっ!」


 よし、じゃあ俺たちの冒険者ライフ再開だッ!!

 俺は勢いよく扉を開け、ギルド内に飛び込んだ――


「うぁっ、!?」

「痛っ、!?」


 途端、俺は扉のすぐ前に立っていた冒険者とぶつかってしまった。

 う、うぅ……まさかこんな早朝に冒険者が居るなんて思わなかったぞ、これは相手に悪いことしたな。


 俺は顔を上げると、相手の顔を見て謝ろうとする――が、そこですぐ気が付く。


「すま――って、!?お前、!?う、ウェイリス、さん、ッ!?」


 危ない危ない、咄嗟にさんを付けて良かったぞ。冒険者界隈では上下関係厳しいってよく聞くからな。――じゃなくて!!


「ほ、本当にあのウェイリス・ワンドールさんなのか……?」

「いや、まだウェイリス自分の名前名乗ってもないんだけど……」

「あ!?今自分の事ウェイリスって言った!!!」


 俺は今目の前に立つピンク色の髪の毛に白いリボンで結んだ地面に着きそうなくらいに長いツインテールに黒を基調とした貴族の様な服装、そして等級が上級である事を意味する金の板が付いたネックレスを首にぶら下げる女性に対し1人で勝手に盛り上がる。


 昔父が「ウェイリスの髪色はピンクだから分かりやすい」と言っていた事があったからもしかしてとは思ったが、まさか本人とは……ッ!!(父とウェイリスさんの関係性は謎)

 マジでデスティニーレコードに書いてあった通り知り合っちゃったよ!?(まだ互いに挨拶もしてない)


 すると、そこで完全に置き去りにしてしまっていたケティとセリエラが会話に入ってくる。


「ねぇ、この人がウェイリス、ちゃん?有名人かなにかなの?」「私も知りません」

「ほんとに言ってるのか……!?この人はな――」


 そこでウェイリスさんの存在を知らない2人に簡単に説明をすると、


「えっ!?そんなに凄い人なんだ!!」

「私もまさかそこまでの人とは思いませんでした。」


「さっきはウェイリスちゃんなんて言ってごめんなさいっ!」わたわたと頭を下げながら謝るケティ。


「いやいや、別にウェイリスの事はどう呼んでくれても大丈夫だから気にしないで〜」


 そんなケティにもウェイリスさんは全く気にしている様子は無く、微笑すると優しくケティの手を握る。

 すごい……!これが上級冒険者の余裕というやつなのか……!!


 しかし、そこで俺の頭の中にひとつの疑問が生まれた。


「あれ?でも確かウェイリスさんって前遠くの王国へ遠征に行ってた気がするんだが」


 冒険者の間で確かちょっと前に話題になってたぞ、「今中級モンスターが数体同時に出現したらめんどくさい」とか何とかってな。


 しかし、対してウェイリスさんはまるでそれが当然かのようにこう返してくる。


「ん?あぁ、確かに行ってたわ。それでさっき帰って来たのよ。あっちでの依頼を全部速攻で片付けてね。」

「速攻って……」


 やっぱり上級冒険者、恐ろしいぞ……


「――で?貴方たちは?名前。」

「あぁ、そういえば名乗り忘れてたな。」

「私はケティ!ケティ・サリオーレント!!よろしくねっ!」

「私はセリエラです。よろしくお願いします。」

「よし、最後は俺だな。俺はハヤト・クレプスキュールだ。よろしくな。」


 そうして俺たちは3人とも名前を名乗る。

 まぁ、俺たちみたいな底辺冒険者の名前なんて別に覚える必要も無いと思うが――


「あ、あぁ……!?」

「ん?なんだ?」


 しかし、何故か俺の名前を聞いた瞬間、ウェイリスさんは驚いたのか目を見開き、


「クレプスキュールって、ツバメさんの……!?!?」


 何故か俺の父の中を呟いた。

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