【15】魔力封印
アネット先生は言葉を続けた。
「それと、何より喜ばしいことがありましたよ。ハミルトン家に魔力の血脈はないと聞いていたのですが、先ほど判定したところ、ミューラさんには魔力がありました。魔法のお勉強もされたほうが良いと思います」
「なんと。引き取った時に、孤児院の院長はないと言っていたのだが」
「あとから発現することもありますから……聞いたら1年以上は判定してなかったようですし。卿さえよろしければ魔法の授業も――」
その時、たまたま同席していたエレナが、そこで泣き始めた。
「私、そんな風に先生に褒められたことがない……。ぐすっ……。やっぱり、私よりもミューラのほうが跡目にふさわしいんだわ……優秀だもの……。そ、それに魔力まであるなんて……。私にはないのに!!」
「おお、エレナ。そんな事はない。先生、エレナのほうがミューラより優秀でしょう?」
アネット先生はしばらく間を置いた後、言った。
「いえ、どちらが優秀かというお話ではなく……。エレナさんも、ちゃんと授業を聞いて予習復習もすれば優秀となれるポテンシャルはありますよ」
「ほら、エレナ。エレナも優秀だと先生は仰ってるよ。大丈夫だよ」
アネット先生は優秀だとは言っていないが、そう受けとってなだめる男爵。
「それって今はバカってことじゃない!! うああああん!! 私は、跡取り娘なのにミューラより下なんだわ!!」
エレナがそれに納得するはずはなかった。
「(この教師……!! お父様とミューラの前で私を貶めるなんて!!)」
エレナの手で隠した下の顔は、怒りの形相(ぎょうそう)だった。
そして、アネット先生は言ってしまった。
「馬鹿だなんて言ってませんよ。……ただ、そうですね、この際だからお伝えしますが、エレナ様はもう少し……その、話を聞いてくだされば、と思います。彼女の欠点はそこですので。独自性が強いと申しますか。そこを改善して頂ければ――」
「わあああ!! やっぱりミューラのほうが優秀なんだ! 私のほうがずっと先生と勉強してるのに! 私が平民の血筋だったからそんな事言うのね!」
「先生、見損ないましたぞ! 貴女がまさかそのような差別指導をなさっているとは!」
「……まあ!! 私はそんな差別は致しません! 私は彼女たちがより良い令嬢になれるようにと指導をしております。そんなことを言われるなんて、心外ですわ……!!」
先生が席を立った。
「(ああ……これは)」
ミューラはもう先が見えるようだった。
「謝罪がないようでしたら、今日これ限りで辞めさせていただくわ。ここへの家庭教師も元々はぜひにと頼まれたから来ていたのですから。
「先生……」
ミューラはその先生をすがるように見た。
「ごめんなさいね、ミューラさん。でもあなたなら、どんな先生に教えられてもきっと良い令嬢になれるわ」
……と、男爵とエレナによく聞こえるように言って退席した。
それを聞いてさらに、泣きわめくエレナとなだめる男爵。
「一体、どんなおべっかを使って先生を懐柔したんだ、ミューラ」
「私はなにも……」
「違うわお父様、きっとミューラが本当の貴族の血筋だからよ……。そして私は……どこの馬の骨かわからない女性の子……私はこの男爵家にふさわしくないの……」
「エレナ! そんなことを言うんじゃない! 誰がなんと言おうと! お前は私の子どもだ!」
「お父様……。そんな事してはいけないわ。それより……私も魔力が欲しい……」
後日、信じられないことに。
ミューラは、魔力封印された。
理由は、ミューラだけ魔力があるのはエレナが可哀想だから。
ミューラの肩には魔力封印の小さな魔法陣が描かれた。
呼ばれた封印師も、不思議な顔をしていた。
「……こんなの、おかしいよね。おかしいんだよね」
ミューラは、これが当たり前だというハミルトン家の方針に心が飲まれないよう、自室でそう呟いた。
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