【02】地下室に滑り込む。
部屋にもどって、自力で風呂に入り、何事もなかったかのように着替える。
そのタイミングで。黒髪の侍女・ナデラが部屋に入ってきた。
「お嬢様、申し訳ありません。時間通りに来たつもりですが、遅刻でしたでしょうか……!?」
「いいえ! いいのよ! 気にしないで!!」
「えっ……。ああ! 申し訳有りません!!」
「いいのよ、いいのよ!! ホント!」
前世(仮)でおばさんがよく言ってそうなセリフになった。まあいいか。
ナデラの顔がめっちゃ困惑してる。
だろうね!!
「あ、そうだ。ちょっと行くとこあるから! 朝食はあとで部屋でもらうって両親には言っておいて!!」
「は、はい……!!」
まるで、幽霊でも見たかのような顔のナデラを置いて、私は保身のため、地下室へとダッシュした。
ミューラああああ、とりあえず、ミューラをなんとかしないとおお!!!
◆
地下室をヒールで駆け降りると、怯えた顔でガエルとミューラがこっちを見た。
そりゃそうだろうよ!! ごめんなあ!!
「ちょっとガエル!! なによその食事は!!」
私はガエルに怒鳴った。
「は、はい……ミューラ様のお世話をするようにと言われたので……」
「それは貴方の食事でしょう!? それに使用人の食事をミューラに出すつもり!?」
「はい!?」
「ええ!?」
ガエルとミューラが困惑する。
「とにかくガエル、それは自分の部屋に持ってって自分で食べなさい! こんな変なこと頼んで悪かったわ! あとでもっとちゃんと謝罪するから! この事はもう気にしないで! 無理だろうけど!!」
「は……はい……?」
私はガエルの背中を押して、帰らせた。
しばらくすると、気を取り直したミューラから言われた。
「エレナ、私をここから出して……」
「うん、いいよ」
「えっ」
「いや、もともとそのつもりで来たし」
いやーほんと、鞭でぶっ叩く前で良かったよ。
あれだけはまじでやばい。
勇者ブチ切れだったもんな。
あの時の勇者の目が忘れられんわ、怖い。
そして私はミューラの前で土下座した。
――媚びろ!! 私!! 正統なる後継者様に!!!
「エレ……ナ……? なに、してるの?」
「ゴメンナサイ」
「えっ」
「今回のこともそうだし、今までの事全部。許してもらおうという甘えはないわ。でも、ごめんなさい」
ジョリジョリ。
私はひたいを、床にこすりつけて謝る。
「ちょっと!? エレナ!! あなたの顔が!! やめて!!」
うわ……暴力まで振るった相手を心配するミューラ……なんて良い子なの!? 聖女かよ。
「わかったわ……ありがとう。……あ、そうだ手足の拘束を解くわね」
「う……うん」
ミューラの背後にまわり、縛られている手足の縄をほどいていく。
その際に後頭部の怪我を確認する。
うあー。血濡れてるー!! すいません、本当にすいません!!
「後頭部が腫れてる。勇者様一行のなかに、多分治療師がいるでしょうから、あとで頼みましょう」
ミューラなら絶対治療してもらえる!!
手足が自由になったミューラは少し手足をプラプラっとさせた。
……なんだその仕草。可愛いな!
「……でも、エレナ、本当に一体どうしたの?」
ミューラは状況に慣れてきたのか、ドン引きから、警戒は残してはいるものの、キョトンとした顔になっている。
私はミューラの肩に手を置き、真剣な瞳で語った。
「……えーっと、目が覚めたの。急に。自分が目茶苦茶悪い人間だってことがね。あなただって心の中では私のこと、蔑んでたでしょう!?」
「あ……まあその……えっと……えっと……」
なんか言いづらそう!!
相手が謝ってくると強く出れない、根っからのお人好し善人だな!?
その時!
階段を駆け降りる激しい足音が!!
キター!! ヤバいヤツがー!!
「ミューラ!! 大丈夫か!!」
ミューラを心配しつつ、勇者は彼女のそばにいる私を睨んだ。
「あっ。エドガー」
「お、おそようございます、勇者さま」
うわー、目が怖いー! すいませーん!!
「聞けば使用人に言って、君がミューラをここに閉じ込めたそうだな……」
「アッ ハイ!! でも、もう解放するとこでした! 思い直したので!!」
「嘘をつくな、今だってミューラに暴力を振るおうとしてたんじゃないのか!」
「あ、エドガー。それは違うわ。エレナは本当に私の縄を解いてくれてたのよ。ほら」
自由になった手足を見せるミューラ。
「……え」
肩透かしにあう勇者。しかし勇者は怯まず私を追い詰める! 当然だ!
「だが、どうしてこんな地下に拘束を……!! この件は通報させてもらうからな……!」
通報はやばい。違う私がやったこととはいえ、これは今の私がやったことではない!
なんとか回避しなくては!!
い、言い訳……言い訳ぇ……。
「実は……私……ミューラのことが好きなんです!!」
ああああああ!?
「ええ!?」
「ああ!?」
自分でもおかしいと思いつつ口が止まらない。
「もうね、出会った瞬間から恋に落ちてしまって! でも私ちょっと恋愛表現が歪(いびつ)で!! 変な趣味思考で!! 愛情表現がおかしかったわ!! ごめんなさいね、あなたに振り向いて欲しかったのミューラ!! それなのにあなたの大事な人が男爵家にやってきちゃって、連れて行かれると思っちゃって!! つい、地下室に隠してしまったわ! でもこれって私の愛なの!!(ゴリ押し)」
「えええ!?」
「嘘をつくな!? ミューラ、本気にするんじゃないぞ!!」
「嘘じゃないわ!! ミューラ好きぃ!!」
私はミューラの肩をガシッと掴むと、そのまま――。
「あ……っ?」
キスした。 むちゅって音した。
「これからは……大事にするから」
私はミューラに囁いた。
「うあ……!?」
顔が真っ赤になるミューラ。
「………、……、……」
凍りつく勇者のパーソナルスペース。
3秒後、ミューラを私からひったくり、怒鳴る勇者。
「無理やりキスしておいて大事もクソもあるかあ!?」
「あ……やだ、私ったら思い余って! でもそういうことだったんです! 信じて下さい!」
「信じられるか!? あっ!! ミューラの後頭部から血がでてるじゃないか! ミューラ大丈夫か!!」
「あ、うん、ズキズキするけど……でも今は何故か唇のほうに心臓があるみたいに熱くて、ドクドクしてるの……何故かしら。なんか、変な感じ……」
恥じらうように唇をそっと隠すミュ……
ミューラぁあ!?
「ミューラ!! それは気の所為だ!!」
なんだか必死な勇者。ご、ごめん!! 私のこれからの生活がかかってるので必死になりすぎました!
とりあえず、地下牢から出よう、という事になり、私達は階段を登ったが。
勇者はミューラの手をひき、なんかブツブツ言ってた。
「……女同士だからノーカン……女同士だからノーカン……」
……なんか……ホント、ごめん……。
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