第1章2部【ハヤトたちの成長編】
第14話【あれからの日々】
4月5日:ワーウルフ討伐にてケティが右足を負傷。という文章がデスティニーレコードに刻まれ、そして実際に起こってから数日が経った。
あれから俺たちは一度も依頼を受けてはいない。理由は簡単、右足に大怪我を負ったケティが戦える状態では無いからだ。
今はもう普通に歩く事は出来るようになったが、まだ復帰は数日後になるだろう。
――それにしても回復能力の高い上級の治癒ポーションを使ってもこれだけ完治までが長いんだ、もし治癒ポーションなどが無い世界なら……考えるだけでも気持ち悪くなってくるぞ。
そして、対して怪我を負った訳では無い俺とセリエラはひたすら特訓をしていた。
正直前の件で思ったのだ、やはりまだまだ自分には実力が無いと。
特に魔力量の問題。まさかあそこまで
だから、まずはその体力、魔力量を増やさないとな。(まぁセリエラはもちろんの事ケティも魔法をマスターしている訳では無いから正確な魔力量の増やし方なんて分からないが)
――たしか
今の依頼をしていない時間、もちろんモンスター討伐の依頼を受けることは出来ない(誰かが欠けた状態で依頼を受けることが出来るのは安全面などで中級下位以上。)
だから、薬草集めや山菜狩りなどの安全な依頼を度々受けてはいるんだが、それでも全然お金は集まらない。
――どの道、そろそろ依頼に復帰したいなと思ってるな。
あ、そうそう。それでこの期間に俺は改めてこの未来に起こる出来事が記されていく謎多き本「デスティニーレコード」の今分かっている情報をまとめてみた。
まず、本の名前はデスティニーレコード。まぁこれは分かるな。作られた年代などは書かれていなく分からないが、表紙や紙の色落ち具合的に最近の物では無いだろう。
そして次に重要などのタイミングで次起こる出来事が記されるかだが、それはその日を含めた3日後。
だから例えば今日が4月1日だとすれば4月3日に起こる出来事が記されるという感じだとこれまでの記された日にちから割り出した。
そして、これは前から分かってはいたが、記された出来事が起こるとどうやらその文章は黒から赤に変わるらしい。
これは予告された出来事が起こって確定の意味を持つ赤文字なんだろうか?
待てよ……?じゃあ黒文字の時はあくまで予告で絶対に起こるという訳でも無いって事か?それならまだ希望が持てるが。
それで最後はこのデスティニーレコードに記された文字は黒文字も赤文字も関係無く読めるのは俺だけってとこか。
これらが今俺が分かっているデスティニーレコードの全てだ。
――まぁ正直なところこれが分かったからと言って別になにかがあるという訳でも無いし、やる事もこれまでと一緒で「悪い出来事」が起きると分かった場合はそうならない為にひたすらに強くなる。ってとこだな。
とりあえず、これらが今の俺の現状だ。
「――はぁっ!!」
「おっ、今の攻撃良かったですよ。今日はこのくらいにしましょうか。」
「そうか……?それは良かった。だな、今日はこのくらいにしておこうか。」
「――じゃあ、行きますか」
「だな」
そして、今日も変わらずセリエラと共に特訓をしていた俺はそこで一区切りを付けると、いつもの様にある場所へと向かった。
♦♦♦♦♦
いつも特訓をしている空き地から約徒歩5分。今俺が1人で住んでいる家よりも実家に近い場所にケティの家はある。
ケティはまだ一人暮らしはしていなく、両親と共に暮らしているのだ。
コンコン
俺は木の扉をノックする。
赤いレンガの小さなどこにでもある様な家。それが昔から何度も行ったケティの家だった。
しかし、ケティが怪我をしてから、この見慣れた家を見るのが心做しか辛い。
ガチャ
するとノックから数十秒後、扉が静かに開くと中からケティが顔を覗かせた。
おそらく今まで寝ていたのだろう、薄いピンク色のパジャマ姿だ。
「あ、すまん。寝てたか?」
「いやいや!全然大丈夫だよっ!今日も来てくれたんだね!ハヤト!セリエラちゃんっ!」
「あぁ」「私たちは毎日来ますよ」
そう、ケティが怪我をしたあの日から毎日、俺たちはこの様に特訓終わりの夕方にケティのお見舞いに家まで行っていた。
「ありがとっ!2人とも中に入ってっ!お父さんもお母さんも今は居ないから気にしなくて大丈夫だよ!」
「今日も酒場か?」
「うん、頑張ってる」
ケティの両親はフレイラの中でも古株の酒場で働いており、最近はケティが冒険者としての仕事を出来ない分、生活費を2人が働く量を増やしているらしい。
なんか、そういうのを聞くと余計に申し訳なくなるよな……
「ごめんな、俺色んな人に迷惑かけてるよな、」
俺はそこでケティに謝る。
しかし、対してケティはきょとんとして、
「それは……ハヤトが私たちのリーダーだから?」
「えっ、?ま、まぁそうだな……」
「それなら、何度も言ってるけどさ、ハヤトが気負う必要なんてどこにも無いって。だって結局は私があの場面で周りを気にしてなかったのが悪いんだし。ね?」
「ま、まぁ」
「でもそれは私も思いました。」
そこでケティの言葉に便乗する様にしてセリエラもこう言ってくる。
「――確かに、あの時ケティさんが怪我をしたのは私やハヤトさんがいち早く別のワーウルフの存在に気づいていなかったから、というのもある、ましてや私は2人と違って耳の良いエルフ。もっと先に気づけていたかもしれません。」
そこは本当に私も反省しています。
言葉にはしないがそう思っている事が表情から分かる。
しかし、「ですが、」セリエラはそういうと次の言葉を言った。
「結局はケティさん自分自身の責任でもあるんですし、ハヤトさんがそこまで気負う理由がよく分かりません。もしかして、
「……ッ!!」
その言葉を聞いた時、俺の頭の中にイナズマが走った様な感覚に陥った。
……確かにそうだ。なんで俺はこれだけ気負っているんだ……?
別に「俺がケティを突き飛ばしてケティが怪我をした」という訳でも無いだろう。
俺がリーダーという事を度外視するにしても、普通は先程セリエラが言っていた様に俺よりも耳の効くセリエラの方が「ワーウルフの存在に気づけなかった」と気負うはずだ。
じゃあなぜ……?
そこで頭に浮かんでくる可能性などひとつしかない。
……デスティニーレコードだ。
俺は本来は知るはずもない未来での出来事を前もって知り、そしてそれが現実になったから「防げなかった」「変えることが出来なかった」とその出来事をあたかも「自分が招いた事態」の様に感じているのかもしれない。
しかし、それは絶対に違う。きっとこうして俺がデスティニーレコードを通じてケティが怪我をするという事を知っていなくても同じようになったはずだ。
それは予め決まっている事だから……?
待てよ……?じゃあ未来は変えられないのか……?一度
でも……じゃあなぜ実際に起こるとその出来事が記された文章は黒文字から赤文字に変わる……?あれは予告が確定に変わったという印では無いのか……?
……未来は――どう足掻いても変えられないのか……?
「う、うぅ……」
「だ、大丈夫?ハヤト?体調悪そうだよ?」
「今日の特訓で無理をし過ぎたのですか?」
「だ、大丈夫だ。心配するな。」
はぁ……ますますこの世界の事、そしてデスティニーレコードの事が分からなくなって来たぞ。
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