【02】地下室に滑り込む。

 部屋にもどって、自力で風呂に入り、何事もなかったかのように着替える。

 そのタイミングで。黒髪の侍女・ナデラが部屋に入ってきた。


「お嬢様、申し訳ありません。時間通りに来たつもりですが、遅刻でしたでしょうか……!?」


「いいえ! いいのよ! 気にしないで!!」


「えっ……。ああ! 申し訳有りません!!」


「いいのよ、いいのよ!! ホント!」


 前世(仮)でおばさんがよく言ってそうなセリフになった。まあいいか。

 ナデラの顔がめっちゃ困惑してる。

 だろうね!!


「あ、そうだ。ちょっと行くとこあるから! 朝食はあとで部屋でもらうって両親には言っておいて!!」

「は、はい……!!」


 まるで、幽霊でも見たかのような顔のナデラを置いて、私は保身のため、地下室へとダッシュした。


 ミューラああああ、とりあえず、ミューラをなんとかしないとおお!!!




 地下室をヒールで駆け降りると、怯えた顔でガエルとミューラがこっちを見た。


 そりゃそうだろうよ!! ごめんなあ!!


「ちょっとガエル!! なによその食事は!!」


 私はガエルに怒鳴った。


「は、はい……ミューラ様のお世話をするようにと言われたので……」


「それは貴方の食事でしょう!? それに使用人の食事をミューラに出すつもり!?」


「はい!?」

「ええ!?」


 ガエルとミューラが困惑する。


「とにかくガエル、それは自分の部屋に持ってって自分で食べなさい! こんな変なこと頼んで悪かったわ! あとでもっとちゃんと謝罪するから! この事はもう気にしないで! 無理だろうけど!!」


「は……はい……?」


 私はガエルの背中を押して、帰らせた。


 しばらくすると、気を取り直したミューラから言われた。


「エレナ、私をここから出して……」

「うん、いいよ」

「えっ」


「いや、もともとそのつもりで来たし」


 いやーほんと、鞭でぶっ叩く前で良かったよ。


 あれだけはまじでやばい。

 勇者ブチ切れだったもんな。

 あの時の勇者の目が忘れられんわ、怖い。



 そして私はミューラの前で土下座した。

 ――媚びろ!! 私!! 正統なる後継者様に!!!


「エレ……ナ……? なに、してるの?」

「ゴメンナサイ」

「えっ」

「今回のこともそうだし、今までの事全部。許してもらおうという甘えはないわ。でも、ごめんなさい」


 ジョリジョリ。

 私はひたいを、床にこすりつけて謝る。


「ちょっと!? エレナ!! あなたの顔が!! やめて!!」


 うわ……暴力まで振るった相手を心配するミューラ……なんて良い子なの!? 聖女かよ。


「わかったわ……ありがとう。……あ、そうだ手足の拘束を解くわね」

「う……うん」


 ミューラの背後にまわり、縛られている手足の縄をほどいていく。

 その際に後頭部の怪我を確認する。

 うあー。血濡れてるー!! すいません、本当にすいません!!


「後頭部が腫れてる。勇者様一行のなかに、多分治療師がいるでしょうから、あとで頼みましょう」


 ミューラなら絶対治療してもらえる!!

 手足が自由になったミューラは少し手足をプラプラっとさせた。

 ……なんだその仕草。可愛いな!


「……でも、エレナ、本当に一体どうしたの?」


 ミューラは状況に慣れてきたのか、ドン引きから、警戒は残してはいるものの、キョトンとした顔になっている。

 私はミューラの肩に手を置き、真剣な瞳で語った。


「……えーっと、目が覚めたの。急に。自分が目茶苦茶悪い人間だってことがね。あなただって心の中では私のこと、蔑んでたでしょう!?」

「あ……まあその……えっと……えっと……」


 なんか言いづらそう!!

 相手が謝ってくると強く出れない、根っからのお人好し善人だな!?


 その時!

 階段を駆け降りる激しい足音が!!


 キター!! ヤバいヤツがー!!


「ミューラ!! 大丈夫か!!」


 ミューラを心配しつつ、勇者は彼女のそばにいる私を睨んだ。


「あっ。エドガー」

「お、おそようございます、勇者さま」


 うわー、目が怖いー! すいませーん!!


「聞けば使用人に言って、君がミューラをここに閉じ込めたそうだな……」


「アッ ハイ!! でも、もう解放するとこでした! 思い直したので!!」


「嘘をつくな、今だってミューラに暴力を振るおうとしてたんじゃないのか!」


「あ、エドガー。それは違うわ。エレナは本当に私の縄を解いてくれてたのよ。ほら」


 自由になった手足を見せるミューラ。


「……え」


 肩透かしにあう勇者。しかし勇者は怯まず私を追い詰める! 当然だ!


「だが、どうしてこんな地下に拘束を……!! この件は通報させてもらうからな……!」


 通報はやばい。違う私がやったこととはいえ、これは今の私がやったことではない!

 なんとか回避しなくては!!


 い、言い訳……言い訳ぇ……。


「実は……私……ミューラのことが好きなんです!!」


 ああああああ!?


「ええ!?」

「ああ!?」


 自分でもおかしいと思いつつ口が止まらない。


「もうね、出会った瞬間から恋に落ちてしまって! でも私ちょっと恋愛表現が歪(いびつ)で!! 変な趣味思考で!! 愛情表現がおかしかったわ!! ごめんなさいね、あなたに振り向いて欲しかったのミューラ!! それなのにあなたの大事な人が男爵家にやってきちゃって、連れて行かれると思っちゃって!! つい、地下室に隠してしまったわ! でもこれって私の愛なの!!(ゴリ押し)」


「えええ!?」

「嘘をつくな!? ミューラ、本気にするんじゃないぞ!!」


「嘘じゃないわ!! ミューラ好きぃ!!」


 私はミューラの肩をガシッと掴むと、そのまま――。


「あ……っ?」


 キスした。 むちゅって音した。


「これからは……大事にするから」


 私はミューラに囁いた。


「うあ……!?」


 顔が真っ赤になるミューラ。


「………、……、……」


 凍りつく勇者のパーソナルスペース。

 3秒後、ミューラを私からひったくり、怒鳴る勇者。


「無理やりキスしておいて大事もクソもあるかあ!?」


「あ……やだ、私ったら思い余って! でもそういうことだったんです! 信じて下さい!」


「信じられるか!? あっ!! ミューラの後頭部から血がでてるじゃないか! ミューラ大丈夫か!!」


「あ、うん、ズキズキするけど……でも今は何故か唇のほうに心臓があるみたいに熱くて、ドクドクしてるの……何故かしら。なんか、変な感じ……」


 恥じらうように唇をそっと隠すミュ…… 

 ミューラぁあ!? 


「ミューラ!! それは気の所為だ!!」


 なんだか必死な勇者。ご、ごめん!! 私のこれからの生活がかかってるので必死になりすぎました!


 とりあえず、地下牢から出よう、という事になり、私達は階段を登ったが。


 勇者はミューラの手をひき、なんかブツブツ言ってた。


「……女同士だからノーカン……女同士だからノーカン……」


 ……なんか……ホント、ごめん……。


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