第2話【予告された出会い】


「よし、良い買い物が出来て良かった」


 剣を買った後、俺は武器屋の前でそう呟く。

 ――それにしても、


「この本、本当になんなんだろう?」


 デスティニーレコード。武器屋の中でホコリを被っていた本。俺はなんでこんな物がどうしても欲しくなったんだ?

 というか、何が書いてるんだよ。


 そこで俺は近くのベンチに座ると1ページ開いてみた。

 ――が、なんと古びて黄ばんだ紙には二行しか文字が書かれておらず、更に残りのページも全てが白紙だったのだ。


 しかも、その二行に書かれた文章は、


「4月1日:ケティ、セリエラと仲間になる。、4月2日:初依頼でスライムを討伐。――って。なんだ?これ。」


 4月1日。それは今日の事だ。そして4月2日にスライム討伐って……誰かの日記か何かか?

 俺は一瞬そう考える。が、次の瞬間それは違うという事に気付いた。


 それは最初の4月1日の方。ケティ、セリエラと仲間になる。

 セリエラという人間は知らないが、ケティというのは俺の幼なじみの名前だった。


 そういえばあいつも冒険者試験を受けるとか前会った時言っていたよな……?

 女の子なんだから無理するなと注意はしたんだけどな――まぁそういうところも可愛いが。――って!今はそんな事どうでもいいだろう!!


 なぜ、この本に俺の幼なじみの名前が書いているんだ!?しかも日にちだってタイミング良く今日だし。

 この時、『まるで俺が今日この本を手にする』と決められていたかのように思え、俺は背中に悪寒を感じた。


「どうする……?この本捨てるか……?」


 正直、こんな不気味な物持っていたくない。

 だけと……自ら貰った物だしな。


「はぁ」とため息ひとつ吐くと、俺は再び冒険者ギルドの方へ歩き出した。


 実は冒険者登録の中に「主な使用武器」という物があり、それを記入するとその武器に合った仲間の構成や依頼を教えてくれるらしい。


 ♦♦♦♦♦


 それから俺は剣を担いでデスティニーレコードを手に持ったまま(いちいち家に帰るのは遠いし疲れる)冒険者ギルドへと入った。


「あ、武器を買ってきたんですねハヤト様」


 中に入ると、入り口のすぐ正面にある受け付けのお姉さんがそう話しかけてきた。


「あぁ、冒険者として自分の武器持って無かったからな。だから使う武器も冒険者情報に登録してもらおうと思ったんだよ」

「なるほど、そうすれば相性の良い冒険者の方も見つけやすいですしね」

「あぁ、そうだ」


 ――まぁ、このデスティニーレコードに書いてる通りに行くと今日ケティとセリエラと仲間になるらしいが。


「では、使用武器は――その背中に背負っている剣と、その手に持った本は――」

「あぁ!?ち、違う!!この本は魔導書とかじゃない!!だから登録しなくて大丈夫だ!!」

「そ、そうですか。では使用武器は剣と登録しておきますね」

「あぁ、頼む、」


 はぁはぁ、こんな意味の分からない本を持ってるなんてバレたら絶対ヤバいやつに見られるよな、、とりあえず帰ったら外には絶対出さないようにしよう、、


「――はい、登録が完了しました。ハヤト様の剣は通常よりリーチが長い代わり、重量の重いタイプです。ですので遠距離から攻撃出来て相手にスキを作る事の出来る冒険者の方を仲間にするのがおすすめですよ。」


 そうして冒険者情報に使用武器を追加し終わると、お姉さんは俺の名前や身長体重、使用武器などが書かれた紙を見せながらそう説明してくる。


 なるほど、確か俺の父のパーティーも魔法使いや弓使いがいたような……

 よし、少し探してみるか。


「ありがとう、じゃあこれを参考に探してみるよ」

「はい、他にも困った事があればなんでも」


 そうして受け付けから離れると、俺は一度ギルド内を見渡した。

 そこには俺と同じく今日晴れて冒険者になったであろう人間たちが、パーティーを組むためにそれぞれが数人の塊になって話している。


 俺も、この中の誰かに入るのか。

 そんな事を考えていた時だ――


「――あ!ハヤトーーっ!!」

「ん?」


 急に後ろから名前を叫ばれる。

 ま、まさかな……?

 そうして俺は恐る恐る振り向く――と、そこには、


「やっぱりハヤトだ!!合格したんだね!?私もだよ〜!」

「ケティさん、あの人が先程言っていた?」

「うんっ!幼なじみのハヤト!」

 

「ま、マジか……」


 ケティともうひとり、クールな顔立ちの女性が立っていた。


 ♦♦♦♦♦


「お、お前……ケティだよな?」

「え?そうだよ〜?まさか少し会わない間に忘れちゃったかな〜?」


 ケティは長いブロンズヘアをたなびかせ、優しい水色の瞳でこちらを見つめながらそう言ってくる。

 

「い、いやそういう事じゃ……そっちの人は?」


 そこで俺はケティの横でこちらを緑色の鋭い瞳で見てきているもうひとりの白髪ショートの女性に視線を向けた。

 

「この人はね〜さっき私にパーティー組もうって声を掛けてくれたちゃん!」

「セ、セリ――そ、そうか。」

「うんっ!この子エルフ族なんだって!!」


 い、いや……エルフだというのは髪色や耳の長さを見れば大体分かるが……そんな事よりも今は「デスティニーレコードに出てきた名前の人間が都合良く目の前に現れた」という事実で俺の頭の中はいっぱいだった。

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